49話 野外試験の山登り
グランに勝った俺は実力試験を見事に合格した。
俺に負けたグランはちょっと落ち込んでいたが、それでもその後の試験の相手をちゃんとやっていた。
結局勝ったのは俺だけで、ギルド職員はぽかんとしていたし、他の参加者にはすごいと言われた。
情報の精霊も興奮していて、俺にすごいすごいと言うばかりかネットワークに感想を書き込んでいるようだった。
なんか怖いからその感想見せてくんなよ。
それにしても、なんでグランだけ秒数が変わってたんだろう?
今まで戦った相手や周りはいずれも5秒になってたのに。
グランの戦い方が素早く移動する盗賊タイプだからなのかな?
グランぐらい素早い人がいないから確かめられないな。
とりあえず、素早い魔物とかに気を付けてみようっと。
今はレベルC試験頑張んないと。
そして全員の相手をしたグランと動きを見ていたギルド職員は話し合って、俺を含む合格者は5名となった。
不合格者の2人が去ったところで、ギルド職員は次の試験の説明に入った。
「では、これより野外試験の説明をします。野外試験は聞いた方もいるかもしれませんが、町の北にある山の中から指定の山の頂上を目指していただく山登りとなります。指定の山の頂上に待機しているハンターがいますので、そのハンターの元にこの証明書に判子を押してもらって、それをギルドに持ってきて下さい。期限内に持ってきた方は合格となります。」
ギルド職員は手持ちの書類からペラリと証明書を見せてきた。
続けて書類をまさぐって、大きな地図を広げて俺たちに見せてきた。
「今回、皆さんの目的地となる山は町から北北西に位置するカナカレ山です。町から頂上まで歩いて往復3日かかると言われているところです。」
地図にはカナカレ山のところに大きく赤丸がされている。
俺は急いでマジックバッグから地図を取り出して同じ場所をチェックした。
3日かあ・・・、大丈夫かなあ?俺。
「体力に自信がない方のために、期限は7日とさせていただきます。距離はそこそこありますが、なだらかなところが多い山ですし強い魔物も出ないと思われますから、そこまで苦労はないかと思います。皆さんには1人ずつ、忍ぶのが得意なハンターが後を付いていくことになってます。これはレベルD試験の時と同様に行動をチェックするためと何かあったら皆さんを救助するためです。なんらかの事件や事故に巻き込まれた場合はそのハンターが救助しますが、救助された時点でギブアップと見なされます。また、山登り中になんらかの事情でギブアップしたい時にはそのハンターに申し出てください。」
ふーむ、また見られながら行動をしないといけないわけか。
でも付いてきてくれるなら、例え遭難してもすぐに助けてもらえるからいいっちゃいいのかな。
「禁止事項としては他の参加者に危害を加えるたり妨害行為を行うことは禁止なのはもちろん、参加者同士で一緒に行動することも禁止します。ですが、魔物に襲われているところを助けたり、怪我をしているのを助けたりするのは構いません。」
多分、1人でどこまでできるか見たいってのがあるから一緒の行動は禁止なのかな?
「食料の準備などありますから、明日の朝6時の鐘がなってからが山登り開始となります。朝6時以降に必ずギルドに来て証明書を受け取って、山に向かって下さい。・・・あ、野外試験のみの参加者が明日は2名いますので、試験は7名となります。今日いない方に山で遭遇するかもしれませんが、そういうことですので。」
ふうん。前に実力試験は受かって野外試験を落ちた人2人も明日一緒に受けるようだ。
「なにかわからないことありますか?」
誰も手を上げることはなかった。
「では、皆さん、明日から頑張って下さい。」
ギルド職員はそう言ってグランと去って行った。
明日から山登りか。
往復3日、頑張って登ってみようかな。
『ぐぬぬぬぬぬ・・・。』
なんだ?情報の精霊の唸り声?が聞こえてきた。
『明日は用事があるから担当になれない・・・!悔しい!』
お、それは朗報だ。
心穏やかに山登りできそうだ。ヤッホーとか叫びたいな。
そして翌日。
俺は6時前に精霊に起こしてもらった。
いつもより早く起きたから眠いけど、試験のためだ。
前日に食料もたくさん買っといたし、野宿は慣れたし、そしてなにより精霊たちが呼べば来てくれるからなんかあったら頼ったら大丈夫だろう。
「ふあ~、よし、頑張って行こうかな。」
『山登り楽しみだな。頑張れよ、イオリ。』
『何かあったら手伝うわよ。』
今日の俺の担当?の火の精霊と草の精霊はそう激励してくれた。
どうでもいいけど、草の精霊が肩に乗ってたらなんか肩から草が生えたみたいに見えてちょっとホラーだ。
しかも火の精霊はパッと見、火の玉に見えるからよりホラーなんだよ。
・・・まあ、誰も精霊が見えないからいいんだけどさ。
ちょっと思ったので言ってみました。
とかなんとか思いつつ、朝食のスクランブルエッグトーストをさっさと食べて俺はハンターズギルドに向かった。
さすがに早い時間なのでそこまで人がいなかったが、到着したのが6時をとっくに過ぎていたので俺が受付に行った時点で何人かの参加者はすでに証明書をもらって山に向かったそうだ。
さすが皆気合い入ってるなあ。
俺も証明書をもらうとギルドを出て西側から町の外に出て、山に向かった。
町から目的地となるカナカレ山は手前の山が邪魔して見えなかったので、とりあえずその手前の山を目指すことにして、地図をたまに確認しながら北の森に入って北北西に向かって進んだ。
ここら辺は前に通ったことあるし、ずんずん進んでこうかな。
たまに出るブラックマウスなどの魔物を倒しつつ、俺は順調に奥へと歩みを進めた。
そのうちなだらかな斜面になってきて、周りの木々もなんとなく高くなったような気がする。
森の奥の山へと入ったってことなんだろうなと思いながら斜面をたまに足をとられながらも登った。
慣れない山登りにすぐに息が切れる。
こちらの世界に来て結構歩き回ってるから鍛えられたつもりだったけど、キツいなあ・・・!
「はーっ、こりゃ大変な試験だよ。これが普通って、この世界どうなってんだよー。」
『イオリが貧弱なんじゃないのか?まだまだ山は先だぜ。』
『頑張ってイオリ。』
「ぐぬぬ・・・頑張ります・・・。」
あ!普通に話してるけど、忍ぶのが得意なハンターが後を付いてきてるんだった。
「火の精霊、俺の後に付いてきてるハンターってわかる?だいぶ後ろの方にいるかな?」
『ちょっと待ってな。・・・あの黒ずくめの奴かな?だいたいこっから50メートルくらい後方にいるな。』
50メートル後方!?
そんな後ろで見えんの!?
見えるからいるのか、すげえな視力!マサイ族か!
「そんだけ後ろだったら普通にこうして喋ってても聞かれないか。」
『多分そうだろうけど、一応用心してイオリは声抑えめで喋ったらいいんじゃないか?』
んまあ、ものすごく耳がいいかもしれないから火の精霊の言う通り、俺だけ用心しとけば大丈夫だろう。
「オッケーわかった。」
その後も俺だけ声を抑えて話をしつつ、山を登ってたまに休憩をとりつつであっという間に太陽うが真上にきた。
それぐらいにやっと、カナカレ山の手前の山の頂上に着いた。
周りの山々に比べたらそこまで高くない山の頂上はそこだけ木が伐採されて拓けていて、周りの山々が絶景として見えた。
「うわー!すげえきれいな景色だなあ・・・!・・・あ!あれがカナカレ山か。」
俺のいる山と標高がそんなに変わらない山が目の前にあって、地図で確認するとそれがカナカレ山だった。
なだらかな斜面を降りていって、谷を渡ってまた斜面を登った先にあるのが一望できて、急にしんどくなった。
なだらかだけど、結構斜面は力を使うから疲れる。
これをずーっと向かいの山の頂上に着くまで続くのかと考えたらしんどくなったのだ。
「レベルCの試験でこれって、レベルBとかAはどうなってんだ?宇宙にでも行くのか?」
『宇宙?』
おっと、この世界には宇宙はないんだった。
「なんでもない。・・・昼飯食おっと。」
俺は切り株に腰かけてマジックバッグの中のたくさんの食料から適当にサンドイッチを取り出して食べた。
「きゃああっ!?」
その時、女性の悲鳴が聞こえた。
「ん!?悲鳴!?」
危うく食べていたサンドイッチを落としそうになりながらも声がした方を見た。
悲鳴はこの頂上からちょっと下った辺りで、木々でまったくわからないがかすかに戦闘音が聞こえる。
『誰か戦っているようだな。』
『悲鳴からして、危機なのかしら?』
「ちょっと様子見に行ってみよう。大丈夫そうならいいけど。」
俺はサンドイッチの残りを口に押し込んで、戦闘音がする方へ下った。
するとすぐに、誰かと魔物が戦っているのが見えた。
誰かは魔物が邪魔で見えないが、魔物は後ろ姿からジャイアントスネークだとわかった。
ここにもジャイアントスネークいるのかよ!
肉は売れるからいいけど!
ジャイアントスネークは3匹、戦っている誰かはどうやら1人だ。
もしかして参加者か!?
数的にも不利だし、助太刀しよう!
「すいません!助太刀要りますか!?」
俺が叫ぶと、誰かは姿は見えないが気付いてくれたようだ。
「誰かはわからないけど、ごめんなさい!助太刀お願いします!」
3匹のうちの1匹が俺に気付いて向かってきたので、俺は魔剣となったバスタードソードを抜いて構えた。
途端に始まる謎現象。
俺は向かってきたジャイアントスネークに駆け寄って魔剣を横に振って首をはねて、そのままの流れでこちらに背中を向けているジャイアントスネーク2匹に近づいて魔剣を横に回転させる要領で連撃で2匹同時に切り刻んだ。
そして切り刻んだと同時に謎現象は解け、ボトボトと切り刻ざまれたジャイアントスネークの残骸は落ちた。
「・・・・・・え?」
女性のそんな声が聞こえて、大丈夫ですかと声をかけようと女性の方を向いた俺は、固まった。
そこには彩飾の豪華なレイピアを持ち、白い鎧を着て金髪をなびかせた美少女がいた。
美少女は碧眼の目を大きくして俺を見てきていた。
「イ、イオリ・・・?」
「・・・は?エティーがなんでここにいんの?」




