43話 盗賊退治
盗賊の男2人を木に縛りつけたあと。
俺はその場に残って盗賊たちを見張ることにして、アルと女性はノヴェーラのハンターズギルドに向かうこととなった。
盗賊は5人となったが、それでも殺人ができない2人で対応は難しいということで話し合いの通り、ハンターズギルドに向かうこととなったのだが。
この盗賊たちが俺たちがいない間に逃げ出す可能性を考えて、どっちか1人が見張っといた方がいいということになり、俺がこの場に残ると立候補して残ることとなった。
こいつらにはアジトの場所を聞き出す必要があったので、逃げ出されたら困るのだ。
「もし盗賊がまた来たら何人だろうとこいつらほっといて逃げていいから。」とアルは俺を心配してそう言ってくれた。
そしてアルが女性と急ぎ足でノヴェーラに向かってしばらく。
俺は木に縛りつけた男2人が気が付く様子がないのを確認して、精霊に声をかけた。
「なあ、ふたりとも。ちょっと・・・協力してくれない?」
『あらあら。イオリは大人しくここに残るつもりはなかったの?』
水の精霊はふふふと笑いながらそう言ってきた。
どうやら水の精霊は俺の思惑を察したようだ。
俺もへへへと笑った。
「いや、精霊たちに協力してもらったらすぐにアジト見つけれて女性たちを助けられるんじゃないかなって思って。でもアルとあの女性がいるとそれができないから、ここに残るのに立候補したんだ。」
『やっぱり。でもその通りね。イオリと私たちならすぐに終わらせることはできるわね。』
ここからノヴェーラまで歩いて数時間ある。
アルたちが急いだとしても1~2時間はかかるだろう。
それからハンターズギルドに緊急依頼を出してもらって受けた人たちと急いで戻って来るのにもう2時間ぐらいはかかるとして、合計4時間。
今は昼を過ぎてしばらく経ってるから2時3時くらいか、それから4時間かかるから6時7時くらいと突入は夜になってしまう。
だったら今から先に突入して、盗賊を気絶かなんかさせて縛っといて女性の安否を確認して、大丈夫そうならそのままにしてここに戻ってきて、ハンターたちの到着を待って一緒に何食わぬ顔して突入、とかってどうだろうと考えたのだ。
問題はどうやって盗賊たちを気絶かなんかさせるか、だよなあ。
とりあえずアジトを見つけて様子を見てみようかな。
『イオリがやりたいようにやっていいわよ。私たち協力するわ。』
『うん。イオリの協力、楽しい。』
「ありがとう、ふたりとも。」
俺は森に近づいた。
「ふたりだけじゃなく、皆に協力してもらおっかな。」
実はずっと聞こえてたんだよね。
森から精霊たちの声がしてたの。
俺は精霊たちを「視て」みた。
そこにはちらほら、森の中をウロウロしている様々な精霊たちがいた。
俺はその精霊たちに呼びかけた。
「おーい、精霊たち。ちょっと協力してくんねえ?」
『え!?あ!あれはイオリ!?』
『キャー本物よ!』
『すげえ!こんなところで会えるなんて!』
俺の元に精霊たちが殺到した。
な、なんか芸能人になったような気分だな!
『協力って、なにをするの?』
「この森の奥に盗賊のアジトがあるみたいなんだ。誰か知らないかな?」
『人間のアジト?・・・うーん、知らないなあ。』
『私も。いつもフワフワしているだけだから、人間だけじゃなく魔物にも動物にも興味が向かないのよねえ。』
『僕も。人間は特に、どこにでもいるから識別はイオリ以外はよくわかんないなあ。』
「そっか・・・じゃあ、ちょっと探してもらえないかな?森の奥の拓けたところの丘の上に洞穴があって、そこがアジトらしいんだ。見つかっても見つかんなくても皆に魔力あげるからさ。」
精霊たちは魔力あげると言った途端にまたキャッキャしだした。
『やるやる!どうせここでのんびり浮いてただけだし。』
『僕もやるよ!』
『わたしもやるわ!』
そう言ってサーッと森の奥へ散っていった。
『僕たちも負けてられないよー。』
肩に乗っていた石の精霊もぴょーんと飛んでって、水の精霊も『私も行ってくるわね。』と言ってどっか行ってしまった。
「わー、皆さんやる気で俺、置いてけぼりだよ。」
あまりに早い協力に俺ポツン。
俺もまあ、自分なりに探してみようかな。
そう思って、森の奥へと足を踏み入れた。
森はなんの変哲もない静かな森で、たまーに魔物が出てくるぐらいで町の近くの森と変わらない感じだった。
奥へと奥へとなんの宛もなくしばらく進んだけど、あるのは大きな木と生い茂った草ばかり。
もちろん道なんてないし、獣道なんてのもない。
昔、じいさんと山に一緒に入ったときに獣道を教えてくれたことが何回かあったから、見たらなんとなくわかるんだけどないってことは動物もいないのかな?
まあ、この世界の動物はだいぶ強い?らしいからまた違うのかもしれないけどね。
そんなことを思いながらとにかく草を掻き分けて進んでいたら、なんとなく草が踏み倒された跡があった。
もしかしてさっきの逃げてきた女性か、追ってきた男2人の通った跡じゃないか!?
そう思っていると、精霊の声が聞こえてきた。
『お~い!イオリ!見つけたよ!洞穴!』
森を漂っていた精霊の声だ。
「見つけてくれたか!ありがとう!どっち?こっち?」
『そうそう。その方角の奥だよ。』
俺はその精霊の案内で奥にズンズン進んだ。
途中で他の精霊とも合流して、歩き続けて20分くらいで洞穴を見つけた。
「おー、ホントだ。洞穴じゃん。」
本当に拓けたところの丘の上にポツンと一軒家・・・じゃなくて洞穴があった。
岩が絶妙に折り重なってできた天然の洞穴のようで、洞穴の周りは低い草ばかりが生えていて、高い位置にある洞穴から周りがよく見えそうだ。
俺は拓けたところに出たら向こうからこちらが思いっきり見えると思って、大きな木の陰に隠れてそこから洞穴を観察中だ。
といっても距離があるから洞穴の入り口に何人か人間がいるなーってくらいしかわからない。
「とりあえず、見つけてくれてありがとう。魔力好きなだけ食べてって。」
『わーい!ありがとう!』
『おいしー。』
精霊たちはパクパク食べているようだ。
『ごぼべ、どうずぶべ、ぼうがばがづ・・・』
君は食べ過ぎじゃないかい?飲み込んでからしゃべりたまえ。
『モグモグ・・・ゴクッ、ごめんごめん。それで、どうするって聞きたかったんだよー。』
石の精霊、食べ過ぎは君かい。
「もうちょっと洞穴の中の様子が見たいなあ。洞穴の裏がどうなってるのか見てみようか。」
こそこそ移動して、洞穴の裏側に回ってみた。
ここも岩と岩が折り重なってて洞穴の真上に登れそうな感じだった。
ちょっと登ってみよう。
ちょっとやそっとでは崩れないとは思うけど、音をたてないように慎重に岩を登って、洞穴の真上に来れたので、そーっと洞穴の中が見れないか覗いてみた。
・・・あ、いるいる。
盗賊と思われるボロボロの格好の髭モジャ姿の男5人が見えた。
洞穴の入り口に2人のいて外を見張ってて、3人がなんか話してるようだ。
5人ともまさか上に人がいるなんて思ってもないみたいでちょっとのんびりしているようでそれぞれ和やかにしゃべっている。
そして洞穴はまだ奥にも続いているようだが、あんまり身を乗り出すと盗賊たちに見つかるかもしれないので、頭を引っ込めた。
うーん、どうすっかなあ?
『前にイオリのお手伝いでやったアレ使えるんじゃない?水の』
いつの間にか肩に乗っていた石の精霊が水の精霊に話しかけた。
『アレって、もしかしてホーンラビットの血抜きを手伝ったやつのこと?』
『そうそう。それで盗賊たちの血を抜いちゃえばー?』
なんて恐ろしい提案だよ。
でもそれじゃあ貧血になるくらいで・・・―――――――。
・・・あ、血じゃなかったらイケるかも。
確かなんかテレビで見たような。
俺はいそいそと裏側へ向かって岩からおりて、森の中に入って木の陰に隠れた。
「・・・水の精霊、お願いがあるんだけど。」
そしてその数分後。
「・・・ん?なんだ?」
「うっ・・・急に目眩が・・・。」
「お、おい。うぐっ・・・。」
盗賊たち5人はそれまで談笑していたが、急に1人がふらついた途端に、5人全員が意識が混濁し始めた。
「うっ、うぷっ・・・。」
「あ、頭がいてえ・・・。」
吐き気に頭痛がして、手足が震えて立っているのも辛くなる。
「ううっ・・・。」
「うああっ・・・。」
次々とぼんやりした顔になって、バタバタと倒れた。
5人とも意識はなく、小さく痙攣をしている。
「・・・・・・おおー、すごいなあ。」
イオリは木の陰から盗賊たちが倒れたことを確認すると、丘を登って洞穴の前に来た。
足元には盗賊たちが倒れている。
「さすが水の精霊だな。本当に脱水症にしてくれてる。」
水の精霊はドヤアを炸裂させた感覚がした。
そう、俺が水の精霊に頼んだのは、「盗賊たちの体の水分を取ってくれないか」ということだった。
確かテレビかなにかで、人間は体重の何%の水分をなくしたら脱水症になるかをやってた気がするんだよな。
それでいくと、1~2%が軽度、3~9%が中程度、10%以上が重度、となって、20%を越えると命の危険があるという。
軽度で目眩と頭痛とかしてきて、中程度で手足の震えやぼーっとしたりとかで、重度で失神に痙攣するなどの症状になるらしい。
そして水の精霊に、10%の水分を取ってくれるように頼んだから、盗賊たちは一気に重度まで症状が出て失神した、というわけだ。
「ありがとう、水の精霊。魔力どーぞ。」
『ありがとう。さっきからたくさんいただいているわ。』
「それで、捕まっている女性2人は・・・っと。」
倒れている盗賊たちを避けて洞穴の奥に行ってみると、奥は少し暗いが盗賊たちの戦利品と思われる食料や武器防具の入った箱や色んな装飾品の入った箱があって、そこに倒れている女性2人の姿があった。
倒れていたのでちょっと焦って急いで近づいてみると、女性たちは後ろ手に手首を縛られて横になって眠っていた。
よかった、死んでんのかと思ったよ。
だけど、揺すってみても反応がなかった。
もしかしたら眠らされているのか?
見る限り、怪我とかはしていないようだったのでそのままにして、洞穴の出入り口まで戻った。
そして倒れている盗賊たちの水分を5%まで戻して、俺は森の中に引き返した。
あのままでひょっと死なれたら嫌なのと、逆に元気にしてもねってことで、気が付いてもしばらく起き上がれないくらいを考えて5%にした。
これで動けない状態でいてくれたら、改めてアルたちも来たときに捕まえやすくなると思うんだよね。
そうして森を抜けて、男2人が木に縛られている森の外まで戻ってきて、男2人を見張りながら精霊たちと雑談してアルたちを待った。




