53話 悪魔爆誕
「ソ、ソード‥‥? な、何を言って…?」
自分たちを悪魔にしてくれ、と。何の脈絡もなく飛び出たその突拍子もない願いに、バイオレッドは狼狽える。
「ハハハ! これはこれはぁ、面白い願い事ですねぇ!」
願いを聞いたシリップは少しの間あっけに取られていたが、すぐに破顔し、声を上げて笑い出す。
「喜んでもらえたなら何よりだ。で? 叶えてもらえるのか?」
ソードレットはその悪魔の様子も特に気にする様子もなく、冷静に質問を重ねる。するとシリップは満面の笑みで頷いた。
「もちろんもちろん! 二人ともお強いですからね、さぞ強力な悪魔になるでしょう!」
「そうか、それじゃあ早速…」
「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」
と、想像よりも早くに話がまとまり、少しだけ安心したらしいソードレットが悪魔化を頼もうとしたその時、バイオレッドが声を張り上げて制止する。
「ん? どうした?」
ソードレットが振り返ってバイオレッドの顔を見ると、彼女は慌てて抗議する。
「わ、私聞いてませんわよ!? 秘策があるとは言ってましたけど、悪魔化なんてそんな‥‥!」
「ああ、そういえば言ってなかったな。まあ、問題ないだろ」
ソードレットは何でもないことのように話すが、まともな感性を持つ人間からすればたまったものではない。
「ふ、ふざけないでくださいませ! 私はそんなこと──」
「ヒートが悪魔になった時のこと、見てただろ? 苦しいのは一瞬だけ、後は何の苦労もなくその力を使いまくれるんだぞ。何をそんなに拒むんだ?」
「そ…れは、でも‥‥!」
言い淀むバイオレッド。ソードレットは彼女の近くまで歩み寄り、誘いかける。
「倫理を気にするような性格じゃないだろ? 人間はもう駄目さ、四天王にあのザマなんだ、魔王にゃ勝てないだろうよ。 俺たちは悪魔になって、何も恐れることはなく、安全に雑魚どもを虐めて過ごそうじゃないか。なに、いつもと大して変わらないさ」
ソードレットの誘いに揺らぐバイオレッド。彼女もまた常人と比べればまともとは言い難い感性の持ち主だ。が、しかし。
「い、いや…ですわ、わ、私は…‥」
力や地位への執着よりも嫌悪感が勝ったバイオレッドは、怯えながらもソードレットの誘いを断る。それを聞いたソードレットは、しかし意外にも激昂することはなく、優しく笑みを浮かべ。
「‥‥そうか、残念だ。お前と一緒なら楽しいと思ったんだが…まあ強要はしないさ」
そしてシリップの方に顔を向け、彼に頼み込む。
「というわけで、悪魔にするのは俺だけだ。頼めるか?」
「ええ、ええ、お待ちしてましたよぉ! ではでは、早速やっちゃいましょうやりましょう!」
悪魔は待ちわびていたように嬉しそうに何度も頷き、ソードレットの傍へと降り立つ。
「助かるぜ。で、どうするんだ?」
「友好の証に握手をするのです! そうすれば我々は、フフフ、『友達』になれるのですよ!」
そう言ってシリップはにこやかな笑みと共にソードレットに手を差し出す。
「それだけか。そりゃ楽でいいな」
「ま、待って! ソード、本当に──」
ソードレットはバイオレッドの制止も聞くこともなく、シリップの手を握ろうとする。
「あ、そうそう念のため。悪魔になったら私に逆らえなくなっちゃいますけど、まあいいですよね!」
と、重要なことをあっけらかんと言い放つ悪魔。だがソードレットもそのくらいは想定内、今更慌てることもない。
「そのくらいわかってる。早くやってくれ」
そして彼は躊躇うこともなく、差し出された手を握り返した。
すると。
「う、…ぐ、うぅうぅぅ‥‥っ!!?」
触れ合った腕から何かが流れ込み、ソードレットの姿が変異を始める。肉体が不気味に蠢き、ソードレットは苦痛に顔を歪めた。
「ソ…ソード‥‥!?」
「あ、ぐ、うぅああぁぁあっ!!!」
少しずつ姿が変わっていくソードレット、彼は魔力の密集による光に覆われる。
「っ‥‥! …はぁっ‥‥はぁ‥‥」
そして彼の苦悶の声が止み、光が少しずつ収まっていく。そして、そこには──
「──は、はははは‥‥!」
鋭く爪の伸びた手を見つめる。具合を確かめるように翼を軽くはためかせ、尻尾をゆらゆらと動かす。
紛れもない、悪魔の身体だ。
「おお、素晴らしい、素晴らしいです! 素晴らしい力を感じます!」
その姿を見たシリップが嬉しそうにはしゃぎ回る。
ソードレットは、ゆっくりとバイオレッドの方へ向き。
「バイオレッド‥‥どうだ? 俺は、どう見える?」
「‥‥あ‥‥ソード‥‥あ、ああ‥‥」
悪魔に問われたバイオレッドは、答えることができず、膝から崩れ落ち座り込む。
その反応を見たソードレットは、満足げに翼を広げた。
「ははは‥‥! これで、俺が最強だ…!」
こうして、人類の新たな敵が誕生したのだった。




