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英雄は約束を守るようです  作者: ショボン玉
第一章 二人の騎士
25/111

第三節 避けられなかった戦いは③

7/4 誤字修正、改行位置修正

4/8 推敲

「待たせて済まない、装備し終えたので行くとしよう」

「行く途中、試験について色々教えてくれ」


 シーバスに手伝ってもらって慣れない胸部鎧を装備し終えたギルガメシュが玄関脇の待機室に入ってきたので、リイナと話していたリョウも手帳を閉じて立ち上がる。


 先程購入した鎧はすでに脱いでおり、今は昨日まで使っていた物を装備している彼は、役に立ったよと、外出禁止で学級を休んだリイナにお礼を言った。


「ありがとう、いろいろ参考になったよ」

「いいえ、このぐらいお安い御用ですわっ」


 夕べの男達の話のみならず、ギュメレリーのざっくりとした歴史や政治についても話を聞いていた彼は、書き留めていた手帳を魔法の道具入れホールディング・バッグに入れると剣を掴んで背中に装備する。


 自分も立ち上がったリイナは明らかに高揚した様子で縦巻きの髪をぴょこぴょこと動かしていた、どうやら彼の役に立てたことがかなり嬉しかったらしい。


「リョウさん、行ってらっしゃいませ。ご健闘をお祈り申し上げますわ」

「うん、行ってくる」


「お兄様も頑張ってくださいな」

「ああ、リョウとの修行を無駄にはしないさ」


 玄関の外まで見送ってくれたリイナやメイド達と別れ、王城へ向かう途中。


 いよいよだなと頷き合った少年のうち、事情に詳しいギルガメシュが概要を語り出した。


「前にも言ったかと思うけど、試験は筆記、実技、面接だ。まず一般常識の筆記試験があって、そのあと剣を使った試合で実力を試される。それで選考に残った者が一人ずつ面接を受けるんだ。毎年、一つの騎士団に五人ぐらい、合計三十人前後の新人が選ばれているらしい」


「試合に負けると落とされるんだろう? ならダミアンは今年は無理だな」


 ギルとの対戦にこだわらなければ普通に行けただろうにと言うと、そうでもないんだよとギルガメシュが否定した。


「いや、必ずしもそうじゃない。結局は各団長が選ぶんだから、きっとポールがダミアンを選ぶだろう」

「なんだ。じゃあ元々ギルも―――」


 騎士にはなれたんだな、と言いかけたリョウを遮るようにもう一度首を振る。


「いや。僕は負けたら即座に帰れって、以前から父上に言われてる」

「さすがブライアン様、厳しいな」


「もともと、よほど腕の立つ同士がぶつかって消えたとかじゃないかぎり実技で負けた人が受かる事もないし、負けた人は面接を待たずに帰ってしまうそうだ」

「国に雇われるのも大変なんだな」


 来月の衛兵募集に行く人もいれば来年まで頑張る人もいるんだ、との説明に就職も大変だと腕を組む。


 物心つく前から冒険者と言う究極の自由業だったリョウには、町の子供たちが幼年学級を卒業した後、どうやって生きていくかを選ぶ悩みというのは実感のわかない物だったのである。


(僕には、君に働く必要があるのかが疑問だよ)


 仕事がやりづらいと言っていたけれど、そもそも大金持ちみたいじゃないかというギルガメシュの疑問も至極当然だろう。


 そんな金があるのなら成功者として悠々自適な生活もできるだろうに、なぜわざわざ危険な冒険者をしていたのか、これから騎士になろうとしてるのかがよく分からない。


(家も生まれも分からないと言うし、社会的立場がほしいのだろうか?)


 騎士も衛兵も、騎士団という大きな枠組みに所属して警備などにあたるが、騎士は授爵して一応貴族になれるのに、衛兵にはなにもないので立場、待遇に大きな差がある。


 衛兵としてめざましい活躍をすれば騎士に推挙されることもあるそうだが、最初から騎士なのと衛兵上がりでは出世の速度や上限も違うそうだ。


(まあ、君の事だからすぐに親衛騎士に推挙されるさ)


 もしかしたら彼は資産を有効に使うための立場を求めているのかも知れない、と考えたギルガメシュは、腕の立つ彼ならあっという間に上に上り詰めていくだろうという確信があった。


 ぼんくらに背中を預けたい騎士などいる訳がなく、平和を守れるはずもないのでギュメレリーにおいて―――と言うよりほとんどの国で武官畑は実力主義な世界であり、文官にありがちな縁故による採用を嫌う風潮もある。


「負けたダミアンが合格したら、縁故採用ってことでマッセ家が白い目でみられたりするかな?」

「ダミアンの腕はかなりのものだ。そうはならないと思う」


「あの程度が受験するならそうか」


 性格はともあれダミアンの実力は認めないわけにはいかないと言うギルガメシュに、リイナの話を思い出したリョウはなるほどと頷いた。


 先日リイナを襲った二人組。

 聞いた話からすると毎年騎士募集試験に落ちていた無能者のようである。


 あのレベルでも試験に参加出来るのなら全体の平均も大体予測がつくので、ダミアンとギルガメシュが突出する事になるのは間違いない。


「面接が終わってしばらくしたら、合格者と何処配属かが発表になるそうだ」

「ずいぶん早いんだな?」


「実技試験は各団長が見学されるからな。すぐ指名会議が行われると父上が言っていた」


 そうこうしている内に二人は王城の入り口に到着していた。


 城壁の外、壕の跳ね橋の袂で案内の看板を見てみれば、試験は鍛錬の間で行われるらしい。


「なんだ、試験は鍛錬の間で行われるらしい。リョウ、行こう。リョウ?」

「ああ」


 通りの向こうを振り返っていたリョウは、訝しげなギルガメシュになんでもないと頷き、入り口の衛兵にブライアンから渡された登録書を見せた彼らは入城を許可される。



「まさかあいつ……この距離で気づいたってのか?」


 リョウが振り向いていた方向。

 数十メートルほど離れた物陰に潜んでいたのはダミアンともう一人、三神(ミツカミ)風の着物を着た男だった。


「ねちっこく見つめるからだ。俺の相手はあいつか?」

「そうだ、黒髪のでかい方。茶髪のひ弱な方は俺がやる」


 恨みがましい視線のせいじゃねぇのと言う相手に、そんな事はないとダミアンは自信満々に言うが。


 男は遠目に観察してみたもう一人の、それなりに隙のない様子を思い返して本当にひ弱かねぇと苦笑いを浮かべている。


「手応えがありそうな奴だ、楽しみだぜ」

「いくぞ鬼丸(オニマル)。契約金分の働きはして貰うからな」

「へいへい」


 試合前にギルガメシュを挑発しておこう、と懐から二通の登録証を取り出したダミアンは跳ね橋へ向かい、立てかけておいた刀を掴んだ鬼丸もその後に続いた。



         ◇   ◇   ◇



「ああ、すでに対戦表が張り出されている。やはり僕はダミアンとだな」


 鍛錬の間の入り口横。

 張ってあった試験の時間割と対戦表を確認したギルガメシュは、一回戦で自分とダミアンの名前が並んでいるのを見つけてやっぱりと言った。


「勝ちを簡単に拾える相手と組まされただけさ、逆に幸運と思って良い。えっと、俺の対戦相手は………」

「あった。鬼丸(オニマル)火群(ホノムラ)だそうだ。火群(ホノムラ)……?」


 二回戦にあがってもリョウと対戦することはない、とほっとしたギルガメシュは見つけた名前を読み上げて、どこかで聞いた事あるようなと眉間にしわを寄せる。


 と、顎に手をやったリョウがもしかしたらと言った。


「もしかすると剣匠火群の関係者かもな。大陸南西部が拠点と聞いたことがある」

「剣匠本人なら良い試合が見られたろうに。年齢制限的に子供とか甥だろうか」


 リョウが相手なんてお気の毒様、とギルガメシュが呟いたその時、廊下の逆方向から忘れようもない声がかかった。


「はん、逃げなかったのか? すぐに後悔する事になるのに物好きだな」


 声の主はやはりダミアンだった。

 彼はリョウを見ないようにして、ギルガメシュに嘲るような視線を向けた、しかし。


「ごきげんよう、お漏らし小僧のダミアン君。今日はちゃんとオムツをしてきたか?」

「な、な!?」


 怒らせるか動揺させるかすれば、こちらのペースに引きずり込めると想定していたギルガメシュからの、思いも寄らないカウンターがトラウマに直撃し、精神的優位に立つという浅はかなもくろみは僅か十秒で逆の結末を迎えたのだった。


 リョウからすればわざわざやられに出てくるなんて危険予測が足りないと言うことになるのだが、ダミアンはまだ、ギルガメシュになら勝てるつもりであったようだ。


「畜生! こいつだって無事じゃ済まないぞ! 相手が悪かったな、鬼丸は剣匠火群の息子なんだぞ!」


 茹でられたオオツノガザミ(大きい蟹の怪物で美味)ばりに顔を真っ赤にしたダミアンは剣に手をかけるが、さすがにここで騒ぎを起こしてはまずいと分かるのか悲しいぐらい見え見えの虚勢を張っている。


「ああ、息子なのか。さっきギルと多分関係者だろうなって話してたところだ」


「こ、怖くないのか!? 剣匠火群と言えば、剣聖五人弟子の一人で、鋼不動(はがねふどう)流から不知火(しらぬい)流を分派させた―――」


 そう言うからには、わざわざ鬼丸を連れてきてまで自分の対戦相手に据えたのもポールの差し金だろう。


 しかし剣匠本人ならともかく、息子で恐れおののけと言われても困る。


 むしろどうやって鎖国中の三神から連れてきたのか、それとも別件で使う予定だった用心棒か何かをあてがったのかと、そちらの方が気になった。


「知ってる知ってる。わざわざそんな説明的な台詞を言うなんて、怖がらせようとしてくれたのか。夕べは何時間それを練習したんだ?」

「なななな、なんだと! 何で練習してたの知ってるんだ!」


(練習したのか)


 緊張しているのがありありと分かる早口で、しかしどもる事無く脅し文句を言うダミアンに対し、余裕を崩さないリョウが笑顔すら見せている。


 役者が違いすぎるとギルガメシュが哀れにすら思っていると、逃げればいいのにまごまごしている相手にリョウが攻勢に出た。


 元々試合前に捕まえてとどめを刺すつもりだったのだ、あちらから近づいてきてくれて逆に都合が良い。


「俺の心配は良いから自分の心配をしたらどうだ? とは言えダミアン君がギルに勝てる見込みは無いんだが」

「てめぇ―――!」


 憤る相手の首に腕を回し、ぐいっと引き寄せて耳元にささやく声の、なんと低く冷たいことか。


「だからと言ってこれ以上卑怯な真似をしたら、お前の目に死斑蜘蛛毒(デッドニードル)を塗ったナイフを埋め込んでやるからな」

「な、なんの……」


「俺が奴隷程度にやられるとでも? 殺す前に当然、口を割らせるよなぁ?」

「あ…あ……!」


「お友達の目と鼻は治してやったのか? 俺が神殿の検査官に喋ったら、マッセ家は詳しく調べられるよなぁ?」


 壊れた足輪をちらちらと見せられながら、意地悪く囁かれたダミアンの顔色はすでに青を通り越して白になっている。


「正々堂々試験を受けるなら見逃してやっても良い。だが、もしも卑怯な真似をしてみろ。お前だけじゃなく、一族郎党あのクズ共よりも酷い目に遭わせて―――」

「キャアアアアッ!」


 言い終わる前に、女性のような悲鳴を上げたダミアンは股間を押さえながら逃げていってしまった。


 また漏らしたかなと苦笑していると、泣きべそで逃げていった九日前までの宿敵を見送っていたギルガメシュは多分と同意するほかにない。


「あれが相手じゃ不戦勝と変わらないな」

「君が仕込んでくれたおかげだろう。あれでは実力は出せないだろうな」


 最終試験で向かい合った十割設定の力すら今の奴から感じられない。


 けれど油断はするまい、と気持ちを新たにしたギルガメシュは鍛錬の間に入ったところで、ふと気になった事を尋ねてみた。


「ところで、どうして今朝買った鎧を持ってこなかったんだ?」

「結構長い付き合いだったからな。それに、装備の良さで判断されても面白くない」


(いや、それだって傷だらけだけどミスリルの鎧だよな?)


 リョウの金銭感覚に突っ込む事はやめようと思った彼はいまさら霊薬の会話をした時の違和感の理由が分かったのだが、そこで恐ろしい事実に気がついた。


(ちょっと待てよ? つまり魔法金属の鎧が傷だらけになるような戦いをしてきたって事か?)


 よくよく見れば傷は古い物もあるが、ここ数年でついた新しいものが殆どのようだ。


 へこみや鋭い牙に噛みつかれたような跡、高熱に曝されて変色したような部分まであり、一体何と戦ったらこうなるのか想像もつかない。


(なら、良い鎧を見つけたら即決で買うに決まっている)


 正直、いったい何と戦う事を想定して二百万の鎧を買うのかと思っていたのだが、今の鎧が傷だらけになるような経験をしてきたのならば、より良い物を手に入れようとするのは当たり前だろう。


 平時は巡回や消防ばかりで忘れ去られがちだが、騎士も外敵出現時には最前線に立つし、戦技や魔法を使う悪人のことを考えれば防御力はいくら高めようとも損は無いように思えた。


(確かギュメレリーの紋章を目立つ場所に付けておけば、支給される制式装備でなくても良かったはずだな)


 騎士になったら支給される量販品に満足せず、自分の給料で良い鎧の一つでも買わなければ、と思ったところで腕を叩かれて我に返る。


「……ギル、おい、ギル!」

「あ、すまない」


「始まるぞ」


 見れば別の入り口から数人の騎士が現れて、試験の開始を告げており、その中にはブライアンとポールの姿もあった。

 

 若い騎士は試験官で、風格のある他の七名が各騎士団長なのだろう。


 ―――いや、ポールに風格などないので六名と一匹であるが、誰もが一筋縄ではいかなさそうな顔つきをしている。


「これより九十二年度騎士募集試験を開始する! 初めに隣の部屋で筆記試験を行うので、各自は登録書と筆記用具のみを持って入室し、登録証裏面の番号が書かれた場所に着席する事!」


「じゃあ隣に行くか」

「リョウ、頑張ってくれ。冒険者の知識に期待してる」


 指示に従い部屋を移動する最中。


 唯一この科目だけは応援できそうなギルガメシュがそう言うと、リョウは任せておけと親指を立てた。


「親父の教育がいかに凄まじかったかを見せてやる」


 それぞれの席に散った二人はブライアンが列びで登録したので続き番号となっていたのだが、机の折り返しの都合上四十五番のギルガメシュがとある列の一番後ろ、四十六番のリョウが次の列の一番前のようだ。


 椅子に座ってから緊張を楽しもうと気持ちを入れ替えたギルガメシュは、伏せてある問題用紙や置いてあったペンとインクを見つめて集中を高める。


 やがて、前に立った騎士が開始の合図を告げた。


「試験時間は九十分です。それでは、始め!」


 合図と同時に問題用紙を表にし、ざっと目を通した彼は結構な難易度である事を知って思わず、視界の端のリョウを確認してしまうが。


(大丈夫だよな?)


 どうやら杞憂だったようで、すらすらとペンを動かしているので自分も試験に取りかかることにする。


 問題はすべて記述式、最後には小論文もあるので時間をうまく配分しないと最後まで解ききることもできないだろう。


 よし、と気合いを入れたギルガメシュはまずは全問を把握する事にした。



 一方、試験開始から二秒ほどで全設問を読み込んだリョウは、それほと厄介な問題がなさそうなので頭から順番に解いていくことにしていた。


 速読法という次元の早さではないが、父の修行―――舞い落ちる枯れ葉や花吹雪を数えたり、土砂降りの雨粒を数えたりする―――よりはよほど簡単な部類だったりする。


 繰り返しになるが、彼は眼窩に神器か遺物でも収まっているのではないかと思われるほどに目が良いのだ。



 【第一問】

 今年は総歴一九九二年です。

 ギュメレリー王国歴では一六二年です。

 ではギュメレリー王国元年は、総歴何年になるでしょう?



(一八三〇年だろう? 算数なのか歴史なのか分からない問題だな)


 簡単だ、と余裕のギルガメシュは元年のひっかけにやられて誤答。


(算盤無しで計算なんざ出来るかっ!)


 真面目に勉強なんかしたことのない他国出身の鬼丸は空白回答となった。



 【第七問】

 我が国や、大陸内の多くの国で取り入れられている絶対王政とは、具体的にどのような国政かを述べなさい。


(国王が絶対的な権力を持ち、官僚機構と常備軍、それから地方に及ぶ統治機構を備えた中央集権体制の事だ)


(お、王様が偉い国?)


 リョウは教本通りの回答をし、ダミアンは幼年学級一年生並の回答でお茶を濁している。


 この辺りはギュメレリーの歴史や政治に関わる問題が多く、よそ者のリョウはリイナに聞いた話からある程度推測しなければならない部分も出始めていた。



 【第八問】

 我が国における次の国政関係者を、政治発言力の強い順に並べなさい。

 < 国王、王族、親衛騎士、騎士団長、大臣、各官庁 >



(あれ、王族の発言力ってどうなるんだ)


(親衛騎士の位置づけが難しいが王族は引っかけだろう、発言力は普通の貴族と変わらないはずだ。バランスのとれているこの国なら文官と武官は交互にするだろうから……『国王-大臣-親衛騎士-各官庁-騎士団長-王族』か?)


 貴族学級で教わったはずなのに、と頭を悩ませるギルガメシュに対して勘で答えたリョウは正解。


 ダミアンは世界で一番えらいのは自分と思っているため余裕で誤答。


 真面目に答える気のない鬼丸は、すでに目を閉じて船をこぎ始めている。



 【第十九問】

 各国にある魔法学院の門には、必ず鈴を象った紋章が描かれています。

 この鈴が何という名前で、どのような意味があるかを答えなさい。



(鈴は『セイアーの(セイアーズ・)お守り(タリスマン)』だ。古代魔法文明の圧政―――魔力を持つ者から、持たざる者への差別。古代文明の崩壊後、それを反省した『理想の導師』セイアー=ヘルデライトの教えである、『理力魔法を悪用しない』、『学院は戦争に協力しない』を約束する意味がある。昇格試験に合格して大魔導師になった人にも身分証明として渡されるんだったかな)


 受験者のなかでこの設問を満点回答できたのはリョウだけで、大体がセイアーの姓が間違っていたり、背景まで答えられていない。


 魔法使いなら常識なのだが、魔力のない受験生達には少し荷が重かったようだ。



 【第二十一問】

 王国法第十五条にある『葬儀以外に黒、またはそれに準じた色のローブの着用を禁ずる』の理由を答えなさい。


(ギュメレリーに限らず、葬式以外に黒いローブなんか着ていたら自分は妖術師か暗黒司祭です、と名乗っているようなもんだ)


 これは大陸法にも関わる一般常識のため、リョウ、ギルガメシュ、ダミアンの三人は無難に回答。


 鬼丸はすでにぐっすりお休み中で、このまま最後まで寝通した。




 ―――ちなみに妖術師や暗黒司祭が、なぜわざわざ自分から悪者ですと言わんばかりに漆黒のローブを着ているかの理由ははっきりしていない。


 一説には、古代魔法文明において高級民族を自称した魔法使い達がもっとも高貴な色としたからだとか、黒は集中と魔力を高めるだとか、負の感情を贄とする邪神に仕える者として、人に怖がられたり嫌われる格好をするのは当然だからなどと言われている。



         ◇   ◇   ◇



「試験時間、残り三十分です。以降、終わった者は解答用紙を裏にして退室しても構いません」


 試験開始から六十分が経過して。


 試験官の言葉を待っていたかのように、腕を組んで考え事をしていたリョウだけが椅子を立った。


(リョウ!?)


 自分は小論文に取りかかっていたギルガメシュはまさか途中で投げ出したのかと焦ったが、部屋から出ようとする彼がちらりと余裕の笑顔を見せる。


 『自分の過去の経験の紹介と総括』という、非常にやりにくい作文に頭を悩ませているうちに時間はどんどん過ぎていき、結局終了の合図直前になんとか規定文字数に達したギルガメシュは、他の受験生と同じように追い出される形で鍛錬の間へと戻った。


「どうだった!?」


 部屋を出るなり待っていた彼に尋ねると、勢いに目を丸くしたリョウは少し考えた後、おかしそうに笑ってギルガメシュの腹にぽん、と拳を当てる。


「ははは、手も足も出ないで諦めたんじゃないかって心配だったか?」

「それは……そうだよ」


 結構難しかったよと言う彼に、手応えはあったリョウも頷いた。


「ギュメレリー国史とか政治の話になるとさすがにな。一応、他が解けたから何とかなるだろう」


 その代わり、一般の貴族や平民には答えづらいであろう魔法や他文化圏、総歴史の事は答えられたのだから結果に不安はない。


「元年はいつにした?」

「一八三一年かな」


「あ! しまった!」


 二人がいくつかの問題の答え合わせをしているそばでは、同様に顔見知り同士が自己採点をしていたのだが、どうやら今年は例年に比べて難しかったようだ。


 おそらく双子なのだろう、二十歳ぐらいのうり二つな兄弟は何回かめの受験だったようなのだが、手応えが悪かったらしく実技試験に闘志を燃やしている。


「アーニー、どうだった?」

「去年に比べて難しかったと思う。オットーは?」


「……実技で取り返すしかない」

「そうだな。一年修行に明け暮れた我らの力を見せる時がきた」


 また壁際には、ブライアン達第一騎士団が試験問題の漏洩防止に尽力したことや、リョウからの命令もあって、貴族学級のときのような不正行為ができなかったダミアンの死んだ魚のような目と、熟睡してすっきりした鬼丸の笑顔が並んでいた。

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