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第9話 富豪たちが欲しかったもの

第9話 富豪たちが欲しかったもの


湖畔に十棟目のヴィラが完成した朝、森には薄い霜が降りていた。深い軒の下には薪が積まれ、煙突から上がる煙が風のない空へ真っすぐ伸びている。湖面には十棟の屋根が映っていたが、同じ形のものは一つもなかった。


最初のレインレスト荘は、灰色の石壁と一階の寝室を持つ家だった。隣には海運商ベルナーの、濡れた外套を何着も干せる乾燥室を備えたヴィラがある。その先には、織物商夫妻が北向きの大窓から柔らかな光を取り入れ、一日中機を織れる家が建っていた。


湖岸から少し離れた平屋には、杖を使う老医師が住んでいる。玄関から寝室、書斎、便所まで、敷居は一本もない。壁際の手すりは書棚と同じ木材で作られ、いかにも補助具という形には見えなかった。


料理好きの香辛料商が注文した家では、居間より厨房のほうが広い。調理台は家族全員が囲める高さに作られ、窓辺には香草を育てる細長い棚がある。朝になると焼いたパンと香辛料の匂いが道まで流れ、近所の子供たちが用もないのに玄関前を通った。


孫を迎える銀行家夫妻の家には、庭を挟んで小さな離れが建っていた。孫たちが成長したあとも使えるよう、寝台は大人の長さに合わせてある。しかし洗面台の一つだけは低いままで、遊びに来た子供たちは踏み台を使わず手を洗えた。


どの家にも、金箔の門はなかった。巨大な噴水も、二十人を招く舞踏室もない。その代わり、深い軒と丈夫な基礎があり、雨水を逃がす石溝があり、朝になれば誰かが火を入れる厨房があった。


十棟目に鍵を渡したあと、セシリアは湖畔の小道を歩いた。各家の郵便受けには、住人が選んだ木彫りの印が付いている。船、糸巻き、香辛料の壺、小鳥、葡萄の房が並び、番地を読めない子供でも家を見分けられた。


道の端には、工事で余った石を使った長椅子が置かれていた。買い物帰りの住人が籠を足元へ置き、湖を眺めながら休める高さになっている。横の小さな屋根の下には、急な雨の際に誰でも使える外套掛けがあった。


「十棟、全部違うのですね」


ガストンは十棟目の鍵の控えを木箱へしまった。以前は図面筒一つしかなかった工房にも、今では三人の若い設計助手と八人の職人が働いている。作業台の隅には、昼食用の黒パンと燻製肉が人数分積まれていた。


「住む人が違いますから、同じにはなりません」


「フローラ・アイランドなら、同じ型を百棟並べる予定でした」


「服でも靴でも、百人へ同じ寸法のものを渡せば、合わない人のほうが多くなります。家だけ同じでよい理由はありません」


セシリアは十棟目の図面を筒へ収めた。工房の壁には、次の三棟に使う土地の測量図が貼られている。どれも湖を見渡せる場所だったが、地面の傾きも、森から差す光の時刻も異なっていた。


人工島の購入者だった者たちも、少しずつ湖畔へ足を運び始めた。返還された資金の全額を再び家へ使う者もいれば、半分を仕事へ戻し、残りで小さな家を建てる者もいる。以前のように「百棟のうち何番目に豪華か」と尋ねる者はいなかった。


ある冬の午後、セシリアの工房へ一組の夫婦が訪れた。夫は製塩業で財を築いたオスカー・ヴァルト、妻は白髪を青い布でまとめたヘレーネだった。二人は人工島で、海を見下ろす第七号邸を購入していた。


オスカーは広い食堂の図面、二階まで吹き抜けた玄関、客室十二室を希望として挙げた。持参した紙には、大理石の階段、彫刻の並ぶ回廊、海を見下ろす大広間まで書かれている。人工島の完成予想図から写したと思われる線も残っていた。


「今度こそ、客を驚かせる家を建てたい。王都の屋敷より広く、湖畔のどの家より高い塔があればいい」


「塔からは、何をご覧になりますか」


「湖と森だ。客が来たとき、領地の端まで見渡せるようにしたい」


「毎朝、その塔へ上がりますか」


オスカーは答えず、紙に描いた大階段へ指を置いた。向かいに座るヘレーネは、外套を脱いでも手袋を外していない。指の関節へ巻いた薄い布が、手袋の隙間から見えていた。


セシリアは新しい聞き取り用紙を出した。財産額を書く欄も、希望する部屋数を書く欄もない。最初にあるのは、家族が朝起きてから夜眠るまで、どこを通り、何をするかを書くための大きな空欄だった。


「朝、どこで食事をしたいですか」


オスカーは椅子の背にもたれた。質問の意味を測るように、壁に貼られた図面とセシリアを交互に見る。やがて窓から湖を見下ろせる大広間がよいと答えかけた。


「朝から大広間へ行くのかしら」


ヘレーネが先に口を開いた。手袋をした指で、夫の持参した図面の大階段をなぞる。階段は二股に分かれ、中央には人物の彫像を置く予定になっていた。


「私は朝、厨房でお湯を沸かして、窓辺でパンを食べます。あなたは寝室へ盆を運ばせているでしょう」


「新しい家なら、大広間で食べてもいい」


「二人だけで二十人掛けの卓に座るの?」


オスカーは大広間の図面を折った。工房の暖炉では、小さな鉄瓶から湯気が上がっている。助手が木の盆に焼いた栗を載せ、客の間へ置いた。


「それでは、実際に朝を過ごしている場所を見ていただきましょう」


セシリアは二人をレインレスト荘へ案内した。湖畔の道には昨夜の雪が薄く残っていたが、各家の前は住人たちが掃いてある。石溝の上だけは雪が早く解け、細い水が湖へ向かって流れていた。


マダム・ローザは朝食室で、乾燥させた林檎の皮を茶へ入れていた。窓辺の小さな卓には、三人分の焼いた丸パンと蜂蜜が並んでいる。暖炉の脇では、毛糸の室内履きが一足乾かされていた。


「見学のお客様よ。大広間が欲しいそうなの」


ローザは銀色の鍵を食卓へ置いた。何度も使われた鍵の表面には細かな傷が増え、《レインレスト荘》の文字だけが手の脂で磨かれている。彼女は客へ椅子を勧め、焼いた栗の皮を指で割った。


「この家で迎えた最初の冬、夜中に嵐が来ました。王都の一部では灯りが消えたそうね」


ローザは暖炉へ薪を一本足した。乾いた木が割れる音がし、赤い火の粉が奥へ飛ぶ。煙突には風よけがあるため、湖から風が吹き付けても煙は部屋へ戻らなかった。


「ここでも油の配達が二日遅れました。でも暖炉は使えたし、地下槽に水があった。寝室から厨房まで一人で歩き、鍋で湯を沸かせました」


ヘレーネは食卓の端へ手を置いた。朝食室は六人も入ればいっぱいになる広さで、天井も特別高くない。けれど窓から冬の光が卓上まで入り、蜂蜜の瓶を淡く照らしていた。


「夜は怖くありませんでしたか」


「雨音を聞いているうちに、朝まで眠りました。屋根も窓も、セシリアが直したとおり働いていましたから」


ローザは銀色の鍵をヘレーネの前へ滑らせた。ヘレーネは手袋を外し、関節へ巻いた布の上から鍵へ触れる。重い鍵ではなかったが、指を大きく曲げなくても回せるよう、持ち手が広く作られていた。


「この鍵なら、私にも使えます」


「私も冬になると指が動きにくいの。だからセシリアに、つまむ鍵ではなく、手のひらで回せる鍵を頼みました」


オスカーは窓の外を見た。湖面の向こうには森が広がっているが、人工島の完成予想図のような塔は一つもない。代わりに、十棟の煙突から朝食の煙が上がり、低い屋根の間を人々が歩いていた。


彼は持参した図面を開き、大階段の中央へ線を引いた。次に、客室十二室のうち十室を消す。海を見下ろす大広間の余白には、別の言葉を書き加えた。


《湖を望む朝食室。二人用。厨房の隣》


「家を小さくしてもらいたい」


セシリアは変更された紙を受け取った。オスカーはヘレーネの手袋を食卓から取り、布の巻かれた指を一度見てから続ける。今度は、誰かを驚かせるという言葉を使わなかった。


「妻が一人になっても、階段を使わず暮らせる家にしてくれ。寝室と厨房と、このくらいの朝食室が近くにある家だ」


「あなたが一人になることもあるでしょう」


ヘレーネは夫の前へ丸パンを一つ置いた。オスカーは二つに割り、片方へ蜂蜜を塗って妻へ渡す。二人は窓辺の卓に並んで座り、湯気の立つ林檎茶を飲んだ。


セシリアは工房へ戻ると、新しい設計図を広げた。大理石の階段も、十二の客室も、湖畔で一番高い塔も描かなかった。一階の中央へ厨房を置き、その隣に二人用の朝食室を作る。


朝食室の窓は湖の東側へ向けた。冬の低い日差しが食卓まで入り、夏には深い軒が強い光を遮る。寝室からは短い廊下一本で行けるようにし、途中の扉には握らず押して開けられる金具を付けた。


夕方、オスカー夫妻は完成した設計案を見に来た。図面の中央にあるのは大広間ではなく、小さな朝食室だった。窓の外には湖、卓上にはパン籠と二つの茶碗が描き込まれている。


「以前なら、この家は富豪らしくないと言われたでしょうな」


オスカーは図面の余白へ署名した。ヘレーネも手袋を外し、持ちやすい太さのペンで自分の名を書く。二人の署名は、湖を望む朝食室のすぐ下へ並んだ。


セシリアは契約書を革鞄へ収めた。窓の外では十棟の家に夕方の明かりがともり始めている。大きさも窓の位置も違う光が、一つずつ湖面へ映った。


「富豪の夢とは、誰かに見せる景色ではありません。明日の朝も、ここで目を覚ましたいと思えることです」


春に完成する十一棟目のヴィラには、金箔の門も塔も造られない。代わりに湖を望む小さな朝食室があり、二人分の丸パンを置ける食卓が用意されることになった。


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