36話 ナバラ村の戦い
白くて長い1本の角を額から生やした灰色の狼が、角ウルフだ。
ユニコーンのようなまっすぐの角で、その角を使った突き攻撃が得意なんだそうだ。
その角ウルフの集団40匹が、草原の北の向こうからやって来るのが見えた。
「ガルルルルル・・・」
角を振りながらやって来た角ウルフたちは、村の前の俺たちの姿を見て、次々と唸り声をあげた。
身を低くして、今にも走ってきそうな体勢だ。
「来たよ!皆、武器を構えて警戒!」
ルビーナが大声で叫び、俺たちはそれぞれの武器を構えた。
俺も魔剣を手にとって構えた。
途端に始まる謎現象。
全てがゆっくりになって走ってくる角ウルフたちもゆっくりだ。
これだったら角ウルフが集中して攻撃するところがよくわかる。
ルビーナの予想通り、角ウルフたちは中央に集中していて、一斉に角で突くようだ。
こちらにも走ってくる角ウルフは何匹かいて、その内の1匹が俺をとらえたようで突っ込んで来ようとしていた。
当然、全てがゆっくりの中で俺が避けられないわけがなく、俺は横に少し動くだけで避けると魔剣で角の根元から切断した。
さすが魔剣、抵抗はほとんどなくスパッと切り落とすことができた。
角を切られたことに気が付いてないうちに横から魔剣で首を突いて倒した。
そして解ける謎現象。
「よし、倒した。」
すぐ近くで剣を構えていた同じレベルDと思われるハンターはこちらを見て目を丸くしていた。
謎現象が解けたことで周りの音も聞こえるようになり、戦闘音が至るところで鳴って、誰かの雄叫びや悲鳴が聞こえてきた。
「うわああぁっ!」
近くでそんな声が聞こえて見ると、角は避けれたものの、今まさに噛みつかれそうになっているハンターの姿があった。
「危ないっ!」
俺が慌てて走り出すと謎現象が始まった。
そして勢いでドロップキックを角ウルフの顔に食らわせて、角ウルフは吹っ飛んだ。
「キャンッ!」
「うわっぷ!」
俺は尻で着地すると急いで立ち上がって、まだ起き上がっていない角ウルフに駆け寄って喉を突いて倒した。
そして解ける謎現象。
「はービックリした。あんた大丈夫?」
噛みつかれそうになっていたハンターは呆然と俺を見ていた。
あれ?このハンター、俺のことヒソヒソ言ってた人らの1人だ。
今気付いたわ。
「大丈夫そうだね。んじゃ。」
俺は返事をもらえなかったので適当にそう言って、中央の様子を遠くから覗いてみた。
角ウルフはもうこっちには来てないみたいだけど、中央はどうなっているんだろう?
そっちの方を見ると、まだまだ戦っているようでルビーナたちやグランが戦っているのが見えた。
皆、全く危なげなく戦っていて、角を避けて体を切りつけたり噛まれそうになっても武器で防いだりしている。
援護できるようなら中央に行こうかとか思ってたが、さすがレベルB。
俺なんかが援護しなくても十分なようだ。
配置に戻ろうかな、と戦っているのを見ながら思っていると。
ルビーナたちのところへ体当たりするかのように勢いよく何匹もの角ウルフが向かって行って、攻撃を受けても唸り声をあげなから揉み合うように接戦していた。
ん?なんだ?と思っていると、後方から走ってきた角ウルフがピョーンと飛んで接戦していたルビーナたちを飛び越えてしまった。
「っ!?しまった!」
「待てっ!!」
ルビーナたちはすぐに気付いたが、角ウルフと接戦しているのですぐには追えない。
そうするうちに、何匹か続けてピョーンピョーンと飛び越えていく。
角ウルフが向かった先には、控えていた村人たちがいる。
村人たちは「ひいいいっ!?」と悲鳴をあげながらも剣を持って戦おうとしている。
大変だ!助けないと!
俺は駆け出していた。
途端に始まる謎現象。
すると、グランがいち早く接戦を終わらせて向かおうとしてゆっくり振り向いているのが見えた。
でも向かったとしても少し距離がある。
角の先は村人にもう届きそうだ。
俺も間に合わないっ!
俺は思わず叫んでいた。
「光の精霊!目眩ましだ!!」
『まかせて!』
ピカッッ
「キャンッ!?」
角ウルフの目の前が突如として光って、角ウルフは首を振って立ち止まった。
振ったおかげで村人に角が当たるのが避けられた。
立ち止まったのは2秒ほど。
でも、俺には10秒と十分だった。
「うらっ!」
角ウルフの元に駆け寄った勢いのまま、角を根元から切り落として喉も切り裂いて倒した。
続けて、飛び越えてきていた角ウルフ数匹の元にも駆け寄って喉や腹を突いて倒した。
そして解ける謎現象。
「ふうっ、よっしゃ。・・・大丈夫ですか?」
俺が魔剣についた血を払いながら村人に声をかけたら、村人たちは村長も含めて呆然としていた。
グランもこちらを見て固まっていた。
おいおい、まだ戦いは終わってないのにぼーっとしてたら危ないよ?
それからはルビーナたちがサクサク倒していって、10分ほどして中央の角ウルフは全部倒せたようだ。
「・・・よし!角ウルフは全部倒したね!皆怪我はないかい!?」
ルビーナが確認すると、数人が足や腕に噛まれたり突かれたりして怪我をしていたがいずれもひどいものではない程度だった。
「私たちの勝利だ!」
ルビーナがそう言って拳をあげ、俺たちも喜びでわいた。
それからは、怪我人は村の建物内で簡単な治療を施され、無傷の者たちは角ウルフの死体の処理をすることとなった。
簡単な治療というのは薬草を傷口に揉み込んで包帯巻くんだと。
ポーションも一応飲んでいるそうなんで、明日には治るらしい。
それでも治らない場合は町に戻ってから治療院に行くことになるらしい。
そして角ウルフの処理では俺は活躍させてもらった。
「よっ」スパッ
「ほっ」スパッ
「はい次ー」スパッ
角ウルフは肉は食用にはならないらしいが、角は様々なものに利用できるそうで、その角を根元から切り落とすことを俺はやっていた。
角は固いそうで、根元を切り落とすなんて解体に慣れた人でも10分はかかるそうだ。
うん、でもそうです。
俺の魔剣ではスパスパ切れたよ。
それをルビーナに言ったら「だったら角を切り落とすのをやってくれ」と言われてしまった。
なので俺は倒れている死体の角を切り落として回っているというわけだ。
切り落とした角は運ぶ役のハンターに渡したら角を1ヵ所にまとめて置いて、後で紐で1つにまとめて馬車で運ぶ流れになっている。
そして角を切り落とされた死体は怪我をしていないハンターたちが草原の端に掘った穴へまとめて入れて焼いて埋めるんだそうだ。
焼くのはアンデッド対策らしい。
「あれ?つかない?」
若い女の子の魔法使いハンターが火魔法でつけようとしていたが、全然つかない。
「呪文はあってると思うんだけど・・・。」
火の精霊は来ている。
「魔力が足りないんじゃない?」
別の女の子のハンターがそう言っていたが、問題はそこなんだよな。
『魔力をもうちょっとこめてほしいな。その魔力の量じゃあ、角ウルフ全部を焼くには足りなくて俺が干からびちまう。』
「魔力をこめた方がいいかなあ?やりたいけど、もう魔力がほとんどないの。・・・もう一回やってみるわ。」
女の子の魔法使いハンターはそう言って呪文を唱え出した。
『数多の精霊がひとり、火の精霊よ。』
『火の力をもって、我が前の死体に火を灯せ。』
しょうがないなあ。
俺は魔法使いハンターの後ろの方に密かに回り込んで、小声で火の精霊がいるであろう声のする方向に話しかけた。
「火の精霊、俺の魔力あげるから火を出してくれよ。」
『ん!?あ!?イオリじゃないか。オッケー、イオリが魔力をくれるなら問題ないよ。』
『ファイア!』
ボオッ
女の子の魔法使いハンターが勢いよくそう言うと、火がついた。
「ああ、よかったー!ついたわー!」
「よかったわねえ。」
2人はほっとひと安心していた。
「ありがとう、火の精霊。」
『こっちこそ、うまい魔力を食えてよかったぜ。』
火の精霊は機嫌よく去っていった。
さーて、俺もこれでまた1日かけて町に帰ることになるのかー。
「あれ?・・・グラン、いたんだ。」
気付いたら近くにグランがいた。
「あ、ああ・・・。」
なんか戸惑った顔をしている。
あれ、ちょっと待って。
いつからいた?
『んふふふふふ!』
なんでか情報の精霊のなにかを含んだような笑い声が聞こえてきた。




