第28話 愛がすべて
ドンッと身体に強い衝撃が走り、俺は肺中の空気を吐き出す。
遅れて背中と後頭部に強めの痛みが走った。
そして同時に大きな音。
俺、死んだのか?
そう思った矢先にもう一度身体に強い衝撃というか重みが走った。
嗅ぎなれたシャンプーのにおい。翔子が俺の胸に飛び込んできたようだ。
どうやら俺は車に轢かれてないみたいだな。
俺は安どのため息を漏らした。
そして泣きじゃくる翔子をぎゅっと抱きしめる。
背中からアスファルトに着地したためどっちにしても頭も打っていて痛くて動けない。
視界がちかちかした。興奮と痛みで。
そして俺の視界の傍らには、いつの間にか脱げた赤い靴が壊れて転がっていたのだった。
後日車の運転手さんは安全運転をしており、高校の校門前を横切ることを意識して速度を落として運転していたようだ。
寸でのところでハンドルを切ってくれて、車がちょっと破壊されただけで済んだ。
対向車も丁度きていなかったので大事故にならず、俺が頭打ったくらいでみんなけがもなく済んだ。
翔子を突き飛ばした吉田のやつも、康太と大地が取り押さえてくれてた。なんならどさくさに紛れて三人にぼこぼこに殴られてたあいつが一番重症だったまである。
すべてを思い出した翔子は今回の事故だけでなく、記憶をなくしたあの日の事故のことも家族に話した。
翔子のお母さんとうちの親はカンカンになって弁護士を呼び、なんやかんやいろいろあったがその二つの事故の件は、もう恨んでもいない、もう私にとって叔母さんや吉田は何の脅威でもないと言った翔子によってなんとか解決したようだ。
吉田は言うまでもなく退学処分となり、逃げるように引っ越していった。
ちなみに俺が事故に遭った知らせを聞いて、息子のように接してくれていた翔子のお母さんはショックで倒れてしまったらしい。
マジで心労掛けちゃってごめん。
うちの両親は息子は丈夫だからとなんも心配してなかったとか言ってたけど、差がすごいというか酷くない?
「それで、結局どうなったんだ。」
俺たちはいつもの図書館にあるカフェでいつもの席に向かい合って座っていた。
俺はコーヒー。
翔子はチャイティーを飲んでいる。
翔子は、記憶を思い出してから何か変わっただろうか。
実は俺も検査入院などあって、翔子も医者にかかったようだし、事故後数日ぶりに改まって話すことになった。
大体の概要は両親から聞いてるけどな。
聞いた話だと翔子は記憶を思い出しても薔薇子のときと変わらず過ごしているようなのだ。
服装も薔薇子の時と同じで白いカーディガンに白タイツ、今日は大きなピンクのリボンの髪飾りで結んで巻髪を肩に流している。かわいい。
「どうなったってどういうこと?」
「先に行っておくと、…俺は翔子がなんであれ好きなんだよ。それはもうわかった。だから…。別れるつもりなんてない。」
「ふふふ。」
「おい。笑うな。」
「思えばおかしいよね。翔子の記憶がほぼあるって言いながら、恭ちゃんを恭ちゃんって呼んでいたことすら忘れていたなんて。
恭ちゃんは気が付いていた?」
「ああ。」
「そっか、そうだよね。恭ちゃんは推理小説とか好きだもんね。
だからこそ、私が、薔薇子になってしまったってことに納得してしまったのかもしれない。
でも違った。
やっぱり魂は一つで、私は私だったんだよ。」
「というと?」
「わたくしはわたくしで、出会った頃から変わらず、あなたのことが大好きだった翔子であったということですわ。
それがすべてです。」
そう言って薔薇子こと翔子は小首をかしげながらふふふと笑うのだった。




