31話 友情は盲目
──加護の力を移した。
浮かび上がってきた可能性に、血の気が引き、心臓が早鐘を打つように動き出す。
──そんなことがあるのか?
もし、それが事実だとしたら。もし、俺が本当に加護の力を移したのだとしたら──
──俺、すげえヤバいことをしちゃったんじゃ…?
もし加護が戻らなかったら土下座じゃすまんよこれ…?
俺は大慌てで魔法使い達の方を向く。彼らの身体の中央、心臓の位置に弱々しい光が見えた。
やっべ。めっちゃ弱くなってんじゃん。
「サイ…!」
「はいっ!? …うおっ」
と、顔を青くする俺に後ろから声がかけられる。血まみれで足を引きずっているが、自力で歩くことはできるようだ。そのくらいなら回復魔法ですぐにでも治るだろう。
…それにしても。
「?」
俺は首を傾げるルゥフをガン見する。
──めっちゃ光ってる。比喩とかではなく、物理的に──いや、物理的には光ってないのだが──とにかく物凄い光が彼女の身体から発せられていた。
どうすんのこれ…? どうやって戻せば…。
「ルゥフ、ちょっとすまん」
「…? うん」
俺はルゥフに向けて手をかざす。そして、絡まった糸をほどくようなイメージで力を送る。すると──
「‥‥う」
彼女の身体が小さく震え、大きな一つの光が小さな複数の光に分かれた。
よかった、ひとまず分離には成功したらしい。意外となんとかなるもんだな。
俺はそれぞれの光に「糸」を伸ばし手繰り寄せる。加護の扱いにも大分慣れてきた。
さて、あとは元の持ち主に返すだけか。
俺はそう思い、魔法使いたちの方を向き、そして気づく。
──どの光が誰のものかわからん。困ったな、これは困った。
…どうする‥‥? 光の大きさ的にそんなに差はなさそうだしもう適当に戻すか…?
などと、面倒になり始めた俺が考えていた時。
「お?」
魔法使いたちの身体から「糸」が伸び、それぞれの光に繋がる。そして、光は吸い込まれるように持ち主の身体に入っていった。
「あ、あれ…?」
「なんだろう、力が…?」
魔法使いたちも変化に気づいたらしい。俺は何もしてないので、加護の力が勝手に戻ったのだろう。結構融通の利く力だ。
一件落着だ。はぁ、よかった…。
「ルゥフ、大丈夫か? …ルゥフ?」
見ると、ルゥフはその場で少しふらつき、ぺたんと座り込んでしまった。俺は急いで彼女に駆け寄る。
「ん‥‥大丈夫…なんか突然力が抜けて…」
彼女は俺に寄りかかり、疲れたように呟いた。おそらく加護の力を移したことが原因だろう。よく見たら出血量が多いし、左足は折れてるかもしれない。
加護によるブーストで大丈夫なように見えてただけだったのか。
「わ、わっ」
俺はルゥフを抱きかかえて魔法使いたちの所まで連れていく。彼らもこちらに気づき、走り寄ってきた。彼らは急いで回復魔法の準備を始める。俺も彼らの加護を強化し、手助けする。
「…ルゥフ」
「あ…」
ルゥフが回復魔法を受けていると、シッフさんがルゥフの頭にそっと帽子を被せた。
帽子を深く被り、ルゥフは顔を暗くする。獣人だということがバレてしまったと、悪魔との戦いに集中し忘れていた事実が彼女の頭の中に蘇ってきたのだ。
獣人だの何だのと、俺は元から気にしていなかったからいいが、普通の人はそうもいかないだろう。
例えば突然ゴキブリが言葉を話し友好的に接してきても、すぐに嫌悪感が消えるかといえばそう簡単ではない。
例えが物凄く失礼だが、この国の住人にとっては本当にそんな感覚なのだ。
だが──
「そ、その…私、街を出てくから…教会には言わないで‥‥」
怯えた子供のような目でおずおずと冒険者達を見上げるルゥフ。そんな彼女に、冒険者達は目を合わせ。
「俺たちは何も見なかったよ。なあ?」
「…え?」
「ああ、別にまずいものは見てねえな」
「ルゥフちゃん、私たちを守ってくれてありがとうね!」
「大した人だよ、あんた!」
冒険者達は笑いながらルゥフの背中を叩く。その笑顔に嘘偽りはなく、皆心からルゥフを信頼していることがわかる。
ルゥフは驚き、目に涙が溜まっていく。
「今度は眼科いけ、なんて言うなよ?」
俺がからかうように言うと、
「うん…! えへへ」
彼女は本当にうれしそうに笑ったのだった。




