第十二話 思わぬに添う
「日向は、おれたちは神様さ。運命共同体なの」
遊虎はそう言って笑う。
ぎゅっと力強くだきつく遊虎に戸惑いながらも、日向は、その背中に手をまわした。
「龍ちゃん、会いたかった」
「ずっと探してくれてたんだね、ありがとう」
遊虎は、日向の兄だと言う。
「遊虎は、ぼくの、お兄ちゃんなの?」
「くくくっ お兄ちゃんってはじめて言われた!」
肩をゆらして笑った遊虎は、しばらく笑うと、あーあ、と真っ暗な目で空を見る。
「マジで殺さなきゃ」
その深淵のひとみに、鳥肌が立った。
「龍ちゃん、まじでなんも覚えてないもん、それって、あいつの力がまだ働いてるってことでしょ?」
遊虎の言ってることが、よくわからない。
「だ、だれを殺すの?」
「帝だよ」
空気が、止まった。
「え、え? 帝さんは、もう死んじゃってるんじゃ」
「緋毀の馬鹿が、やり逃したんだ。おれも最近まであいつの力で記憶を消されてたけど」
頭が混乱する。
「え、じゃあ、帝さんは生きてるの!?」
「おれや緋毀が龍ちゃんのことを思い出せたくらいだから、相当弱ってるとは思うけどね、生きてるよ、あのクソ野郎は」
そう話す遊虎の眼は、別人のように鋭かった。
「な、なんで遊虎はそんな帝さんのこと嫌うの? ぼくらを育ててくれたんでしょ?」
そう言えば、ハッと乾いた笑いをこぼす遊虎。
「龍ちゃんは、ほーんとにいつまで経ってもお馬鹿だねぇ」
日向の両目尻の菊のあざを撫でながら、子どもに言い聞かせるように話す。
「なんの罪もないおれたちに、地獄みたいな業を負わせて、力を制御できなければ自業自得で殺すのが、"育ててくれた" ? 器としてしかおれたちを見てない奴らに、いったい何回殺されかけた? いったい何回地獄を見せられた?」
焔を一つ灯す遊虎の眼。
「龍ちゃんは、なーんにも覚えてないもんね。辛かった昔のことなんて。ただ、緋毀とおれを殺せってことしか、わかんないもんね」
初めて知る情報が多すぎて、うまく頭が回らない。
「ぼく、遊虎も殺すの?」
「そうだよ、ぼくらは一番仲良しの、将来を誓い合った仲間なのに。あいつは、おれと緋毀を殺すために龍ちゃんを育てたんだ」
帝さんに育てられたのはもうわかった。
緋毀を倒すために、自分についていた呪いが2つしかない、とは聞いていた。
そういえば、大阪城で緋毀と話したとき、確かに、緋毀は言っていた。
ー「お前は俺たちを殺すために育てられてたんだ」ー
俺たちって、遊虎のことだったんだ。
「まあ、龍ちゃんにはおれは殺せないからいいけど。あのクソ野郎が、都合よく龍ちゃんを使うのが許せない」
もう、頭が追いつかない。
自分の足元を見て、いまの自分のあやふやさや、過去の自分がもっとわからなくなった。
なにが真実で、何が虚偽なのか。
ふと、遊虎が日向の肩に手を置いて、その斜め背後にいる楓に一歩近づいた。
「ねぇ、そうだろう? ーーー」
楓になにかを耳打ちした遊虎。
ハッと気づいて振り返った。
自分のことで精一杯で、気配を消していた楓のことに気を使えなかった。
帝を慕っている楓。
でも、その表情は変わらない。
「わたしは、失礼します」
そう言って部屋を去っていく楓に、声をかけようとして、遊虎に手を取られる。
「龍ちゃん、いっぱい話したいことがあるんだ」
「遊虎、ぼく、楓を追いかけたいんだ、ごめーー」
「阿修羅 龍。おれと世界を手に入れよ」
黒髪に紫灰のまじった髪を揺らして、遊虎は笑う。
「はじめに、緋毀と織田の首をとる」
なんてことない。挨拶のように。
日向の手を引いて、額をくっつける。
「おれたち本当の神様の"黒菊軍"の世界を創るんだ。天下統一さ」
世界が変わる。
一陣の風が、名古屋に吹いた。
お久しぶりです。いつも読んでくださり、またあたたかいお言葉をかけてくださりありがとうございます!
これから、年内完結に向け、毎週一話の更新を目指していきます。これからもお付き合いいただければ幸いです。




