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66 ゴートゥーヘル


「よし…と。これで全員降りてこれたな」


 ジェシカがスルスルとロープを伝って降りてくるところを見て、俺は確認するように言った。

 落ち着いて周囲を確認してみると、どうやら広い一本道のど真ん中のようだ。足元には、穴を開けた時のものであろう瓦礫が散乱していた。


「しかし、まさか一気に5階までこれるとは…ラッキーでしたね」


「ああ、これもルゥフが壁の仕掛けに引っかかってくれたおかげだな」


「褒められてる‥‥のかな?」


 下の階に通じる大穴は思っていたよりもずっと深く、地下5階にまでつながっていた。おかげで大幅なショートカットができたわけだ。こんなことなら、仕掛け扉の前に書置きでも残してくればよかったか。


「それにしても先に来たというパーティーは無茶なことをしますね。2階から5階まで貫通だなんて」


「いや、見てみろ」


 ヒートの言葉に、俺は足元に散らばっている瓦礫を指さす。そして魔道具の明かりを近づける。地面には薄らと埃がつもり、数人の足跡が道の奥へと続いていた。


「瓦礫の上に埃が積もってる。この足跡が先に来た奴らのものだとして、上から穴を開ければ埃の上に瓦礫が落ちるはずだ。つまりこの穴はもう随分前から開いてるものだと思うんだけど…」


「でもこの街のギルド職員はそんなこと一言も言ってなかったよね? まだ見つかってなかったのかな」


「うーん…2階は道が変わんないって話だから、見つかっててもよさそうなもんだけど…」


 まあ知らなければ壁なんてわざわざ触らないと言われればそれもそうかもしれないが。


「さて、足跡から見て先に来た人たちはこっちの道に進んだようですね。私たちはどうしますか?」


 足跡は一本道の片方に向かって真っすぐ続いていた。二手に分かれたほうが効率的ではあるが…


「とりあえずこの足跡を追いかけてみないか? 地下5階だし、一度合流した方が安全だと思う」


「え? 最下層まであと1階だけなんでしょ? じゃあもう1回地面ぶち抜いちゃえばいいじゃない」


 ジェシカがそう言いながら、地面の強度を確かめるかのように靴裏でトントンと土を蹴る。


「そりゃやめといた方がいいと思うぞ。誰だか知らないが、こんなことできるなら、それこそ1階から6階までぶち抜くことだってできたはずだ。それをあえてやらないってことは、何か理由があるんじゃないかな。例えば、これ以上貫通させると遺跡が崩れるとかさ」


 それに地下6階には何がいるかわからない。もし開けるにしても、やはり他のパーティーと合流して戦力を確保しておきたいところだ。

 俺がそう説明すると、ジェシカは「ふぅん」、とつまらなそうに息を吐いた。


「さて、ルゥフ、先に来たパーティーの人たちの匂いたどれるか?」


「うん、任せて! ついてきて!」


 ルゥフは俺の質問に元気よく答え、暗闇に向かって歩いていく。俺たちはその後を警戒しながらついていった。


──────────────────────────────────


 白金の刃に光が照り映え、まるで稲妻のように一本の筋となって跡を残す。


「シャアアアアアアアアアッ!!」


 首が3つある巨大な蛇のような魔物だ。それぞれの頭が、周りを走り回るジェシカを捕らえようと躍起になって動き回っている。


「おっと」


 それを軽々と躱し続けるジェシカ、その手の中で剣が翻り、魔物の鱗を何度も打ち据える。あちこちから火花が飛び散り、激しい金属音が通路に反響するが、しかし鱗が固すぎて致命傷を与えることができないでいた。


「ジェシカさん! 準備できました!」


 ヒートが叫ぶと同時に、彼女の周囲に魔法陣が浮かび上がる。それを確認したジェシカは、挑発するようにそれぞれの頭を蹴りつけ、視線を誘導する。

 そして全ての頭がヒートの方を向いた瞬間、ジェシカは一瞬のうちにその場を離脱し。


「────ッ!!?」


 魔法陣から凄まじい光と熱が放たれ、魔物の目を眩ませる。そしてその隙に──


「──ってい!」


 ルゥフが渾身の一撃を放つ。軽い掛け声と共に突き出された正拳は、通路全体を震わせるような衝撃を発生させ、魔物の腹に風穴を開けた。


「──カ…ア‥‥」


 致命傷を負った魔物はその場で少しの間暴れ回っていたが、しばらくすると、何度か痙攣した後動かなくなった。


「ふぅ…なんとかなったね」


 魔物が息絶えたことを確認し、ルゥフは安堵の息を漏らし、汗を拭う。


「お疲れ様。それにしてもコイツ、街の近くに現れたら一匹でも大騒ぎになるような魔物だぞ。それがこんなとこにいるとは…」


「それだけ最下層が近づいてきているということでしょうね。少しずつ空気中の魔力が濃くなってきていますし」


「こっちで合ってたってわけだ。他のパーティーにはまだ追いつかないけどな」


「…あ!」


 と、唐突にルゥフが帽子を取り、耳をそばだてる。


「どうした? 何か聞こえたか?」


「うん、何か…扉を開くような…?」


 もしかしたら、先に行った人たちが何か仕掛けを触った音かもしれない。


「よし、行ってみよう。ルゥフ、案内を──」


 頼む、と、そう言おうとしたその時。

 どこからか鈍い音が響き、遺跡全体にまるで地震のように揺れが走った。


「うお──」


 天井からパラパラと破片が落ちてくる。壁に少しひびが入る。


「──っあっちだ、急ぐぞ!」


 そうして俺たちは、音が鳴ってきた方へ向かって走り出した。

 

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