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不思議ちゃんにも訳がある

なんの地雷にも配慮していません。


この作品は百合ですが、


苦手な方はブラウザバックを推奨いたします

お母さんとお父さんが喧嘩している。

それ自体は、別に珍しいことじゃなかった。


ただ「由良もお父さんの味方なんでしょ!出て行って!帰ってこないで!」と家を追い出されてしまったことが問題だった。時刻は19:30、辺りは暗い、こんな時間に外に出歩いていることがバレたら警察に補導されてしまう。でも、家に帰ればお母さんから怒られてしまうだろう。


暴力だって、振るわれるかもしれない。


殴られること自体はいい、痛いのは一瞬だから。でも、その後にお母さんが傷つくのが嫌だった。いくら嫌いな娘とはいえ、産んだ子を殴るのはつらいのだろう。殴ったあと、お母さんはいつも泣いていた。


携帯端末で夜間空いてそうな、未成年でも入れそうなお店を探す。そうしたら、路地裏にある『ご自由に』というお店を見つけた。レビューでは店主も店員も居ないそうだ。ここなら、と思って足を進めた。


レビューを見ながら、歩いて辿り着いたはいいが、どうやらここは自分で料理を作る場所らしい。料理なんてやったことが無い、だからどうしようかと、迷っていた時だった。


「アンタ、こんなところで何してんの」


自分と歳が近いような見た目の女の子。それに、救われた、と思ってしまった。


* * *


はふ、はふ、ずるる、


夜泣きうどん、と言うらしい料理は初めて食べた。うどんなのにしっかり味がして美味しい。とろみのついたお出汁をちょっと飲めば体が芯からぽかぽかしてきて心地いい。こんな美味しい料理、初めて食べたかもしれない。お腹が減っていたこともあり、そんな興奮のまま感想を告げると、楓ちゃんは顔を逸らして「安上がりなやつ」と言う。それが照れているように見えてにこにこしていれば、「笑うな!」と噛み付かれてしまった。


なんだか、子猫みたいな人だなぁ、というのが、料理を作ってもらってからの感想だ。


第一印象は怖い人。

だって、遠回しに帰れって言ってきたり、財布を叩き落としたり、気が荒いことは何となく伝わってきていたから。まぁ、突然財布を取り出した自分も悪いとは思う。お金で解決しようなんて自分でもちょっと常識がないように思えるから。


でも、「熱いから気をつけなよ」とか、「美味しくなかったら残していいから」とか、うどんを前にそう気を使ってくれるところを見る限り悪い人じゃないのは確かだ。


それはそうと、わたしは相当お腹がすいていたのか、一玉をぺろりと平らげてしまい、かき卵の浮いたお出汁も全て飲んでしまった。それを見た楓ちゃんは「ふうん」なんて言いながら食器を片付ける。ここで手伝えればいいのだが、残念ながら家事なんてしたこともない自分は足手まといにしかならないだろう。それでも、と「手伝う、よ」と声をかければ、楓ちゃんは「座ってろ」とだけ。


そしてテキパキと洗い物を終えて食器を拭いて、元の場所に戻して戻ってきた楓ちゃんは手馴れているように見えた。


「なぁ」


それから、少し開けたスペースのソファに座っていたわたしの近くに腰掛けた楓ちゃんが声を掛けてくる。


「な、なぁに?」


「………美味しかった?」


ふい、とそっぽを向いたまま、でも、たまにちらりとこちらを向く楓ちゃんに、心臓がきゅんっと動いた気がした。誤作動かもしれないが、これは楓ちゃんに可愛いと思ってしまった証拠ではないのだろうか。


「美味しかった、よ」


「ふーん」


返事は素っ気ないが、耳が赤い。


「ふふ」


「な、何笑ってんだよ、!」


「楓ちゃん、可愛い、ね」


「はぁ!?」


楓ちゃんは、「不思議ちゃんの癖に」だとか、「初対面だろ」とか文句を言っているが、それでも照れていることに変わりは無い。それが微笑ましくて、お母さんのことも忘れてしまいそうだった。


「で、お前、今日帰れんの?」


でも、それは許されない。


「…帰れ、ない、」


楓ちゃんは心配から言ってくれたのだろう。それでも、思わず突きつけられた現実に吃ってしまう。


「ここ、24時間営業じゃないから泊まれねぇぞ。

 ホテルも、保護者同伴じゃないと…」


「わかっ、てる。

 だからそこら辺で時間、潰すよ」


少しの沈黙。


「それでいい訳?」


楓ちゃんは、今度は目を逸らさずにじっとこちらを見つめている。エメラルドグリーンの瞳が、なにか答えを求めるかのようにその質問以降の沈黙を守ったまま。


「で、でも、他に行く場所、無いし」


そう言えば、楓ちゃんは「あーもう!」と頭を抱えて何かを悩んでいる。しばらく待てば、また目が合った。


「さっきの図々しさはどこに行ったんだよ!

 「家に泊めて」くらい言えないのかよ!」


急に怒るのでびっくりしたが、楓ちゃんは家に泊めてくれようとしているらしい。それにしても、店の前でのやり取りは図々しかっただろうか。「でも、楓ちゃんの家族に悪いし」と言えば、「一人暮らしだよ!悪いか!」と謎にまたキレられる。悪くはないけど、じゃあなんでここに来ているのだろう。まぁ、そんなことは置いておいて。


「…お家、泊めてくれる?」


楓ちゃんは、ふんっと鼻で笑った。


「しょうがないなぁ」


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