閑話 グランの疑い
ちょっと短いです。
ある日の午後。
「ちょっと相談したいことがあるんだが。」
グランは遊びに来た貴族のアルにそうきりだした。
孤児院の広間で向かい合ってテーブルに座っていて、ローエと子供たちが外の原っぱで遊んでいるキャッキャした声が聞こえてくる。
「どうしたんだい?グラン。君が相談なんて珍しい。」
今日たまたま孤児院に遊びに来たアルは、考え事をしているグランが気になって話しかけた。
そしたら、こうしてローエと子供たちを外に遊びに行かして2人っきりになったところでそう言われたので少し戸惑っていた。
教会に孤児院があった5年以上前からアルは孤児院に通っていたが、グランとローエとはその時からの友人である。
しかし相談事はあまりされたことがなかった。
グランはなにかあれば自分1人で解決しようとするタイプなだけに、人に相談や頼るなどあまりない。
それは孤児として育ったためだと思われるが、貴族と平民の壁も感じていた。
そんなグランが相談なんて何があったのだろうとアルは思った。
「あー、アルには暇なときでいいんだが、イオリとハンターの依頼をやってもらえないか?」
「イオリとハンターの依頼を?」
なぜかいないイオリの名が出てアルは首を傾げた。
「確かアルはハンター登録してたよな?」
「ああ。興味があってハンターやってた時期もあったよ。最近は全然行けてないけど。」
「レベルは?」
「Dだよ。」
「だったら大丈夫だよな?なんとか一緒に依頼を受けてみてくれないか?」
「え?なんでグランは、イオリと一緒に依頼を受けてみてって言うのさ?」
グランは目を泳がせて、なにかを渋っているように眉をひそめた。
「・・・アル、これは誰にも言うなよ?」
少し考えたグランはそうきりだし、アルはなんだろうと思いながらも頷いた。
「イオリは・・・多分だが・・・精霊と話せるんじゃないかと思うんだ。」
「・・・・・・は?」
グランの突拍子もない発言にアルは間抜けな声をあげた。
精霊と会話。
それは人類の夢ではあったが、実際問題、膨大な魔力を使ったとしても10分しか会話できないので不可能とされている。
それをグランはイオリは精霊と会話ができる、と言ったのだ。
ぽかんとするアルにグランは語りだした。
「初めて会った時・・・、前に話した沼で助けられた時な。精霊に指示を出しているような声が聞こえたんだよ。そして実際に指示通りになっていた。でも、あまりにもあり得なさすぎて俺の幻聴だったのかもと思って、様子見をしてたんだ。そしたらこの間のナバラ村での1件があった。」
「え、な、何があったんだい?」
「角ウルフが上を飛び越えて、俺たちハンターの後ろにいた村人を襲おうとしてた時にまた精霊に指示をした声を聞いたんだ。光の精霊に角ウルフに目眩ましをするように言っていて、そうしたら角ウルフの目の前だけがピカッと光って角ウルフは目が眩んで倒されたんだ。」
「ほ、本当に、グランは指示する声を聞いたんだね?」
「ああ。村人を襲おうとしていた時にちょうど見ていたのは俺だけだったし、周りの戦闘音で他のハンターたちは聞こえなかったかもしれないが、俺はイオリの声をハッキリと聞いたし、倒すところも見た。」
グランは性格的に冗談を言うタイプではないし、今も真剣な顔をして言ってきているが、アルは未だに半信半疑だ。
「で、魔物を全部倒し終わって死体を処理する時に、なかなか火がつかないと魔法使いが言っているのをイオリが見て考え事をしていたから、なんとなく近づいたんだ。そしたら火の精霊に魔力をやるから火をつけさせてやれって言ったんだ。」
「え!?それで、火は本当についたのかい?」
「ああ。それまで手こずっていたのが嘘みたいに。」
「信じられない・・・!」
「それだけじゃなく、おかしいところはいくつかある。無一文で来たのに、今は魔剣を装備していたがどうやって入手したか言わないし、高価なマジックバッグまで持っていた。そして異常に強い。」
「つ、強いって・・・、イオリがまさか。」
アルは普段のイオリを思い浮かべて、そのイオリが異常に強いというのは全く想像できなかった。
「あいつの戦闘時の動きは俺とルビーナがギリギリ見えるくらいで、他の奴らは全く見えないみたいだ。それだけじゃなく無駄も隙もない動きで、普段のイオリとは全くの別人だ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ、グラン。あまりにも突拍子過ぎないかい!?」
アルはさすがに待ったをかけた。
「精霊会話できるし、魔剣持ちでマジックバッグ持ちで、戦闘が異常に強い?ちょっといくらなんでもあり得なくないかい!?」
「事実なんだからしょうがないだろう?精霊と会話できるのかはまだハッキリそうとは決まった訳じゃないが、後のは確実だ。」
「ほ、本当かなあ・・・?・・・それで、一緒に依頼を受けるっていうのとどう繋がるのさ?」
「一緒に依頼を受けて、あいつの戦闘とかを見てアルの意見を聞きたいんだ。精霊と会話しているところもできれば確かめてほしいが。」
「なんともめちゃくちゃなことを言ってくれるね。精霊と会話しているところなんてどう確かめたらいいのさ?」
「あいつも一応気を付けているようだが、隙がない訳じゃない。俺が何回か聞いているから、一緒に依頼をやっていたら話しているところを1度くらいは見ることができるかも知れない。」
「・・・本当だね?冗談じゃなく、本当にグランは精霊と会話していると思っているんだね?」
「ああ。あり得ないことを言ってるのは十分自覚している。でも本当に思ってる。だからそれをアルに確かめてほしいんだ。」
ものすごく真剣に、まっすぐグランはアルを見てきた。
「なんでイオリに直接聞かないのかい?」
「俺一人だと聞き間違いだとか、なんとか言って誤魔化されるかもしれない。アルも一緒に証言してくれると誤魔化されにくいだろ?」
「わかった。暇を見つけてはハンターズギルドに通ってイオリとさりげなく一緒に依頼を受けてみるよ。精霊のこともそうだけど、異常に強いというのに興味があるからね。」
「すまん、アル。」
グランは頭を下げた。
「・・・もしイオリがグランの言う通りだったら、どうする?」
「俺は気にしない。・・・が、もし仮にこの孤児院に悪影響となるなら・・・そんときはそんとき、だな。」
そう言ってグランは腰にさしていた短剣を触った。
「・・・本当に、君はこの孤児院のことになると厳しくなるねえ。・・・世の中悪い人ばかりではないんだよ?」
「・・・世の中善い人ばかりでもないだろう?」
やれやれとアルは呆れ声をあげた。




