第七節 剣の騎士と盾の騎士⑩
【前回のイメージ】
ギルモア 二刀剣士 レベル38
アーレニウス 剣士 レベル31
カッツ 魔導師 レベル33
ブライアン 壁盾士 レベル28
___________________
城からブライアンが飛び出して
隊列に加わった!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
・・・今回で第七節終わりの予定が終わりませんでした。あと一回続きます(´・ω・`)
―――戦闘における役割の一つに『盾役』または『壁役』と呼ばれるものがある。
敵の注意や攻撃を引きつけ、味方をかばうことで他の前衛を攻撃に専念させ、魔法の集中などで回避のおぼつかない後衛に攻撃が行かないようにするという、まさにパーティの盾となる係だ。
だがその有効性、必要性に反していつの時代でも担い手不足となっている。
理由の一つとして、貢献度と言う意味では他の役割に劣らずとも、戦技や魔法を繰り出して敵を打ち倒した者に注目や称賛が集まりやすく、盾役はどちらかと言えば地味な役割だと考えられがちなことがあげられる。
また、傷を癒し欠損を再生できる神聖魔法、精霊魔法とて死者の復活がかなわない以上、常に死と隣り合う恐怖が凄まじいのと、盾役が落ちたら戦線が崩壊しやすいという責任と重圧に加え、武器とは別の才能や自己犠牲の精神が必要なことも大きいだろう。
そんな盾役の象徴とも言える壁盾を携えたブライアンが参戦したことで自分に向けられている圧力が弱まった。
だがそれ以上に、幼なじみの背中に心強くなったギルモアは死地にありながらもつい口角を緩めてしまう。
「格好を付けすぎだぞ、ブライ!」
「先にやったのはお前だ!」
もう二十年以上も昔。
学生生活の傍らで冒険者のまねごとをしていた時代の事である。
陽動を担当したブライアン達が上位種を含めた妖魔の大群に囲まれて絶体絶命の危機に陥ったとき、ぎりぎり駆けつけたギルモアが今のように名乗りを上げたのだ。
「だが扱えるのか!?」
「こんな事もあろうかと、うちで引き取ってからずっと訓練を積んできた!」
また、派手な金属音を響かせて壁盾と両手棍がぶつかった。
こんどは横向きの薙ぎ払いであったが、浅い角度で受け止めた瞬間に身体を沈めて盾の表面を滑らせるようにいなすと、その勢いのまま側転して追撃の突きをかわす。
その立ち回りに目を丸くする騎士は多い。
特にここ数年は少数精鋭で陣形を組んで外敵と戦うのではなく、数で削るやり方ばかりだった第二の騎士達からは感嘆の声すら漏れている。
「あんな戦い方があるのか……!」
「団長自ら盾役ってすげぇ……」
うちの髭団長も見習ってくれ、と呟いたのはどこの小隊長だったのか。
もともと赤壁は古くから親衛騎士団の所有物であり、六年前の邪竜討伐でも使われている。
次の使い手を決める時にギルモアはアントンを推したかったのだが、彼は体術以外のことを覚えるのに難色を示したのだ。
新しい使い手が見つからないまま埃を被らせておくよりはと外敵と戦うことの多い第二騎士団に譲渡された、ところが。
第二騎士団でも盾役のなり手がおらず、わずか数ヶ月で返却されてしまったのである。
そこに引き取り手として名乗りをあげたのが第一騎士団だった。
ポールなどは古い戦術だとか、赤壁を売り払って複数の魔剣を揃えた方が効果があるなどと言ったのだが、ブライアンは相手にせずゴライアスを含めた候補者とともに壁盾術の訓練を行ってきたわけだ。
それからわずか数年ではあるが、彼には剣以上にこちらの才能があったようで、今では盾役であればなんとか親衛騎士に混じれるほどにまで腕を上げている。
その急成長の理由は才能や相性だけではない。
脱落者が続出した厳しい訓練をこなす気概。
つまり、幼なじみと肩を並べていたいという強い意思が原動力となったのだ。
長い間親衛騎士団の盾役を務め、最後の戦いとなった邪竜討伐でも長時間味方を護り続けた先代に比べるとまだ荒削りではあるものの、気の制御や盾さばきに大きな無駄はなく安定感が感じられた。
(ギルガメシュ君の成長力はブライ譲り、か)
ギルモアが才能の人ならばブライアンは努力の人であり、その成長力はしっかりと息子に受け継がれたようである。
「いくぞ!」
「おう!」
二刀流のギルモアが右に。
赤壁を構えるブライアンが左に。
まるで一人の人間が構えたかのうように隙のない陣形にしかし、多肢多頭の上位巨人は棒立ちをやめようとしない。
「小人が一人増えたところで」「結末は変わらぬ」「そのような板きれで何ができるというのか」
それは大きな力をもつ上位種の矜恃なのだろうか。
おそらく召喚者の意図するところではないはずなのだが、即席の主従関係では埋められない齟齬なのだろう。
(その油断を後悔させてやる)
頼れる盾役が現れた事で、極限まで防御回避を捨てられると判断したギルモアがちらりと城壁に目を向ければ、カッツの援護による混乱がどんどん広がっていた。
「う、うがっ……」
「く、くそ!」
「馬鹿、息を吸うなって!」
「できる訳ねーだろ! 退避命令はまだなのかよ!」
どうやら何人か紛れていると思しき司祭にも脱落者が出始めているようだ。
その証拠に、氷の巨人にかけられていた『耐熱結界の奇跡』の効果が途切れたらしく、アーレニウスの火属性戦技による攻撃が目に見えて効果を上げている。
いま、この瞬間の判断が分かれ目になる。
そう直感したギルモアはどちらから、どうやって倒すべきかを考えたのだが。
(先にこいつを潰したいところだが―――)
どうやらこの上位巨人は達人の戦士のように、視覚に頼らずに気配を読むことはできないらしい。
そんな技術に頼らなくとも、種族として備えている反射速度や三方を見渡す三つの頭があれば十分なのだろう。
だから、油断している今なら三つの知覚を上回る四つの駒を用意できれば致命傷を与えられるはず。
(一つ、足りないな)
しかし、アントンの合流を待っても向こうを処理しない限り、四つを同時にぶつける事は不可能だ。
黒幕がそこまで考えてフォートと桜花を切り崩し、カッツと護衛役を葬ろうとしたのかは分からないが、護衛役が無事でもリョウが城を離れている以上、不足を補う駒がない。
先に氷の巨人を仕留める他に手はなさそうだ。
それが分かったギルモアは、本気になった上位巨人を相手にしなければならない未来と、その後のことを考えてため息を一つ。
「……まあ、遅いか早いかでしかないか」
国王を毒殺され、唯一の王位継承者である王女を危険にさらし、内乱を起こさせてしまった親衛騎士団長として選ぶべき道を選ぶだけ。
それは機密中の機密である『花園』を使うと決めた、目の前の第一騎士団長も同じはずだ。
「先に向こうを片付ける」
「分かった」
相手が狙いを定めにくいよう、じりじりと左右に動いていたブライアンは囁きに頷くと、巨人の死角になる赤壁の裏側からアーレニウスに向けて交代の合図を出した。
(うへぇ!?)
気がついた彼は心底嫌そうな顔をしたものの、拒否権などないと分かっていたので素直に頷き返してくる。
そして。
「今!」
「あいさー!」
アーレニウスが片手斧の攻撃を避けるのと、ブライアンが見え見えの攻撃を受け流すのが重なった瞬間の合図に、二人と一人が対戦相手を切り替える。
三人が交差する瞬間を狙って吐き出された冷気のブレスはブライアンが赤壁で防御。
その隣を駆け抜けたアーレニウスが、速攻でたのんますぜと多肢多頭の上位巨人の周囲を飛び回る間、左右の長剣を重ねるように持ったギルモアは全身で気を練り上げた。
「うおおおおおおおお!!」
鍔の刻印ががっちりとかみ合い、共振する刃と刃の間に輝きが生まれ、二振りの魔剣は光の刃を持つ広刃大剣へと姿を変える。
当然、普通の魔剣を二振り揃えたところで簡単にできることではない。
武器に気を流し込んで戦技を使う第一段階、気をまとわせて強度や攻撃力を上げる第二段階を経て、大量の気を形にする技術が必要だ。
さらに。
この二振りの長剣はもともと、状況に応じて二刀流と両手持ちを切り替えるという妄想じみた要望を古代魔法文明の物好きが無理矢理実現した魔剣になる。
光の刃を生み出すには相当量の気が必要になるし一撃ごとに小さくなってしまう消耗品であるものの、戦技と組み合わせて一気に放出することで威力を倍増することができるため、外敵退治にはちょうどいい。
むしろギュメレリーがこの『白牙』を所有していなかったら、前親衛騎士団長がその命を代償にしても邪竜を葬ることはできなかったとさえ言われていた。
氷の巨人は突然相手が入れかわったことに戸惑っていたのだが。
ギルモアから放たれる圧力で本能的に危険と察したのか、彼に狙いを定めて片手斧を振り上げ―――その瞬間を狙ったブライアンが足下に滑り込む。
「でりゃああああああ!!!」
シールド・スマイトと言うにはあまりにも巨大な一撃が空気を薙いで巨人の脛に突き刺さった。
「ギャオオオン!?」
頸骨を粉砕するつもりで全身全霊の力を込めたブライアンが一気に振り抜くと、出足を払われた巨人は音を立てて横倒しになり、そこへ力を溜めていたギルモアが跳んだ。
上からの攻撃というものは、地面を離れている数瞬は狙いを変えにくい、相手からの反撃を避けられない反面、地面という圧倒的な質量を壁にすることで逃げ場を無くして衝撃を余さず叩き付けられる。
その特性を突き詰めたのがこの剣技、匠技に位置する圧殺攻撃だ。
「―――スマッシュ・ダウン!!!」
大上段から振り下ろされた光の刃が巨人に触れるなり、解放された剣圧が周囲の地面ごと巨躯を押し潰し、ドンと響いた震動は敷石を粉砕、縦十メートル、幅は四メートル、深さ三メートルほどのクレーターを生み出した。
半分以下に潰された巨人は当然生きていられるはずもなく、出現したときと同じような光を放って跡形も無く消え失せる。
召喚術書に還ったのではない。
精霊や神族、魔族のように実体をもたない異界の存在同様、死体を残さないのは召喚獣となったものの末路なのである。
「うおおおおおっ!?」
「さすが親衛騎士団長―――ッ!」
あまりの威力に敵味方問わず、中庭を驚愕が突き抜けた。
「いまだ! 行け!」
その瞬間ゴライアスの号令が下り、三人の小隊長を先頭にした騎士達が担当メイドを囲みながら中庭へとなだれ込む。
「うわ! 一気に攻勢に出やがったぞ!?」
「どどど、どうするんだ!? こっちはほとんどやられちまってる!」
かろうじて昏倒していなかった第二の騎士達は、巨人が斃されたのを機に第一騎士団が反転攻勢に出たのだとおののいた。
「うおおおおお!」
「行け行け行け!」
ところが。
雄叫びをあげる第一騎士団はそのまま弧を描くように巨人とアーレニウスのやり取りを通り過ぎると、どうする事も出来ずにまごつく第二を尻目に中庭を駆け抜けて城門から出ていこうとするではないか。
「あ、あれれ?」
「……逃げた?」
誰かが追え、と言った。
しかしその声は、呆気にとられる者達の耳にはまったく届かなかった。
よしんば、聞こえていたところで意識を保っている少数が追いかけて何ができたというのだろう。
「副団長!」
「お前達も行け! 小隊長の指示に従え!」
「は、はいっ!」
「分かりました!」
最期に制御室に続く階段から飛び出してきた六人が、跳ね橋の上に立ちふさがるゴライアスの脇を駆け抜けていき、目的の半分を達したギルモアは顎から滴る汗を拭おうとともせずに大きく息を吐いていた。
「まずは一つ、だな」
光の刃は消えており、大量の気を消耗した顔には疲労が色濃く現れている。
ようやく空いた片手を使って回復の霊薬を飲み込んだ彼が、合体していた魔剣をまた左右の手に握り、赤壁を持ち上げたブライアンとともにアーレニウスのもとへ駆けつけると。
「なるほど」「小人も集えば届きうるか」「雑魚には興味がないが―――」
向かい合う一人と戻ってきた二人と、逃げて行った集団を三対の目で悠々と眺めていた巨人はびゅっと広刃曲刀を一振りさせ、初めてまともな構えをとった。
「「「―――お前達は楽しめそうだ!」」」
もしもこの上位巨人が、最初から人には魔法とは別の技能があると知っていたならば油断をしてくれなかっただろう。
おそらく古代魔法文明の魔法使いたちに召喚術書に取り込まれる以前も以降も、人の戦技使いと戦ったことが無かったと思われる。
だがそれももう終わり。
棒立ちを止めて腰を落とし、膝を柔らかく構えたヘカトンケイルは鋭く踏み込むと、一番上の腕で握っていた両手棍でギルモアを突いた。
「ぐっ!?」
これまで振り回すだけだった棍の端を握っての突きは間合い、踏み込みの速度ともに目が慣れていなかった三人の反応速度を上回り、ぎりぎり身を捻った彼は直撃を受けなかったものの、掠めたサーコートの裾が消えている。
「やっべ、速ぇ!」
「ここからは奴も本気だぞ、集中しろ!」
慌てるアーレニウスにと言うより、自分に言い聞かせたギルモアは左右の魔剣を十字に構えて巨人との間合いを開けた。
「魔法とは違うようだな」「どのような技術で底上げしているのだ」「もっと見せてみろ」
そう言われて分かりましたと手の内をさらすわけにはいかなかった。
簡単に会得できるはずはないが、万一上位巨人が操気技術を身に付けでもしたら邪竜に匹敵する相手になりかねない。
「アントンの合流まで防御に徹する」
「分かった」
「あいさー」
駒が足りない以上、無理に攻めたところで有利に戦えるとはおもえず、戦技とは別の切り札を使うのは今ではないと、四人目を待ちたいギルモアの囁きにブライアンたちが頷くのとほぼ同時。
城入り口から飛び出してきた黒装束姿のモニクが、人差し指を伸ばした右手で額の前に角に作る。
左手で二を示したあとに腕を大きく交差させ、それを視界の端にとらえたギルモアとアーレニウスから驚愕の声が漏れた。
「アントン!?」
「やられた!? とっつぁんが!?」
なぜなら角は一角獣騎士団を、二は二号室のアントンを。
そして腕を交差させての×印は、死亡確認を意味していたのである。
次回、今度こそ七節終わり予定(´・ω・`)




