【04】冒険者狩り
狩人の悲鳴が轟いた。
四人の冒険者が同時に振り向く。
すると、鮮血が吹き出る喉元を抑えながら地面に崩れ落ちる狩人と、返り血をたっぷりと浴びた少女の姿があった。
まるで赤い頭巾でもかぶっているかのようだった。
「……な、ど、どうしたんだ?」
僧侶が状況をのみこめずに大きく目を見開いたまま固まる。
魔術師が慌てて何かの呪文を唱えようとする。同時に少女の左手の剣鉈が投げ放たれ、魔術師の胸に深々と突き刺さった。
魔術師はそのまま倒れ、剣鉈を胸にはやしたまま天を仰いだ。
その背中が地面につく前に少女は動き出していた。
唖然としたままの僧侶に目掛けて突っ込み、彼が両手で構える長杖に手枷の鎖を叩きつけるようにぶつけて巻きつける。即座に引っ張る。
意表を突かれた僧侶は、あっさりと長杖を奪われてしまう。
「ありゃ」
間抜けな顔をする僧侶。
少女は奪い取った長杖をくるりと一回転させて持ち直すと、僧侶の顎をかちあげた。
鮮血と折れた歯が飛び散る。
僧侶は昏倒し、膝を折って地面に突っ伏す。
「てめえ! いったい何者だ!」
斥候の怒号に少女は答えない。
蛇のような目付きのまま、斥候と戦士を睨みつける。
斥候は戦士と視線をかわし合うと、同時に少女へと襲い掛かった。
絶え間なく振るわれる小剣と両手鎚矛の攻撃が始まる。
入れ替わり立ち代わり、左から右から繰り返される……。
しかし、少女はそれを巧みな足さばきでかわし続ける。
「何なんだ! 当たらねえ、こいつ、当たらねぇえ!」
焦る斥候。
戦士は淡々と攻撃を繰り出し続けながら言う。
「左右から同時に挟むぞ!」
直後に少女の左側から両手鎚矛が水平に払われた瞬間だった。
その一撃を屈んでかわしたと同時に、少女は右側の斥候へと長杖で足払いをかます。
「うおっ!」
少女は仰向けに転んだ斥候に向かって蛙のように跳ぶ。そろえた両足の踵で顔面を踏みつけた。
斥候は一回、手足を大きくばたつかせて動かなくなる。
「くそったれ!」
戦士が少女へと両手鎚矛を振りおろした。
斥候の顔面を蹴りつけて、少女は飛び退き戦士と距離を取る。
ふたりはしばらく睨み合う。
戦士の額に冷や汗がにじむ。
何も武器を持っていなかった少女に、ほんのわずかな時間で仲間が四人もやられてしまった。
少女が何者かはわからない。しかし、恐ろしく戦い慣れており、殺し慣れている。
まごうことなき強敵である。
「たいした腕前だな」
戦士は、ほくそえむ。
少女は何も答えない。
青く粒羅で無機質な眼差し。
人形のようなその顔は、怖気が走るほど美しかった。
戦士はふと鼻を鳴らす。
「来ないなら、こちらから行くぞ!」
戦士が少女との間合いを詰める。両手鎚矛を振るう。
少女はあっさりと、その一撃をかわし長杖で足払いをしようとする。
しかし、戦士の太い足はびくともしない。
少女の頭上に両手鎚矛が振りおろされる。
少女は地面を転がってかわす。
「ふはは。効かんなぁっ!」
戦士の言葉に、少女は忌々しげな顔で舌を打つ。
「行くぞ!」
戦士が再び少女と間合いを詰めて攻め立てる。
少女は連続で振るわれる両手鎚矛を次々とかわしながら、戦士を長杖で殴りつける。しかし、屈強な体躯と頑強な甲冑のおかげでまったく効いていない。
「おらおら! どうした?!」
そして、ついに両手でフルスイングした長杖が、戦士の左腕に当たってへし折れた。
戦士はにやりと笑う。
少女は折れた長杖を投げ捨てて、背中を見せて駆ける。
「待てっ! 今更、逃げる気かっ!」
戦士が追う。
すると少女は仰向けに倒れたままの魔術師の元へと駆け寄り、胸に刺さったままの剣鉈を抜いた。
それと同時に剣先を跳ねあげて、魔術師の血を戦士の目元に向けてはね飛ばす。
「うおっ!」
戦士は立ち止まり反射的に目を瞑った。目元を左手の甲でぬぐい目を開く。
すると、すでに鼻先に剣鉈の切っ先が迫っていた。
それは戦士の右の眼窩を深々と貫いた。
「がぁ……」
こうして五人の冒険者パーティは、たったひとりの少女によって全滅させられたのだった。
少女は戦士の首に掛かっていた金属のタグをもぎ取る。
「雑魚か……」
そこには彼らのランクを示すふたつの星が刻まれていた。
「本当に、人間って醜い。わたしにそっくりで大嫌い」
この人間の少女こそが、蟇の部族を率いる若き族長のゴモリー・ベールゼルフォであった。
ゴモリーにとっての冒険者は、醜く冷酷な侵略者であると同時に両親の仇でもあった。
彼女の両親は五年前に冒険者によって殺された。ゆえに彼女は激しく冒険者を憎悪している。
「冒険者なんか、みんな死ねばいいのに……」
ゴモリーがそう吐き捨てたあとだった。
狼を駆るゴブリンたちが、通りの向こうからやって来る。その群れの先頭にはココ、ガマトー、ボルゾの三匹の姿があった。
ゴブリンの狼乗りたちは、瞬く間にゴモリーの周囲を取り囲んだ。
「姫さまっ!」
ココが狼から降りてゴモリーの元に駆け寄る。ガマトーとボルゾもそれに続いた。
「遅かったわね」
ゴモリーは何食わぬ顔で、ポケットから取り出した鍵で左手首の枷を外した。
「いくらなんでも冒険者五匹と丸腰で戦うなんて、どうかしています」
「そうですよ……」
そのココとガマトーの言葉に答えず、ゴモリーは足元に転がる冒険者の死体を冷酷な眼差しで見おろす。
「それより何時も通り、こいつらの身ぐるみをはいで、肥やしに混ぜておいて……」
「はい。承知しました」
ガマトーが返事をする。
「ゴモリーさま。お怪我は……」
「ありがとう、ボルゾ」
ゴモリーはボルゾに手枷を押し付けて、思い切り拳を天に突きあげると背筋を伸ばした。
「そこの肥った僧侶は、多分まだ生きているから牢屋に入れておいて。あとで尋問する」
「はっ」
ボルゾは昏倒したままの僧侶の両腕を捻りあげ手枷をはめた。
「ココ」
「はい」
「湯編みをしたいわ。準備を」
「承知しました」
ゴモリーが指笛を吹くと、近くの廃屋の入り口から年老いた白狼が姿を現した。
ゴモリーは返り血で額に張りついた髪の毛を払い、白狼の背中に股がる。
「帰るわよ」
と、ひと言。白狼を走らせた。
こうして、ゴブリンのお姫さまは威風堂々と凱旋を果たしたのだった。




