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52話 勝利への道


「ねえ‥‥ソード」


 夕暮れ時。街中であればまだまだ明るい時間帯だが、ただでさえ光の差し込まない森の中は、すでに不気味な夜の闇に満たされつつあった。


「ソード…ねえってば」


 普段なら例え深夜であっても、獣や虫の奏でる騒々しい音楽に包まれている森だが、今は風の音すら聞こえない。眠らぬ森も今日ばかりは恐怖に静まり返っていた。

 気味の悪い静寂に響くのは二人分の足音。


「ねえ…聞こえてますの!?」


「ん? ああ、悪い、考え事してて聞こえなかったぜ」


 それと、不安げな囁き声だけだ。


「で、なんだ? なんか聞きたいことがあんのか?」


 ソードレットは振り返らず、暗い森の中を歩き続けながら聞き返す。彼らは、鬱蒼と茂る木々の隙間を縫って照り付ける夕日を頼りに、薄暗い獣道を進んでいた。


「あるにきまってるでしょう!? 四天王に私たちだけで挑むって、本気ですの!?」


 バイオレッドは周囲に警戒しながらソードレットに問いただす。森から何の音も聞こえないことがむしろ彼女の不安を掻き立てていた。


「あの四天王の悪魔のことを忘れたわけではないのでしょう!? アレと同じくらい強い奴に、本当に勝てると思ってるの!?」


 バイオレッドの脳裏に浮かぶのはあの日の恐怖。ヒートが悪魔になり、絶対的だと思っていたソードレットが一瞬にして敗れたあの日、輝いていた彼女たちの日常はあっけなく壊れた。


 それを成した元凶と少なくとも同じ程の実力を持つであろう悪魔と戦おうというのだから、正気を疑うのも当然のことだ。


「心配するなよ。俺には秘策があるんだからな」


 ソードレットは歩みを止めずに答える。どういうわけか、彼は自信に満ちているようだった。


「だからその秘策っていうのは何ですの? あの子供に加護を強化してもらったことと関係が?」


「ああ、これな。すげえよな、体のどこかからか力が湧いてくるのを感じるぞ」


 ソードレットは軽く腕を振り回しながら体の具合を確かめる。顔の前で拳を握り、しかし彼は首を横に振った。


「でもこれだけじゃ無理だ。四天王にはまだ敵わないだろうな」


「じゃあ‥‥!」


 勝算を否定するソードレットに、バイオレッドは慌てて抗議の声を上げる。すると、ソードレットは初めて振り返り、バイオレッドの肩に手を置いた。


「だから、秘策があるって言ってるだろ。お前は、俺の指示通りに動いてくれればそれでいい。それだけでいいんだ」


「そ‥‥そう…」


 いつになく優しい態度で接する彼に違和感を覚えるバイオレッドだが、彼があまりにも自信がありそうなのでとりあえず彼を信じることにする。


「それで‥‥私たちはどこへ向かっていますの? 悪魔のいる場所が、あなたにはわかるの?」


「わかるわけないだろそんなの。俺たちはS級パーティーだ、歩き回ってればあっちから出てきてくれるさ」


 適当なことを言うソードレットに早速不安になるバイオレッドだが、その時、彼女の背筋にゾッと悪寒が走る。


「…‥おいでなすったか」


 すでに日が沈みかけ、月が空に顔を出す時間になっていた。


 低く浮かぶ大きな月を背景に、蝙蝠のようなシルエットが月光に影を落とす。


「オマエ達は…冒険者ですかぁ?」


 背の低い男の悪魔だ。見た目だけで判断するなら、大して強そうには見えない、ヒョロヒョロのチビ。しかし、その姿を直接見れば、例えどんな素人だろうとソレがいかに危険な存在かが分かるだろう。


「やあやあやあ! 御機嫌よう、いい夜ですねえ。 私は魔王軍四天王が一柱、『禍福』のシリップ!以後、お見知り置きを~」


 シリップと名乗ったその悪魔は、目をギラギラと光らせながらソードレットたち二人を見つめる。


「俺はS級パーティー『紅蓮の刃』のリーダー、ソードレットだ。こっちは仲間のバイオレッド」


「ソードレットにぃ、バイオレッドォ? ハハハ、いい名前ですねぇ! やあやあ、よろしく、よろしく!」


 相変わらず目に危険な光を宿しながらも、何がそんなに面白いのか、悪魔は上機嫌に笑う。


「ああ、よろしく。早速で悪いが、お前に一つ頼みがあるんだよ」


「おやおやぁ? 頼みと! ええ、ええ、聞きましょう聞きましょう! さあさあ、何でも話してごらんなさい!」


 それを聞き、ソードレットは拍子抜けしたように息を吐く。


「なんだよ、やけに素直だな。初っ端から襲い掛かってくるかと思ったぞ」


「ハハハ、そんなことはしませんよ! 人の夢を面白おかしく叶えるのが私の趣味ですから!」


 ケラケラと笑い声を上げるシリップ、彼の言葉を聞いたソードレットはそれじゃあと、何でもないことのように言った。


「んじゃ、ちょうどいいや。俺たちを悪魔にしてくれよ」


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