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不良少女はいい子じゃない

なんの地雷にも配慮していません。

この作品は百合ですが、

苦手な方はブラウザバックを推奨いたします。

出汁に片栗粉を入れてとろみをつける。そこに卵を落とせばふわふわになっていい感じだ。それに茹でたうどんを入れて適当に味付けしたお肉を乗っければ、簡単夜泣きうどんの完成である。


二人分、久し振りに作るから味付けの分量が心配だが、そんなこと気にしていないのか、目の前の礼儀もへったくれもない同級生ははふはふとうどんを啜って「おいしい」なんて瞳を輝かせている。毒気を抜かれる、というのはこういうことを言うのかもしれない。


所謂一般的な不良と呼ばれる部類に所属している私と、学校ですら浮いている不思議ちゃんの藤見由良がこうして食卓を囲んでいるのには、それなりの回想が必要だった。


* * *


夜間食堂『ご自由に』。

裏路地にひっそりとあるその店は、業務用の冷蔵庫と少し本格的なキッチンがあるだけで店員も店主もいない。ここで出来るのは業務用の冷蔵庫に入った食材や持ち込んだ食材で料理をして食べることだけである。後は、少しの休憩スペースがあって、そこに漫画やらトランプやらが置いてある。


私はそこにお世話になってもう何年も経つ。


何度か顔を合わせたことがある人はいるが、誰かと一緒に食べる、なんてことはなかった。ここではあまり、コミュニケーションを得意とする人はいない。そもそもこんな場所で夜中に料理をしている人間にマトモな事情があるわけがない。関わるだけ面倒だ、なんてここに来ている全員が思っていることだろう。


今日も、家に帰りたくない日だった。だから、食堂が開く時間までふらふらして、夜の街をぼんやりと眺めながら時間を待った。


いつもと違ったのは、食堂の前にどこか不安そうに辺りを見渡す不審者がいたことだ。


残念ながら、警察を呼ぶという選択肢はない。未成年がこんな時間に警察を呼べば、自分ごと連れていかれるのが目に見えているからだ。だから、声をかけるしか無かった。自分で言うのもなんだが、私は顔付きが冷たいと称されることが多ければ目付きも悪い。威圧になるだろうと胸を張ってずんずんとその不審者に近付いていけば、その不審者が思ったよりも小さいことに、女の子であることに驚いた。


「アンタ、こんなところで何してんの」


愛想がないことくらいわかっている。


それでも、暫定不審者相手に下からなんて自分の柄ではない。今の私は間違っていない、そう自分に言い聞かせる。


「ここ、ごはん、食べれるって聞いた」


ん?と、少し記憶を遡る。この声は聞いたことがあるような気がする。ここで出会ったのは初めてだ、だから外ではない。じゃあ学校でか?じ、と不審者を見下ろせば、特徴的な長い黒髪に銀色の瞳をした珍しい虹彩と目が合う。


あぁ、思い出した。藤見由良、学校では有名な不思議ちゃんな転校生で、いじめというほどでは無いが遠巻きにされていつも一人で行動している同じ学校の生徒だ。


「食べれるけど、アンタ料理できるの?」


ここでは、自分の分は自分で作る、という暗黙のルールがある。こんなふわふわしたいかにも箱入り娘です、と言わんばかりのオンナノコに料理が出来るのだろうか。


「…料理、出来ない」


「あっそ、じゃあ帰れば?

 ここは自分の分は自分で作るのがルール、

 出来ないなら他所をあたって」


冷たいと言われようが、なんとなく自分のテリトリーを荒らされているようで気に入らないのも確かだった。


「他のお店、この時間は一人で入れない」


食い下がってくる藤見に少しだけ苛立つ。だから、少し語気を強めて「じゃあ家で食べればいいでしょ」と吐き捨てれば藤見から返ってきたのは「お母さんに帰ってくるなって言われた」というなんとも気まずいものだった。家族事情なんて知るか、と言いたいが、藤見があまりにも平坦な声と顔で言うのでここで声を荒らげるのも違う気がしてくる。


「…私には関係ないから」


何を言っても意味が無い気がして、「待って」と藤見の制止を振り切って店にはいる。いつも通り業務用の冷蔵庫を開ければ、適当な材料が入っている。ただ、藤見と喋ったせいなのか、なぜか二玉置いてあるうどんに目がいく。


らしくないのは分かっていた。


それでも、何となくこのまま放置するのも悪い気がして。このままだと弱いものいじめをしたような気がして、「(まだ居るならね)」と心の中で付け足して店の扉を開ける。


そこには店の前に座る藤見の姿があった。目が合うと、藤見はごそごそと懐を漁って何かを差し出してくる。


財布だった。


「なにこれ」


「ルール違反なのは、分かった。

 だから、ちゃんとお金を払うよ。

 私の分の料理も作って」


かっと、頭に血が上る感覚。


「ふざけないで!お金なんて、!

 おかね、なんて…」


振り払った財布が飛んで行ったのを見て、少し冷静になった。藤見の言うことは一理ある。作れないのだから、対価を支払って作ってもらおうということだろう。それが私の地雷を踏んだだけだ。


驚いた様子もない藤見は、いそいそと財布を拾いに行くと、こてんと頭を下げた。


「怒らせちゃった、ごめんなさい。

 でも、他にどうすればいいのかわからなくて」


その姿が、不思議ちゃん、箱入り娘、なんて言葉では表せない何か嫌な感じがして、頭が冷える。この子は、少し子供なんだ、と理解することにして、しょうがなく店の扉を開けてやる。不思議そうな顔をしている藤見に、「二人分作るから、美味しくなくていいなら食べていけば」と伝えると、藤見のぱぁっと表情が明るくなった。


「いい、の?ありがとう、!

 …あ、わたし、藤見由良、貴方の名前は?」


今更かよ、なんて呆れる。


「楓、空崎楓」



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