第十八話 会者定離
蒸気機関車が汽笛を鳴らす。
中部州から東北州までを結ぶ、【五〇号】。
その黒い車体に、多くの乗客がのみ込まれていく。
日向は、止めない。
楓は、なにごともなく、いつものような表情で背を向けると、蒸気機関車へ向かっていく。
金色の三つの菊のついた簪に、嫉妬した。
楓が誰にも触らせずに、ただ何処へでも楓と共にいけるあの簪に、嫉妬した。
「楓」
振り返らない楓に、なんとか、笑った。
なぜかわからない。
もう二度と、会えないような気がしたから。
だから、なんとか泣かないように無理矢理笑った。
わたしは、大丈夫。
「またね」
その声に、一度だけ立ち止まった楓は、そのまま振り返ることなく、中へ消えていった。
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「会議をはじめる」
名古屋城の最上階で行われたのは、これからの黒菊軍の”天下統一”までの道筋について。
黒菊軍は五〇隊から編成されて、一つの隊に一〇〇人の精鋭がそろっている。
会議室の円になった席に座っているのは、その一番隊から三〇番隊の隊長と副隊長までだ。
そして、遊虎のとなりに、補佐の西豪と、日向が座っている。
遊虎の計画は、以前日向に話した『子孫』を仲間につけることだった。
より詳しい話がされていくなか、まるで現実のように思えなくて。
あまり話に集中できないでいた。
「これから、龍が、関東へ向かう。特別編成した【関東訪問隊】は、明日、出航する」
補佐の西豪の言葉に、日向はハッと背筋を伸ばす。
遊虎の編成した【関東訪問隊】は、関東州の”人間道”の魂をもつ、子孫に会いに行くんだ。
時はどんどん流れていく。
人が追いつけないほどに。
◆
会議を終えて、一人岐路に着く。
家に帰れば、灯りがついていた。
驚いて扉をあければ、そこには、父の慶次と母の蘭がいた。
「父さん! 母さん!」
叫んで、走り出した。
そして、目の前で手を広げる二人に、
「久しぶり」
と、なんとなく恥ずかしくなって、間近で見上げた。
「日向、おかえり」
こらえきれなくて、二人に、ぎゅっとだきついた。
久しぶりの暖かさを感じて、心が、やっと、安らいだ。
久しぶりにゆっくり家族との食事をする。
まるで、死獅が現れる前の頃のような、あたたかい空間に、肩の力を抜く。
それでも、となりに、司はいない。
話を聞けば、二人は、この数日間の記憶があまりないらしい。
これも、遊虎の力かもしれない。
大勢の市民をどこかへ移動させ、その間の記憶をも操ることができるなんて、本当に人間業じゃない。
「日向、大丈夫?」
そう呼ばれて、日向は困ったように笑った。




