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月光を射る。【獣と人の狭間で揺れる恋物語】  作者: 譚月遊生季
第三章 不幸を治す薬は希望

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第37話 「魔女」の元へ

「……っ、てて……」


 セレナの後を歩みつつ、ランドルフは自らの腹を押さえる。時間を経て、殴打された傷がじわじわと効いてきたらしい。

 デイヴィッドは既に(うめ)く力すらないのか、ランドルフの背でぐったりとか細い呼吸を漏らしていた。

 

「大丈夫か、ランドルフ。辛ければ私が背負うぞ」


 ディアナの問いに「ありがとよ」と返すランドルフ。


「……じゃ、頼んでいいかい? 怪我人にゃキツくてな……」

「ああ、問題ない。力ならある」


 そんな二人の姿を、サイラスは複雑そうに見つめていた。


「……嫉妬してんの?」


 セレナの問いに、サイラスは力なく首を振る。


「……わかりません」


 彼にとって、ディアナは信仰の対象だった。もちろん、双子の兄である「マーニ」も同様に。


「ただ……()()()()()()振る舞うディアナ様に、困惑しているのは事実です。マーニ様も……記憶を取り戻してなお、人間のようにしか……」


 ……否定されたところで、自分の思想を塗り替えるのは難しい。

 サイラスの言葉に、「へぇ」と呆れたように呟き、セレナは先を急いだ。


 草をかき分け、獣道を進めば、見えない壁が四人を阻む。


「……この魔力、やはり……」


「結界」に触れ、サイラスはぽつりと呟いた。


「知っているのか?」

「……はい。一応は」


 ディアナとサイラスのやり取りなどお構い無しに、セレナは声を張り上げた。


「……『魔女』さん! 入れて! お兄ちゃんを助けて……!」


 セレナの声に、空気が一瞬だけ震える。

 やがて結界の奥から、一人の女性が姿を現した。


「……やっと、帰ってきたんだね。バカな子だ」


 セレナと同じく目深に被られたフードからは、深紅の髪が覗いている。

 その姿を見て、サイラスは「やはり……」と呟いた。


「通りで、魔術の質が似ているはずです」


 大きく頷きつつ、サイラスは「魔女」と呼ばれた女性の名を口にした。


「パトリシア・()()()()()()


 スチュアート。その言葉に、セレナの表情が強ばる。

 ディアナは気絶したデイヴィッドを背負ったまま成り行きを見守り、ランドルフはというと、目まぐるしく変わる状況についていけずにいた。


「スチュアート……ねぇ。そう呼ばれるのは、やっぱり(しゃく)だ」


 パトリシアと呼ばれた女はくっくっと笑いながら、顔を覆い隠したフードをゆっくりと上げる。

 黒いローブに隠されていた顔面は、大きな(あざ)に覆われていた。

  

「昔みたいに、トリシアって呼んでくれたって良いのに。……ねぇ、サイラス兄さん?」


 サイラスと同じく蒼い瞳が、(あや)しい光を宿していた。

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