整備屋の面接
「やっと終わった」
空き家の掃除を終えた俺は街外れの丘のふもとにある小さな白い家の前に立っていた。
まずはとにかく人手が必要だ、1人じゃ大変だろうし。
街にチラシを配ったり、Webで募集をかけてみたりはしたが、人が集まるとは思えはないな。
そんなことを考えている時後ろから声をかけられた。
「あのぉ」
声の主を確認するため俺は振り向いた。
背後にはソワソワした背の低い女がたっていた。黒のボブヘアーで顔は整っているように見える。
「チラシを見てぇ、これってここですよねぇ」
間延びした声で女は俺が配ったチラシを見せてきた。
―――これはチャンスだ、この女はおそらくここに働きに来たのだろう。ここで逃がす訳には行かない
「そうですよ!もしかして面接を受けに来てくれたんですか?」
精一杯の笑顔を作って俺は答える
「ヒッ、あ、は、はい」
人の笑顔を見て顔を引き攣らせるとは失礼なやつだ。
「では中へ、どうぞどうぞー」
――――――――――――
空き家の一室で俺と女は向き合って座っていた。
「それでこのチラシはどうやって?」
「日坂さんに貰ってぇ」
予想外の答えが返ってきた。
「は?日坂に、どうやって?」
日坂にもいくつかチラシを渡してはいたが正直期待はしていなかった。
「実はぁ…元々日坂さんの所で働いてたんですけどぉ、ちょっとミスっちゃって役員さんたちを怒らせちゃったんですぅ。それでもう仕事しにくくなってやめようって時にここのチラシもらってぇ、」
ハキハキ喋って貰いたいと思いながら俺は質問を続ける。
「その失敗って?」
女は少しの沈黙の後答える
「まぁ関係ないじゃないですかぁ」
関係大ありだ。
そこからは彼女についての質問をいくつか行った。そうして彼女の名前は大河 虎子俺の一つ下の22歳で新卒で日坂の会社に入ったようだ。
そうして最後の質問をした。
「竜は好きですか?」
そう聞いた途端彼女は目を輝かせながら話し始めた
「もちろんです!!!あの宝石のような美しい鱗。水晶のような澄み切った目。そして竜と呼ばれるにふさわしい勇ましさとたくましさ、あの雄々しさに比べたら人間のオスなんてゴ…」
「ちょ、ちょっと待って」
俺は先程とはうって変わって饒舌になった女を止めた。
女もこちらのドン引きする様子を察したようだ。
「す、すみません。熱くなっちゃいましたぁ、」
「い、いえ全然竜への愛が伝わってきましたよ」
大事な働き手がこれで辞退されては困るので気にしてない風を装う。
「ちょっと失礼」
俺はそう言って席を外し、トイレに向かった。
トイレに入るやいなや俺はすぐに日坂に電話をかけた。
「もしもーし」
日坂の楽観的な声が聞こえてくると同時に俺は小声で日坂に質問した。
「大河って女がうちに来たんだけどどういうこと?」
苛立つ俺をなだめながら日坂は説明をする。
「あ、あの子ちゃんとついたんだ抜けてるとこあるから心配だったんだよねー。本人に聞かなかった?僕の所の社員だったんだけど仕事で失敗しちゃったからここを紹介したんだー」
「まぁ僕的には面白いからいてくれてよかったんだけど、役員の人達と社員たちがカンカンでさぁ」
俺はいちばん気になっていたことを聞く。
「その失敗ってのはなんなんだ?」
「いやー、まぁいいじゃん細かいことは」
こいつにもはぐらかされてしまう
「教えてくれないと雇わないぞ」
「教えたら雇ってくれるの?」
「内容によるな」
「じゃあ教えなーい」
クソ、まぁどちらにせよ人はやとはなければいけない。ここはしょうがないと割り切るか。
「わかった、教えてくれたら雇おう」
日坂がニヤニヤしながら答える。
「あの子、竜が好きみたいでさぁ」
「そら俺だって竜は好きだぞ、だから整備屋になりたんだし」
「いや、恋愛的に」
は?
あまりの衝撃に言葉を失った。
「いやぁ、あの子竜が好きなあまりにうちの竜を何匹か逃がしてちゃってさー結局全員捕まれられたんだけどねー」
「で、雇ってくれるんだよね?」
1度言ってしまったのだから嘘はつけない、
「あ、あぁ、わかったよ。分かった分かった」
諦めと失望の混じった同意を行う。
「じゃ、そゆことでー」
一方的に電話を切られてしまった。
トイレから出た俺は急いで部屋に戻る。女は不思議そうにこちらを見ている。
「大河さんって竜が好きなんですか?…恋愛的に」
言い終わると同時に大河の顔が真っ赤に染った。
「い、いやいやいやいやいや。べ、別に好きってわけじゃないんですよ?まぁ、かっこいいなぁ位は思いますけど、男児だって龍をかっこよくおもうでしょ?それと同じ感じで…」
「あー、分かった分かった。まぁどっちにしろ採用だからさ」
そう聞いた途端大河の顔が明るくなる。
「良かったですぅー!!!!ここを落ちたら、働き口がなくてもうどうなる事かと思ってたんですぅー」
どうなる事かはこっちのセリフだ。と思いながら喜ぶ大河を尻目に俺は心の中で頭を抱えていた。




