71話 空間にぶちこむ
朝。
『おはよーイオリー。朝だよー。』
『起きろイオリ!おはよう!』
精霊たちに今日もペシペシされて起きた。
「・・・うぅっ・・・ふぁ~。おはよう。・・・わっ!?荷物が散乱してる!?」
体を起こして見回すと、テント内はマジックバッグの中身が散乱していた。
・・・あ、そういえば中身ぶちまけたまま寝て狭間の世界に行ってたんだった。
自分でやっといてびっくりするなんて恥ずかしい。
今日の俺の担当?は時の精霊と霧の精霊だ。
ふたりともはじめましての精霊で、時の精霊は丸い目覚まし時計にちっちゃい手足が生えた姿で手には長針と短針を持ってて目はタレ目だ。
霧の精霊は全身がモヤみたいに霞んでて、目はそこら辺の小石よりちっっちゃい。
俺を起こしたのは時の精霊で、手に持っている長針と短針で叩いてきたようだ。初対面になんたる仕打ち!
「ふたりともはじめまして。今日あんまりしゃべれないけどよろしくな。」
護衛中だから精霊としゃべれるのはこのテント内くらいだ。
例え1人になった瞬間があっても小声でしゃべらないとな。
聞かれたら確実に頭がおかしいと思われて怪しまれちゃうからな。
『いいよこっちは気にしなくて。俺たちは見てるだけで面白いもんな。』
時の精霊はそう言って空中に浮いてたのを俺の肩に乗ってきた。
『イオリの行動を生で見れるの楽しみなんだー。ふふふー。』
どうやら霧の精霊はのんびりした、語尾をのばすしゃべり方のようだ。
『夕べの配信も見たよー。空間に荷物入れるの見たいよー。』
あの野郎、またポンポン配信しやがったな。
精霊みんなが事情を知ってて初対面の相手でも話が通じやすいからいいけど、やっぱりプライベートを垂れ流しにされるのは慣れないな。
ま、そんなことより霧の精霊のリクエストもあるし、俺も早速試してみたい。
使い方は頭に入ってる魔法の本に載ってる。
「んじゃ早速。」
俺はすぐ側にあった毛布を捲って、手をかざした。
『リンク』
捲った毛布と床の間の空間がぐにゃりと歪んだ。
そこにこれまたすぐ側にあった靴下を試しに入れてみた。
靴下は歪んだ空間に入っていって見えなくなった。
そして俺は頭に靴下をイメージしながら手を突っ込んだ。
すると靴下が手に触れて、それを掴んで空間から出した。
「おー!できた。続きまして・・・。」
今度は衣類を全部入れて、頭の中にズボンをイメージしながら手を突っ込んだら、イメージしたズボンを掴んで出せた。
「これもできた!おもしれー。」
ズボンを再び入れて、今度は空間を覗き込んでみたら中に何が入っているのかひと目で全体が見えるようになっていた。
どうやら入れた物は自動的に整理整頓されて覗いたらすぐ何がいくつ入ってるのかわかるようになってて、イメージしながら手を入れたらそれが掴めるようになっているようだ。
スゲー便利じゃねえか!!
このリンクという魔法は空間と空間を繋げる八芒星の上位空間魔法で、いわゆる空間移動するときの出入り口をつくる魔法だ。
魔人が魔界から人間界に来る時はこの魔法で来ていたという奴で、魔人は大量の魔力と引き換えに自分や他の魔物を移動させていたのに対して、俺は「契約」していつでも使える変わりに生物と運べないものはダメということなった。
そして繋がる先が狭間の世界にしたいときは何かと何かの間にめがけて魔法を使うと、狭間の世界と通じるみたいだ。
何かと何かの間、というのは間ならなんでもいいようで俺が気を付けないといけないのは間の大きさなようだ。
例えば葉っぱと葉っぱの間にリンクをやっても葉っぱより大きなものは出入りできない、という感じ。
俺はさっさと撒き散らしていた荷物を全部空間に放り込んだ。
因みに日常で出し入れするときは愛用しているマジックバッグの外と中の間を利用して、端から見たらマジックバッグから物を出し入れしているように物を出し入れするつもりだ。
俺以外の人間は狭間の世界の存在を知らないからいちいち説明するのも面倒臭いしね。
グランたちにはそのうち説明しようかなとは思うけど。
どうせ「契約」の話の時点で驚かれそうだし。
「契約」も【能力】とか「纏技」並に珍しい気がものすごいするからなあ。
「そういえばイオリ、コメとか色々買ったんだろ?それ使った料理って、なにがあんの?」
午前の移動中にアルスがそう聞いてきた。
御者の横ではルナが周りを監視していて、狭い馬車の中にレイド・アルス・俺・ウルーノさんの男4人で固まって座っている状態だ。
「色々あるよ。・・・アレだったらこの後の昼食の時に作ろっか?つっても味噌汁なんだけど。」
「ミソシル?スープの一種か?どんな味か興味があるな。」
珍しくレイドが興味を持ったようだ。
まあ、基本的に移動中の食事は干し肉に薄味スープで、食べられる魔物を狩れた時は肉焼いて食うぐらいだもんな。
レイドは味に飽きてきてるのかもしれないな。
「ミソシルは飲んだことがありますぞ。イオリがあれを作れるのでしたらぜひ飲みたいものですなあ。」
ウルーノさんがニコニコしながら言ってきた。
「飲んだことあるんです?俺のはホント、素人が作るものなんで期待しないで下さいよ。」
俺は一応料理はしたことがあるが、両親が帰ってこなくて弁当買いに行くのも面倒臭い時に作る男料理くらいだ。
両親は洋食派だったから味噌汁を作っているのは見たことないが・・・でもまあ、味噌汁はテレビで見たことあるし大丈夫だろう。
そして昼時になり、馬車を道の脇に停めて簡単な焚き火を作ってレイド・双子・ウルーノさんはすぐ目の前にあった森に木の実とかないか探しに行って、御者さんは馬の世話をしだした。
料理は俺1人に任す、ということのようなので、俺は早速調理に取りかかった。
ハインツで大人買いした時に一緒に買った片手鍋が早速活躍する時が来たのでそれを出して、小声で水の精霊を「呼んで」水を入れてもらいそこに煮干しと昆布を入れて30分ほど置いて煮ることにした。
火の精霊(レイドが焚き火を魔法でつけたときに来てそのままいた)に火加減を見てもらいながら、草の精霊を「呼んで」毒のない食べられる野草を教えてもらってそれを採って魔剣ナイフで適当に切った。
いい感じに煮えて出汁ができたので、ボロボロの煮干しと昆布を取り除いてその出汁にカットした野草を入れてマジックバッグの中にあった干し肉も千切って入れてみた。
そしてしばらくして味噌を適当に入れて片手鍋とセットで買ったお玉でかき混ぜて味見。
う、う、うまーーーい!!
うわあー!久しぶりの和食!
なんか心に染みるわー。懐かしいなあ・・・。
こんなところで味噌汁を作ることになるなんてな。
しかも初めて作って成功するかね。
テレビで見てなんとなく作っただけなんだけどね。
他もなんか作りたくなってきたなあ。
うん、これらの和食のあるツインクゥっていう国にいつか行こう。
材料アホみたいに買いに行こう。
俺がツインクゥ行きを心に誓った辺りでレイドたちが森から出てきた。
ちょうどいいタイミングだな!と思っていたらレイドらの手にはいっぱいの木の実やらが。
「「なんか色々あった!」」
双子が上機嫌に言ってきた。
見たら、リンゴやミカンにサクランボにビワ・・・。
まー、相変わらず季節ガン無視ですこと。
「キノコもあったぞ。」
レイドは色んなキノコを採ってきたようだ。
毒キノコとか大丈夫かね?
ウルーノさんも両手いっぱいに果物を抱えてた。
「ふふふ、この果物はきれいですから売れそうでしょう?」
売るんかい!
さすが商人。
「ちょうど俺も味噌汁できたとこだよ。」
「美味しそうな匂いね!」
ルナは味噌汁を覗き込んでそう言ってくれた。
「キノコは毒キノコとか大丈夫?」
「それは大丈夫だ。野宿の時によく食う奴ばかり採ってきたからな。」
だったら大丈夫だろう。
キノコは枝に刺して焚き火で焼いて軽く醤油を振りかけた。
「おお!ショーユは焼けるといい匂いがしますなあ。」
ウルーノさんが待ちきれないようにキノコを見つめていた。
そしてしばらく焼いていい焼き色になり、味噌汁も俺が取り出したカップにそれぞれ入れて昼食となった。
「「美味しいー!!」」
「うまいなこのミソシル!」
「キノコも美味しいですな!」
皆ものすごい勢いで食べてくれた。
俺もキノコと味噌汁と交互に食べたが、キノコの味に香ばしさがついて美味しかった!
味噌汁に入れた干し肉も水分吸ってホロホロだし、野草がシャキシャキしていい食感だし!
「ミソとショーユってこんなに美味しかったのか・・・。ハインツで買っとけばよかったな。」
レイドは悔しそうにそう言った。
「だったらノヴェーラに着いたらうちの店に来てください。少しならありますよ。」
ウルーノさんは今だにキノコを頬張りながらレイドにそう言った。
「本当ですか!?よし、必ず寄らせてもらいます。」
そうなのか!?ノヴェーラに帰ったら俺もそのうち行こうっと。
その後、レイドはノヴェーラに着いた翌日にはウルーノさんの店を訪れて味噌醤油を買ってったそうな。
ふむ、異世界で和食を広めてやろうかな?