48話
焦った。
鍵締めとけよっ 。
よくは見えなかったけど、体もデカイだけあってアッチもデカそうって陰影だった気がする。
あんなもん、はいんねえだろ。
凶器だ凶器。
絶対、酷い目に合う。
……いや、待て。
何すっかりヤルる気になってんだ。
血央はどう考えても赤くなっている自分の顔を腕で覆った。
ヤらないだろ。
ヤらねーよ。
だって、もう、あんな……。
「あ、平林さーん。ちょっと!これどー思います?」
三年の談話室前を通りかかった時、中からバスケ部の金森に声をかけられ思考を中断された。
中には金森を含めて4人。そのうちの一人には見覚えはなく、まだ幼さを残す容姿から一年生だろうと判断する。
寮には一応違う学年の階には入ってはいけないというルールがあり、それなりに順守されているので珍しく思いつつ近づいてみれば、テーブルの上に一冊の週刊誌が広げられていた。
「これなんすけど」
頭を下げる一年に会釈を返し、金森に促されて紙面に目を向けた。
週刊誌には写真が3枚。
一枚はこの間見た映画の主演女優の写真。そして後の2枚は夜間の撮影らしいグレーがかったもので、居酒屋らしいところから二人が出てくるショットと、男女のキスシーンだ。
若手清純女優のスキャンダル写真のようだが、問題は……。
「いや、こいつがこの女優のファンなんすけど……」
問題は男の姿で……。
「黒か……わ?」
「やっぱそう見えるっすよね!?」
一年生が飛びつくようにしてテーブルに両手をついた。
顔は映っていなかったが、男が着ているTシャツのバックプリントに見覚えがあるのはもちろんのこと、斜め後ろからのショットはずっと見てきた角度だ。
そして何より、尻ポケットから覗く変なキャラクターは、知央が土産に買って帰ったあの不細工なご当地キーホルダー。
いつ……?
少なくとも、土産を手渡した後に撮られたものだ。
じゃあ、それは、そう遠くない、最近の話なわけで……。
「マジかー!?うわー、黒川芸能人食ったんかよ、すげえなぁ」
「ああああっ。明里ちゃーんっ」
顔面を押さえる一年を尻目に文章を読めば、高校や人となりがわかるようことは書いてはいないが、アマチュアバンドのライブの打ち上げ会場である居酒屋を抜け出した二人が、公園でキスをした後、ホテル街に消えたという内容のことが書いてあった。
あの日。
それは自分が誘われて、目の検査で行けなかった日のこと。
「つか、お前、よくわかったな、これ黒川だって」
「いや、なんか、明里ちゃんのスレで黒川先輩確定される……ていうか晒されてるっていうか……」
「マジで?それってヤバくね?」
「なんか、学校に電話入れてやるとか書いてたから大丈夫かなと思って。でも俺あんま黒川先輩と面識ないし、だから金森さんに」
「あいつ絶対知らなさそうだよな。こんなん撮られてたこと……」
ドクドクと脈打つ音が耳にやたらうるさく、交わされる会話が遠くに聞こえた。
「え、ちょっと待て!じゃあこないだからカメラ持った不審者目撃あったのって、この系の雑誌の奴だったんじゃねえの?」
「俺、ちょい黒川んとこ行ってくるわ。これ、借りてくぞ」
金森がテーブルの上の週刊誌を手に談話室を出た。
「まあ、100歩譲って女と露チュウはアリでも、居酒屋から出てっつうの学校にバレたらイタいよなー」
「あー、なんかメチャ複雑っ!自分の先輩が明里ちゃんとエッチとか」
肺が酸素を拒むような息苦しさ。
お……俺だけだなんて言っておきながら?
俺以外いらないなんて、そんな言葉を投げておきながら?
キスを交わす二人。
美しい女優、桑折明里の腰に回したその手は、遊び慣れた男の手。
遊び……なのか?
それは、この女優?
それとも、俺?
……俺って。はは。そもそも綺麗な女優と同じ土俵にあげるのもおかしな話だろ。
そういえば、しばらく真直は自分に手を出してこようとしなくて、それは自分に遠慮してのことだと思っていたけれど、こういう、ことか。
ああ。あのDVD。
以前、普段邦画を観ない真直の借りたDVDの中に邦画が混じっていたことが少し不思議だった。
でも、こういうことなのだ―――。




