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第二十三話 神守司の真実と、日向の決断



「日向、日向!」

 游虎は、部屋で血を吐いたまま、動かない日向を見て。

 呆然とした。


「どうして?」

 零にもどったはず。

 翠に、なおされたはず。


「日向?」

 なのに、その身体は、ぴくりとも動かない。

 冷たく、脈すら、うまく確認できない。


 日向の身体は、游虎の思った以上にボロボロだった。


「どうしよう、日向、どうしよう」

 呆然と、日向の手をにぎって、意味もなくきょろきょろと周りを見て。

 ただ、目の前のことを飲み込めないでいた。


 そのとき――

 バサバサッ

 

 突然、開いた窓から灰色の鳩が現れた。

 その鳩が、鳴いたとたん。


 バンッ

「失礼する!」


 扉を勢いよく開けた、灰色の髪の青年が現れた。


「日向! よかった、まだ間に合う!」

 その青年の正体を、游虎は知っていた。


「いまさら、龍ちゃんの、付き人が来たって……」


「地獄を治める、迦楼羅 游虎さま。突然の訪問をお許しください。この、神守司、自らの神を守るため、北より参りました」

 そう、走り寄りながら言った司は。

 大きな荷物を床に下ろした。

 

 北の旅から帰ってきて、そのままここに来たようだ。


「日向は、助かるんだろうな」

「助けます」


 司は、荷物のなかから、白い薬をとりだした。


「おれは、日向、きみのために生きてきた」


 そうつぶやいて、倒れた日向の手をとった。


「絶対、助ける」





司は、いつかくる今日、この日までの葛藤を思い出した。


数年前。

自分に力がなかったとき。

帝が襲われ、世界が不安定になったとき。

阿修羅の守人である神守の家系の、司たちは、龍神の血の気配をたどって、名古屋までやってきた。

しかし、その過程で、両親は死獅によって死に、命からがら逃げ伸びた司は。

その先で、記憶を失った龍神――いや、朝日奈 日向と出会った。


それから、道場でかくまわれ、一緒に時を過ごした。

けれど、まだ九歳で、”器”として完成するまえにやってきた日向は、

阿修羅の力を制御することができなかった。

その度に、司は、”阿修羅をおさえる”黒い薬をのませていた。

その薬が、日向の命を削るものだとわかっていても。

司には、それしかできなかった。


そして、巨大な死獅が、愛知国に現れたあの日から。

運命は変わってしまった。


桜屋敷に、首にかけてた布袋の封印を渡すのも、本当はイヤだった。

封印を日向に使うのは、帝の意思とは違うから、本当はしてはいけないことだったから。

司は知っていた。

帝が、大阪の畜生と、九州の地獄の、2人の抑止力になるために、日向の封印を未完成にしたことも。

もし、日向の阿修羅を封印してたら、日向は数十日後には死んでしまうことも。

日向は、器としては、まだ未熟だった。


どれだけ零にもどったとしても、日向自身が気づけないほど、身体は酷使されていた。

だからいま、日向は、死にそうになっている。


こうなることが、わかっていた。



「だから、日向、きみを助けるために、学んできたんだ!」


 司は、日向の真っ赤にそまった心臓に手をあてる。

 日向が、桜屋敷の部下に決まったとき。

 四守の血を絶やさないため、と呼び出されたとき、司は聞いた。

「神を、人間にすることはできますか?」と。


そして、司は東北で、完全な封印と、解放を学びにいった。




 東北の学び舎では、死獅を使って実験を何度も行った。



「神守、おれはお前を恨んでる。龍ちゃんをここまでしたのも、お前らが、あいつ(帝)の意志で組織だっていることも。だから、失敗したら、お前を殺す」

 游虎は、鋭い眼でそう言った。


「ああ、わかってる」

 そう、守り人は、帝のカゲであり、その意志を反映する者だ。



四守や、神守と呼ばれる”守り人”は、

帝が天の神と契約して、魂を六つにわけ、六師外道を生み出したときより、ずっと昔からいる存在。

神と人を繋ぐものだった。

それは時代によって、陰陽師や呪術師と呼ばれもした。


時代が進み、”守り人”は、六師外道やその子孫を見守り、監視する役割を担った。

六死外道の存在が、世界のことわりを崩そうとしたときは、

真っ先に殺す役割でもあった。


関東の守り人は言った。

― 汐見さまを命に代えて守り、そして、汐見さまがまちがえた方向に進んだときは、この関東州の正義のために、命に代えて、彼女を殺す役目をもってる -

その言葉が、誠だった。


殺す方法は多くない。

黒い液体を飲ませ、内側から壊す。

黒い武器で殺す。この武器で斬られた、六死外道の存在は、再生しない。

そして、最後に、輪廻を断つ。


本来、六師外道の子孫とは、相入れない、死神のような存在だった。

けれど、司は、日向を助けたい、と思ってしまった。


本来の役割を超えた司は、その役割を越えたことを、学んできた。


「帝の命をもつ、現人神の日向を、普通の人間に――」



六師外道の力から解放する方法を探して。

そして、見つけたのだ。


それは、真っ白な薬。

それは、桜屋敷楓ののんでいた薬と同じでもあった。

身体機能を著しく低下させるけれど、中の血を消すことができる。


 ふいに、背後を確認した司。

 部屋には、もう遊虎はなくなっていた。

 それを確認したうえで、小さく息を吸った司は、意を決したように言った。


「東北で、きみの育ての親――帝様にお会いしたよ」

 司は、静かに笑った。


「帝様は、生きておられたんだ」


 そう言って、

「日向、これを大量にのめば、きみはもう”阿修羅”にはなれない」

 白い薬の蓋を開ける司。


「その”阿修羅”の魂は、天に昇り、きみは”器”ではなくなる」

 ゆっくりと、日向の口を指で開いた司。


 そのとき――


 その手に、冷たい手が重なった。


「え、日向!?」


 ゆっくりと、目をひらいた日向は、小さくほほ笑んだ。


「……だめ」


 その言葉に、司は、息をのんだ。





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