19話 会議
「よし、とりあえずこのメンバーか」
討伐隊の選考が始まってから数十分ほど経ち、隊員があらかた決定したようだ。俺は他の冒険者達の戦力が分からなかったのでただ見ていることしかできなかったが、特に異を唱える者がいないところを見ると信頼できると思っていいのだろう。
「うん、他にも加わりたいという人はいるかな?」
シッフさんが周りを見回しながらそう呼びかけると、俺は静かに手を挙げる。
「集団戦なら俺の加護が役に立つと思います。俺も加えてもらえないでしょうか」
「そうだね、確かに、君の加護が必要となるだろう。よし、じゃあ彼も加えて──」
「あ、あの…!」
「ん?」
と、そこで声をかけたのは、端から一連の流れを眺めていたルゥフだ。ルゥフは意を決したように言い放つ。
俺が彼女を見ると、彼女もまた俺を見て力強く頷いた。
「私も討伐隊に加えて下さい! きっと役に立ちます!」
「えっと、君は確か…ルゥフさん、だったかな? 君は…」
「彼女の実力は確かです。俺がこの目で見ましたから」
俺もルゥフに助け舟を出す。ルゥフが重要な戦力になるのは間違いないからな。
獣人とバレる可能性があったから推薦はしなかったが、彼女が加わりたいというのならばその意思を尊重しようと思う。
「よし、じゃあよろしく頼むよ。…他に、いるかい?」
シッフさんが声をかけるが、異論を唱える人はいないようだ。
「では、ここにいる18名を火竜の討伐隊とする! 皆、覚悟はいいね!」
「オオオォォォォ!」
「やってやるぜえええ!!!」
「火竜を討伐したら俺、告白するんだ…!」
ギルド内に気合の入った声が響き渡る。
「よし…! では次に、作戦だ! 討伐隊以外の人でもいい、何か策がある人は?」
作戦か…。確かに、無計画で飛びかかるのは危険だよな。何か、火竜に有効な作戦はあるだろうか。
「そもそも、火竜についてよく知らないんだけど…」
近くで見ていた冒険者の一人が小さく呟く。
まあ火竜なんて滅多にお目にかかれるものじゃないからな。知識が少ないのは仕方のないことだ。俺も本で読んだことがあるだけだし。
「では私が軽く説明を…。ゴホン、──」
──火竜。読んで字のごとく、火を噴くのが特徴の竜である。その外殻は非常に熱に強く、火口付近で溶岩に浸かる様子も目撃されている。
炎による攻撃のみならず、翼や尻尾、特に巨大な前足による攻撃は非常に危険である。もしまともに受ければ人間など蚊のごとく潰れるだろう。
大昔から存在している、いわゆる古竜の一種であり、火竜が集う火山は噴火するとの言い伝えから、一部の地域では神の使いとして崇め、畏れられていたこともあった。もちろん異端、罰の対象となる。
なおアッシュ山は火山ではないためなぜ火竜がいるのかは不明。
「──と、こんなところでしょうか」
説明を終えた受付嬢は、少し照れくさそうに呟いた。
「ありがとう。さて、火に強いとのことだから、当然炎魔法は効かないだろうね」
炎魔法は自然に対して強く、また魔物への牽制やら料理やらで何かと便利なため、魔法使いであれば大抵の者は習得している。
「ですが氷魔法は有効です。変温動物ですから、体温を下げれば動きが鈍ります。とはいえ、炎を吐いて体温上げるため、あくまで一時的な効果ですが」
「──よし、じゃあ作戦はこうだ。まず竜が好む匂いの狼煙を上げ、奴をおびき寄せる。そしたら奴が火を噴く前に隠れていた魔法チームが一斉に氷魔法を放つ。奴の動きが鈍っている隙に物理攻撃チームが集中攻撃、この間魔法チームは補助魔法や回復魔法で味方の援護、隙を見て攻撃。同時に氷魔法の準備。もし一度で仕留めきれなかったら再び氷魔法を一斉に放つ」
「よーし…!なんとかなりそうな気がしてきたぜ!」
「うむ、皆で頑張ろう」
「よし!では出発は明日の朝! 皆それまで英気を養っておくように!」
「おう!」
作戦が決まり、皆も気合を入れ始めた。集まったメンバーも精鋭ぞろいのようだし、これならなんとかなりそうだ。後残る問題は──。
「あれ? サイ、どこか行くの?」
俺がギルドから出ようとすると、ルゥフが話しかけてくる。
「ああ、ちょっと、な。加護の特訓だ」
「今から? もう夜だよ」
「長くはかからないよ。専門家に話を聞くだけだ」
「そ、そう。あ、私、サイにちょっと頼みがあって」
「うん?」
俺が聞き返すと、彼女は少し照れ臭そうにする。
「明日のことなんだけど──」