10話 帰るまでがクエスト
互いに自己紹介を終えた俺たちは、暗くなる前にギルドに戻るため、急ぎめで帰り支度をしているところだった。
「あー‥‥ところでルゥフさん」
「あ…ルゥフでいいよ。じゃなかったら…ルゥとか」
「オーケー、ルゥフ…ルゥ? まあ呼び方は後々、とにかく…あーその…なんか忘れてない…?頭がさ、ほら、涼しかったりしない?」
「…? ‥‥。…?」
どうやら伝わってなさそうなので、俺はフードを被るジェスチャーをする。すると彼女は少しの間首を傾げ、俺の伝えたいことを考えはじめる。そしてさわさわと耳を触り──
「……あ。────!??!??」
フードをしてないことに気づいたらしく、猛スピードで後ろ向きに走り、木に激突するルゥフ。大慌てでフードを被り、混乱しながら俺を指さした。
「み…みみ、見た? 見ちゃった…?」
まあ今までの流れで見てないわけはないんだが、どうせ密告とかする気もないしここはあえて見てないふりをするか。彼女も察してくれるだろう。
「いや? 俺は何も見てないよ」
「えぇ‥‥それは流石に…眼科とかいったほうが…」
「いや察して」
「え、あ、ごめん、もしかして生まれつき目が…?」
「そっちじゃねえんだよなあ」
はあ、と溜息交じりに立ち上がり、鞄を肩にかける。ゴブリンが落とした武器が何本か入っているので結構重い。
「獣人なんだろ? 心配しなくても誰にも言わないよ」
「や、やっぱり気づいてたんだ! なんでウソついたの」
「なんでだろうなあ」
地図を畳んで、よし、準備完了。後は帰るだけだ。かといって油断はしないように気をつけないと。帰るまでが冒険者だからな。
「ほら、そろそろ帰ろう。夜は危険だ」
「あ、うん。えっと…ほんとに言わない?」
彼女は涙ぐんだ目で見上げてくる。おっと、中々の破壊力だ。もし俺が獣人排除過激派だとしてもうっかりコロッといきそうだな。
「言わないよ。気分悪くなるだけだ」
俺の出身の村はなんと国教を信仰していない。教会のお偉い様方に言わせれば悪魔信仰、背教者だ。国に知れたらもれなく騎士様が大挙なして押し寄せる。
まあ、そういった理由で俺は、というか俺の村の皆は獣人を差別していない。
ちなみにジェシカは別だ。流石に王都で仕事をする予定の、将来有望なやつが背教はマズいからな、これに関しては別に文句はない。まあ、あくまでポーズだけで、本心ではどうでもいいと思ってるだろうけど。アイツは自分以外の全人類を差別してるようなもんだからな。
「そっか…えへへ、ありがと」
安心した彼女はにへらと笑みを浮かべる。全く、本当に状況が分かってるんだか、見てるこっちが不安になってくる。
「あ、そういえば、森に入ったってことは何かのクエストだろ?」
「うん。魔物の素材集めとか。達成して、帰ろうとしたら襲われちゃって」
そう言って彼女はパンパンに膨らんだ鞄をたたく。
「よし、んじゃ帰ろう!」
「おー!」
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さて、森をぬけ、無事ギルドに戻ってきた俺は、彼女のことを伏せて森の状況を報告していた。
「ゴブリンですか‥‥たしかに、不穏な空気を感じますね。わかりました、調査依頼を出しておきましょう。それと‥‥はい、こちらが追加の報酬になります」
予想通り追加報酬もばっちりだ。先に他の誰かに見つかってたら報酬は出なかったし、ラッキーだったな。
うーん、今日は色々あって疲れたし、宿に行って休むかな。
そう思い俺がギルドを出る。
「あ、まって」
と、同じくギルドでクエストの報告をしていたルゥフが追いかけてきた。
「その、今日はありがと」
「礼を言われるようなことしてないよ」
「ゴブリンの不意打ちのときとか‥‥それに、私を見ていやな目しないひと初めてだったし」
そう言って、ルゥフはぺこりとお辞儀をする。俺はそんな彼女に手を差し出し。
「もしよろしければお嬢さん、また俺とクエストに行きませんか?」
と、そう聞くと。彼女は驚いた顔になったのち、すぐに満面の笑みを浮かべ、俺の手を握り。
「え、と。よろしくお願いします。えへへ」
と、嬉しそうに呟いた。