表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

【08】勝利


 どん、と音がなった。

 林檎が果汁をまき散らしながら砕け散り、木製の柱に手斧ハンドアックスが突き刺さる。

 その瞬間、げらげらと下品な笑い声がした。

 柱に縛りつけられていたコボルトが自らの頭上すれすれに突き刺さった手斧ハンドアックスを見て、脅えた顔をする。

 それを見て、数人のドワーフたちが笑いながら酒杯の底でテーブルを打ち鳴らした。

 そこは鉱山街の中央広場沿いにある酒場“岩喰い亭”であった。

 彼らは今、酒場の柱に縛りつけたコボルトの頭に林檎やじゃがいもを乗せて、それを的にして手斧を投げる遊びをしていた。

 鉱山で怪我をして作業ができなくなったり、反抗的な態度を取ったコボルトは壊れるまで彼らに玩具にされる。

 もうすでに歳を取っていたり、病気だったコボルトが何匹も犠牲になっていた。

 今、柱に縛りつけられているのは、フントの逃亡を手助けした四匹のうちのひとりだった。

 すでに彼を除く三匹は、散々になぶられて無惨にも殺されていた。

 最後のひとりである彼の運命も、すでに風前の灯火だった。

 そんな彼の頭に、新たなじゃがいもが乗せられたあとだった。

 酒場の入り口のスイングドアが勢い良く開き、血相を変えたドワーフがひとり飛び込んで来た。

 手斧ハンドアックスを投げようとしていたドワーフの動きが止まる。

 ドワーフ語で何かを必死に捲し立て始める。

 それを耳にしたドワーフたちの大将の隻眼の赤髭が何かを叫んだ。その瞬間、酒場にいた十五名ほどのドワーフたちが一斉に動き始める。

 壁に立て掛けていた武器を手に取り、店内から外に出た。

 すると、広場から南へと延びた道の向こうから十数の狼乗りたちが駆けて来る。

 隻眼のドワーフは、歯噛みして怒声をあげる。

 酒場から出たドワーフたちが、突っ込んで来る狼乗りのゴブリンたちを蹴散らそうと、武器を振りあげて広場の南へと突撃する。

 ゴブリンたちの先頭の白狼が、そのドワーフたちの頭上を一気に飛び越えた。隻眼の赤髭の元へと迫る。

 少数精鋭で大将首を獲る……相手の意図を悟り、隻眼の赤髭は、にやりと笑う。

 白狼に股がる乗り手は赤いケープをなびかせ、戦斧ブロードアックスを水平に構えていた。ひきがえるの仮面を被っている。ゴモリーである。

 隻眼の赤髭は、両手戦鎚ウォーハンマーを構えて、真っ正面から迫るゴモリーを待ち受ける。

 白狼が重心を右側に傾がせ彼の視界から姿を消す。

 大抵、彼と戦う者は死角をつこうとする。つまり右眼の方から攻撃して来る。わかりきっていた。

 あまりにも自分と対する者たちが、そろいもそろって右側から仕掛けてくるものだから、彼は死角からの攻撃に慣れきっていた。

 ほとんど感覚と気配で、そちらからの攻撃はかわす事ができるほどに……。

 迫り来る狼の足音を……空気の流れを……彼は感じていた。

 隻眼の赤髭は歯を見せて笑い、勝利を確信する。

 右回りに一回転して白狼の突撃をかわしながら、両手戦鎚ウォーハンマーを振るう。その背中に股がったゴモリーを叩き落とそうとする。

 彼は攻撃が当たった事を確信した。

 そう。

 攻撃は当たったはずだった。

 だが、手応えはない。

 武器を振りきった隻眼の赤髭は、大きく左眼を見開いた。

 白狼の背中には誰も乗っていなかった。

 両手戦鎚ウォーハンマーが、白狼の背中の上すれすれを通過して行く。

 白狼が地を這うように駆け抜ける。

 そのすぐ後ろからやって来たゴモリーが戦斧ブロードアックスを振りかざす。

 隻眼の赤髭は、ゴモリーが寸前で白狼の背中から飛び降りていた事を悟る。

 彼女もこの局面を読んでいたのだ。

 戦斧ブロードアックスが弧を描く。

 鋭い刃は隻眼の赤髭の首筋に深々とめり込んだ。




 ドグロの推測通り、彼らはコボルトたちの反乱と脱走を防ぐのに気を取られ北に兵を集中させていた。

 ゴモリーたちはまず坑道の手前にある製錬所へ向う。

 そこでも大勢のコボルトたちが、過酷な労働をしいられていた。

 ゴモリーは、勝鬨かちどきをあげながら槍で串刺にした大将首を見せつけるようにした。

 するとドワーフどもは大いに慌て出す。

 その混乱に乗じて、まずは製錬所にて捕らわれていたコボルトたちを解放した。

 するとドワーフたちの士気は更に低下し総崩れとなる。

 そのまま解放したコボルトと共に北の坑道前まで進軍した頃には、兵力は逆転していた。

 それから、ドワーフたちの最後の抵抗にあい坑道内のコボルトたちの救出に多少は手間取る。

 しかし、大将を失ったドワーフは烏合の衆同然だった。

 コボルトたちもつるはしやシャベルを手にして勇敢に戦った。ゴモリーの指揮でドワーフひとりを相手に三人がかりで当たった。

 そこに手練れの兵隊ゴブリンたちが暴れまわるのだから堪らない。

 やがて鉱山での戦いは、ゴモリーとコボルトたちの勝利という結果で幕を閉じた。

 ゴモリー率いるゴブリンたちも負傷者は出たが、この戦いで命を落とした者はひとりもいなかった。

 コボルトのフントは改めて、“何もない町”のゴブリンたちの実力に舌を巻いた。

 更に、これも読み通り、ドワーフどもは北の戦地から流れて来た傭兵崩れらしい。

 どこかの大きな勢力に属している訳ではなく、よって彼らの仲間が報復に訪れるという事もなさそうだった。

 ゴモリーたちは、負傷者の手当てが済むと早々に帰路へ着く事にする。

 今の冒険者に狙われている現状では、なるべく町を開けたくなかったからだ。

 そして、廃鉱南の門前には悪しきドワーフども退治し鉱山を救った英雄たちを見送ろうと、沢山のコボルトたちが集まっていた。

「本当にありがとうございます……何とお礼を述べてよいのやら」

 そう言ってゴモリーと堅い握手をかわすのは、白眉のコボルトだった。

 名前をブラオエと言い、この鉱山のコボルトたちをまとめる長であった。

「いえ。困ったときはお互い様よ」

「今回のお礼の方はまた後日、必ず……」

 そこでゴモリーは何かのアイデアを閃いたらしく、ぽん、と手を合わせる。

「そうだ。じゃあ、ひとつ頼まれて、欲しい事があるんだけど……」

「はい?」

「鍛冶の得意なあなた方に作って欲しいものがあるの」

「はい。私たちに出来るものなら……」

 そこでゴモリーはついさっき頭の中に思い描いたものを口にした――。




 それから、ゴモリーたちは手としっぽを振りながら別れを惜しむコボルトたちを背に、鉱山をあとにした。

 南の山肌を狼で登る。

 その最中だった。ココはゴモリーに尋ねる。

「あの姫さま……」

「何?」

「さっきのあれ・・は何です?」

 あれ・・とは、ゴモリーがブラオエに製作を依頼したものだ。

 ココの問いにゴモリーは確信に満ちた表情で答える。

「これで、冒険者をわたしたちの町から遠ざける事が出来る」

「それは本当なのかい? お姫さま」

 キキが驚きの声をあげた。

「上手くいけばね」

 その言葉を聞いて、キキとココは顔を見合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ