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57話 ロックを助ける

インカの言葉を聞いた俺たちは孤児院を飛び出した。


インカによると、お菓子を食べ遊んでいたロックたちは孤児院からのびる細い道が大きい道と合流する地点の近く、奥にグランを助けた沼があるあの林の木に登ったり降りたりしていたそうで、ロックがどのくらいの高さから飛び降りたらかっこいいかとか言い出して木の上の方まで登ったらしい。

そこで足を滑らせて地面に落ちたそうなのだ。

急いでその木の下に向かうと、青い顔をして呆然と見つめているアンと地面に倒れているロックの姿があった。

ロックは仰向けに倒れていて頭からはものすごい量の血が流れ出ていて、インカの手が血で汚れていたのは血が出ている頭を手で押さえたからのようだ。

意識はなく顔面は真っ白になってピクリとも動く様子がない。

ローエはその姿を見た途端、取り乱して駆け寄った。


「ロック!ロック!いやあっ!な、なんてこと!?」

「ローエ!落ち着け!回復魔法を!」

「う、うん!・・・わ、わかったわ!」

グランの指示でローエは震える手をロックの頭に当てて、魔法を唱えた。


『数多の精霊がひとり、治癒の精霊よ・・・!』


ローエがそう唱えると、治癒の精霊がどこからともなくやって来た。

『私を呼んだのはここね。あら、なんてひどい怪我・・・。』


『癒しの力をもって彼の者の傷を癒せ。』


ロックの頭に当てているローエの手からは三角形の魔方陣が出た。

『・・・ちょっと、これは難しいわね。』

「!?」

え!?と思っていると、声が聞こえないローエはそのまま唱えた。


『ヒール!』


ロックの頭は緑の光に覆われた。

あれ?なんだ、失敗したかと思った・・・。


・・・え?傷が塞がってない?


「や、やっぱり・・・!ヒールでは治せないわ!もっと強いハイヒールでないと!」

どうやら先程のヒールは失敗したのではなく、怪我の方がでかすぎてハイヒールでないと塞げないようだ。

「ハイヒールなんてローエは唱えられないだろ!?治療院に連れていくか!」

グランがロックの体を抱えようとして、ローエが慌てて止めた。

「持ち上げちゃダメ!頭のダメージはちょっとの振動でもダメなのよ!」

それはあっちの世界でも聞いたことあるな!

「じゃあどうすんだよ!?このままじゃあ、ロックは本当に死んじまうぞ!?」

「うえええぇんっ!!」

「ううっ・・・ロック・・・ロック。」

グランの大きな言葉を聞いたアンが泣き出してしまい俺たちについてきたインカも泣き崩れ、アルがなだめていた。


魔法もダメ、動かすのもダメ。

こうしている間にもロックの頭からは血が流れ続けている。

顔色も土色っぽくなってきた。

それぐらい、ロックは重傷ということか。

ハイヒールなんて魔法、本の精霊のおかげで知識は頭にあるけど、俺は唱えることはできない。


でも・・・そ、そうだよ!俺にはできることがある!

呆然と立ってんなよ俺!

もうバラすつもりでいたし、こんなときに役に立たないでどうすんだよ!?



俺はロックとローエに近づいて、涙を流しているローエの肩を叩いた。


「大丈夫、ローエ。・・・ロックは助かる。」

「・・・え?」

そしてチラッとグランとアルを見た。

2人ともローエのようにえ?という顔をしていた。


俺は気にせず、治癒の精霊の声が聞こえた上空に話しかけた。


「治癒の精霊、この子を助けてくれ。魔力いくらでもあげるから。」

『・・・生配信見てたわ。私たち精霊はあなたの味方よ。』

「ん、ありがとう。」


ロックの体は緑色の強い光に包まれ、あっという間にロックの頭の傷は塞がり、体中についていた小さな擦り傷さえも治っていった。

『うふふっ、ちょっとサービスしてパーフェクトヒールにしたわ。』

ごふっ、パ、パーフェクトヒールですと?

精霊は俺には対して過剰サービスしすぎじゃね?

「そ、そうか。とにかくありがとう。魔力どーぞ。」


さーて、皆の反応は・・・。

わーお、皆さん見事にぽかんとしてるよ。

「お、おま、お前・・・!」

グランなんて普段クールな無愛想なだけにお口あんぐりしてるのがなんか面白い。

「テヘへ☆治癒の精霊に頼んでパーフェクトヒールかけてもらいました~!」

テヘペロ!


「「「「「・・・・・・。」」」」」


シーーーーン




チョケてみたらドンズベりました。






ロックはとりあえず気絶しているので孤児院の子供部屋に寝かせてインカとアンに付き添ってもらい、広間で俺とグランとアルとローエがテーブルを囲んた。


俺はもうさすがに観念して全部話した。

異世界から「声」に導かれてこの世界に来たこと、精霊と話せることや「纏技」を使うことで精霊を見たり呼んだりできること、魔力がダダ漏れで精霊にとっては食べ放題ということでものすごく好かれていること、魔剣は俺が装備してたら俺の魔力を浴びて勝手にできたこと、戦闘時は皆と5秒時間のズレがある謎現象が起きることなど、ほとんど話した。

話してないのは情報の精霊がネットワークで俺のことをなんでもかんでも垂れ流しにしていることだけだ。

この世界の人にネットワークや配信とかよくわからんだろうと思ってのことだ。

話し終わったら3人が3人とも疲れた顔をしていた。

なんでも「驚き過ぎて疲れた」んだって。

俺としても説明することがたくさんあったからしゃべり疲れたよ。


「・・・お前の事情はわかった。違う世界から来たというのは思ってもみなかったが・・・。」

「し、信じてくれる?」

俺の心配を察したのか、アルが答えてくれた。

「信じるもなにも、この世界のことを知らなさ過ぎるからそうとしか信じられないよ。この世界のどんな人でも魔法のことはわかってるのに君はあんまりよくわからないし、唱えようとあまり思えないんだろ?」

「あ、うん。俺の世界には魔法はなかったから。魔法は唱えなくても精霊に頼めば早いし。唱えてみたい気持ちはあるけどね。」

とりあえず、3人は俺の話を信じてくれたようだ。

俺が言うのもなんだけど、よく信じてくれたな。

そういう柔軟なところも含めてやっぱりこの3人はいいやつなのかもしれない。

あんなに警戒していたグランも信じてくれるようだし。


「魔法のない世界ねえ・・・。まったく想像できないわ。魔物とはどうやって戦ってたのよ?」

まあ、こっちの世界生まれのローエはそう思うよね。

「俺の世界には魔物はいなかったから戦ったりなんてしてる人はあんまりいないよ。魔法はなかったけど、その分科学が発達していたからね。」

「カガク?」

おっとやべえ。科学の説明は難しいぞ。

「ま、まあ、簡単にいうと雷より弱い電気ってのを使った学問と思ってくれていいよ。それが俺のいた世界にとっての魔法だったんだよ。」

「ふうん。デンキっていうのがあるのね。」



「あの、それでなんだけど。」

俺はおずおずと切り出した。

「今まで記憶喪失って騙しててごめん!情報の精霊のアドバイスというのもあったけど、この孤児院は好きだし子供たちはかわいいし3人はいいやつだから・・・本当のこと言って「頭のおかしいやつ」「もうここに来るな」って言われるのが嫌で、黙ってたんだ。心配して治療院まで連れてってもらって申し訳なかったけど、診断は治癒の精霊の力を借りてごまかしたんだ。本当にごめんなさい!」

そう言って頭を下げた。

秘密にするのは置いといて騙してたのは悪いことだし、これはちゃんと謝りたかった。

特にローエは介抱してもらって1週間ここに住まわせてもらったんだし。


ローエは俺が頭を下げたのを見て、目をぱちくりさせた。

「・・・なに言ってんのよ、イオリ。違う世界から来たんなら警戒して当然よ。私たちに話してくれたことがうれしいわ。」

「そうだよ。これからは僕らも協力するよ。この世界のことまだまだわからないことがあるだろうし。」

「そんな事情を抱えてんだったら早く言えばよかったのに。あー、変に警戒しただろうが。」

ローエに続いてアル・グランもそれぞれそう言ってくれて俺が黙っていたのを許してくれた。

「それに、ロックを助けてくれたのに変な人と思うわけないじゃない。イオリ、本当にロックを助けてくれてありがとう。」

「俺からも礼を言う。」

そう言って今度はローエとグランが俺に頭を下げてきた。

「2人とも頭下げなくていいよ。俺もロックと友達だから死んでほしくなかっただけだもん。」

俺が慌ててそう言うと、グランはやれやれとぼやいた。


「あーあ、こんなもんまで借りて警戒しまくったじゃねえか。・・・だが、とりあえず異世界から来たことや精霊のことは俺ら以外に秘密にしとけよ。変な奴に見られるだけじゃなく、悪いこと考える奴も世の中にはいるんだからよ。」

「あ、うん。わかった。」

『その点は大丈夫!悪い奴がいたら僕が知らせるからね~!』

おっと情報の精霊、全然しゃべんないからいないと思ってたぞ。

「情報の精霊が、悪い奴がいたら知らせてくれるって。」

「おま・・・俺たちの前以外でそんな気軽に話すなよ。」

「大丈夫だって。今までなんとかやってこれたし。」

「いや、できてないから俺に疑われたんだろう?」

ギクッ

く、くそう!バレたか!



それからしばらくしてロックが起きたとインカが知らせてきた。

ロックは落ちた瞬間から気を失っていたこともあり痛い記憶もなくて普段と変わらずで皆安心した。



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