湿地帯を目指せ 7
湿地帯を目指せ最終話となりますね。
ジャックとアンヌの二人での会話が描かれた一話となります。
では本編へGO!
アンヌは自室にある風呂場でシャワーを浴びるにあたって、身の安全の為に下着姿でウロウロしている変態ドラゴンであるリアンを縛り付けてから風呂場に入っていった。
リアンは口にタオルでふさがれている為呻くことしかできないが、まるで意に返すこともなく鼻歌交じりにシャワーを浴びていくアンヌを想像して血の涙を流しながら物凄いうめき声をあげる。
そんな血の涙を流す両目すらもタオルでしっかりと縛り塞がれているので抵抗がまるで出来ない。
女になり女子風呂へと入ることが合法的に出来るようになったリアン、しかし今現在風呂場を覗かれない様にと縛られることで願いが叶う事は無いだろう。
襲われる心配を懸念するという意味ではアンヌの取った行動は非常に正しく、リアンは最後はシクシクと泣き始めた。
「泣いて同情させても拘束は解かないからね。全く。隙あらば風呂場にのぞき込もうとする!」
髪にシャンプーを泡立たたせてしっかりと頭皮を洗い、それを洗い流してトリートメントを掌に伸ばすようにする。
しかし、同時に心の中では後継者争いの事が頭の中から離れない。
髪を洗い終えてから体を洗ってそのまま湯舟にしっかりと浸かってため息を漏らす。
「後継者か…王族制度だとどうしても起きるよねぇ…関わりたくないんだけど。でも、ジャックの仕事だとどうしても関わるよね」
この場合だとジャックが後継者三人の内誰か一人を指示するべきなのだろうと思う。
肝心のジャックがそれに興味があるのかどうかが問題であり、下手をすると状況を悪化させかねないと思っていた。
実際勇者時代にある後継者争いをしていた王国の相談に乗り、結果ジャックはその後継者争いを過激化させたという前科がある。
ジャックは王族や貴族という金持ちや権力を持つ人間の考えには疎く、全く理解をしようともしないので、発言次第では相手の心をへし折ることもある。
「どんな試練なのかな? まあ、屈強なオーガからすれば戦うっていう試練なんだろうな…でも周りが湿地帯なら湿地帯に試練をする場所があると考えたほうが良いよね? 案外湿地帯を歩いていたら遭遇したりして」
あくまでも独り言ではあるが、リアンはまるで縛られている自分に語り掛けておるのではと錯覚させた。
リアンが何度かうめき声をあげているとアンヌは「うるさい!」と叫ぶ。
理不尽さを感じ取ったリアン。
「でも湿地帯って湿気が凄そうで嫌だなぁ。まあ船が動かないのなら仕方ないよねぇ」
本当は船で向かいたいアンヌ、湿気がヤバい所はあまり行きたいとは思わない。
と言うのもアンヌは本来髪の毛の癖が強くカールなのも毎朝整え直してようやくカールレベルなのだ。
放置していれば爆発していてもおかしくないレベルのクセ毛である。
自分の髪先を指で弄るアンヌ。
「ジャックはもう頭部を洗わないで良いんだよね。だってあの兜取れないんだもん。頭部をボディソープで洗うのかな?」
少し気になるアンヌ、少し長く浸かりすぎたかもしれないと湯舟から出ていきタオルでしっかり拭いてから下着と薄ピンクのフリルが付いているパジャマに着替える。
リアンの紐を解いてからアンヌはそのまま部屋を出ていく。
一人で階段を上って四階へと辿り着き柵を通じて見えてくる街中の風景へと思いはせる。
湿地帯はあっちだろうかなどと想像してみながらじっと同じ方向を見る。
すると、後ろから気配を感じて振り返るとタオルを首に掛けてタンクトップと短パン姿のジャックだった。
「何をしているの? 夜風でも?」
「まあな。寝る前にな。こうやってゆっくりと同じ星空を見ているのはここ最近当たり前だったからな」
「そうだったね。勇者として本格的に動き始めてからあまり無かったよね。私も聖女として忙しかったし。でもね…私はずっとこうして呑気に旅でもしてみたかった」
ジャックは驚きを隠せないようで、兜越しなのでイマイチ分かり辛い所ではあるがアンヌにははっきりと分かった。
「意外? 私教会が嫌いだしあまり政治とか権力とか興味ないしね…真面目にコツコツと仕事をしているよりは自由にしていたいって気がするな」
「そうか…俺は良く分からないな。自由も良いけど正直に言えば在る程度真面目に仕事もしていたいって気がするよ」
「ジャックはそうかもね。私は違うかな。教会から仕事が来るたびに「嫌だな」とか「断りたいな」とか考えてた」
「そんなことを考えながら仕事をしていたのか? 流石に引いたぞ。真面目にしているとばかり思っていたが、内心は嫌がっていたのか?」
「うん。だって…」
だって人の為にと言い聞かせてもそれが人の為だとあまり実感できない毎日、金を稼いでいるという実感をどうしても持てないのが教会である。
人の為になるという自覚を持てない教会の方針はどうしてもアンヌの肌には合わない。
「それはそうかもな。でもさ。教会ってそういうものじゃないか? ヒューマン族の心の安寧の為にするもので、最悪その為なら悪いことだって行うさ」
「そうかもしれないけどさ…」
「でも。アンヌにはそうかもな。俺はまだ一線を引くことも出来るし、いざとなったら逃げるけど。アンヌは中途半端にそういう判断は出来ないよな?」
「そうだね。中途半端も嫌だからね。今、事実上放置されているのが嘘だって思えるぐらいだもん。ねえ…今何を調べているの?」
「………」
「言えないよね。という事はジャックにとっては大事な事なんだよね。分かったら。それを教えてもいいと思えたなら教えてくれる?」
ジャックの顔を覗き込むアンヌの瞳をしっかりと観ながら「うん」とだけ答えた。
「その時が来たら答えるよ。ちゃんと理解したらな」
だが、本当のところ答えは既にでている。
今探していることもその裏付けがどうしてもしたいのだ。
「アンヌでも本当の聖典は見たこと無いんだよな?」
「ていうか本物の聖典って本当にあるの? 司祭クラスとか皆見たこと無いって言うよ。教会本部の過去の書物を保管している保管庫とか見たことあるけど、無かったし」
「でも、どこかにはあると聞いたことがある。何処だろう?」
「ナーガもあるんだよね? 二つ名」
「あると言われているだけだ。誰も知らない。現存している聖典にはどこにも書かれていなかった」
それは本当の話で誰も聖典の原本は見たことが無いのだ。
「遥か昔に失われたと言われている原本だっけ? だからヒューマン族以外は女神の存在に対して懐疑的なんだよね」
「らしいな。教会の権威が外には無い理由だな。まあ…何処かにあるなら旅をしていけば分かるかもな」
ジャックはアンヌに「そろそろ寝るか?」と尋ねると、アンヌも「そうだね」と言いながら二人で中へと戻っていった。
自室に入るアンヌを襲うとするリアンの鳩尾に拳を叩き込み、リアンを紐で括りつけてベットに放置してから、アンヌもまた自分のベットの中へと入っていった。
どうでしたか?
リアンはアンヌからも似た扱いを受けていますね…同情は出来ませんけどね(笑)
普段からセクハラばかりしているとたとえ女でも酷い目に遭うという言いたとえですね。
では次は赤鬼のオーガ第二十三話でお会いしましょう!




