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「それじゃ困るのよ!」

 いきなりエリゼさんが立ちあがった。

「スチル回収ゼロになっちゃうじゃないのぉぉおぉぉお!!」

 え~。エリゼさん、それは、もしかしなくても、貴女は残念な人なのか。

 正直、ドン引きである。

「いやだ。あのね、女の子が好きっていうのとは違うのよ? あのね、可愛いって正義だと思うし、ヒロインのりんたんが王子様たちに囲まれて嬉しそうに恥じらってるとこをね、遠くからでもいいから見ていたいだけなのよ。まぁね、近くで見せてくれるなら植木にだって、植木鉢にだってなって見せるけどね!」

 クネクネと身体をくねらせながらエリゼさんが酷い告白をしてきた。

「お願いしますっ。ミニスカ制服姿のりんたんが観たいです。お願いしますっ!」

 どうすんの、これ。嫌です、そんな理由で学校なんか通わないよ。

 王太子様の目が遠くを見てる。うん、気持ちは判る。

「あの、…王太子様を取られるのが嫌なんじゃなかったんですか?」

 エリゼさんがもんのすごーーく遺憾だって顔をした。

「違うわよ」

 即答かよ。王太子様、泣いちゃってるじゃないですか。

「取られるのが嫌なら、りんたん探したりしないもん」

 あー。それはそうですよねー。バトルパートないんですもんねー。でもそっかー、『りんたん』かぁ。


「あ。でもね、後半にバトルはないけど、中盤に行方不明だった隣国の皇太子さまがこの国に誘拐されているって大騒ぎになって、戦争になるかもっていうイベントはあるわよ」

 おいーー!! それ重要だから。早くその皇太子さま見つけて、隣国に送り返さないとだめじゃん。戦争怖いし、嫌すぎる。

 自分の婚約者から、よそ(異世界)の女に取られるのを見たいと言い出されて放心していた王太子様を揺り起こす。

「王太子様、皇太子を探しましょう。国交に影響がでます。戦争は回避しないとですよ」

 戦争になったら、月の灯り亭が、女将さんが料理長さんが、仲良くなったお客さんたちが悲しむ。知り合いが死ぬのは嫌だ。勿論、自分が死ぬのも嫌すぎる。

 早く皇太子さまを探さねば。

「大丈夫よ~」

 すっごくお気楽そうにエリゼがクランベリー入りのスコーンを手に取った。たっぷりのクロテッドクリームと蜂蜜を塗りたくっていた。見ているだけで胸焼けがしそうだが、あっという間に消えていく。すごい。油甘物強者だ。つよい。


「そうでしたね。エリゼさんのゲーム知識があれば簡単にお迎えにいけますね!」

 エリゼさん2個目はチョコレートタルトにクロテッドクリームとオレンジソース追加ですか。ほんとチャレンジャーだ。

 でもこういう風にそこにあるものを組み合わせてアレンジしたくなっちゃうのって日本人だなーって思う。こっちにきてからそういうことしてる人って見ないんだよね。あぁ、エリゼさんの中身は本当に日本人なんだなぁ。

「え、皇太子がどこにいるかなんて知らないわよ。ゲーム雑誌にも情報なかったと思うわぁ」

「ネットの攻略情報は…」

「…ネット? ネットの攻略って、なにかしらそれ」

 ……もしかして。

「スマフォとかインターネット。あの、パソコン使って情報を集めるんですけど、そういうの判りますか?」

「それはあれかしら。パソコン通信のことかしら」

 そこかぁ。その辺りでかぁ。

「まぁ大丈夫よ。隣国との戦闘は簡単に終わるから。乙女ゲーのイベントだし。

 それに負けても問題ないのよ?

 勝たないと好感度上がらないけど、負けても特殊スチルあるし。勝っても負けても美味しい仕様なのよ! 素敵でしょう?

 でもやっぱり勝利スチルの方がテンション上がるわね! りんたんとね、その時一番好感度の高い攻略対象者がね、…ぐふっ♡ お素敵よね。いいのよ。眼福なよぅ。

 あー、でも負けスチルも、あれはあれで味があるというか。いやん、やっぱり甲乙付け難いわぁ。

 まぁ、戦争イベントは今年じゃなくて来年だから。まだ気にしないでいいと思うの」

 じゃないよ! ここはゲームみたいな世界だけど、ここで生きている人がいるんだもん。

 戦争になったら誰かの大事な人が死んじゃうんだよ? 回避できるなら絶対にしないとダメなのに。なんでそんなに自分には関係ないって言えるんだろう。


「公爵令嬢なら、王国の民の為にできることをちゃんとしなさいよね!!」

 王太子といい公爵令嬢といい。この国はどうなっているのよ。

 偉そうにするだけが貴族じゃないでしょう。政治しなさいよね。

「エリゼ、皇太子について、何か情報はないのか」

 ようやく王太子様の再起動が掛かったらしい。状況を把握したのかまともなことをいっている。おぉ、王太子様が王太子様してる!

 口いっぱいに詰め込んだメイプルシュガーマフィンを紅茶で流し込んだエリゼさんが、それを請けて、ん~っとちょっと考え込んだ。なんでもいいから情報を思い出してほしい。

 とにかく動くにしてもなにか手掛かりがないと。


「んー。特にないわね。ゲームだと、そろそろ秘密結社の秘密の儀式で猫の姿にされている筈ね」

 猫かぁ。この街、野良も飼い猫もいっぱいいるんだよねー。模様とか特徴的だったりしないのかなぁ。

「ごく普通の猫よ? 青地に黒いブチ模様の雄猫」

 …それって。王太子とムーアさんと、3人で顔を見合わせた。まさか、ねぇ? そんなお手軽なことって。そんなのないよねぇ。




「という訳で、俺が隣国の皇太子ガーランドだ」

 やだもう。本当にお手軽だった。これが乙女ゲームの補正力なの?(多分ちがう)


 皆で私の部屋に戻ってみると、私のタイガの姿はなく、その代わりに、青く見えるような黒い髪と、黒く見える青い瞳をした背の高いその人が待っていた。

 待っていたというか、私のベッドの上で寝転んで、パンを齧っているところだった。おい。

「ちょっと、ベッドの上でパンなんか食べないでよ。パン屑が飛び散ってるでしょ」

「お腹すいたんだもん。飯くれ、めし」

 そんな可愛く言ったって、タイガと違って可愛くないんですけど。

「それよりも。いつからなのよ」

 なにが? って。こてんって首を傾げて見せても騙されたりしないんだからね。

「元から人になったり自由にできたの?」

 違う違うと、目の前の人は、片手を振って否定する。

「昨夜、りんが俺に魔法を掛けただろ、あれで呪いが解けたみたいだな。

 人間に戻ってるのに気が付いたのは、お昼ちょっと前にお腹すいたなーってバスケット漁ろうとしたら、人間の手に戻ってたからだな」

 なるほど。というか。んん?

「光魔法、やっぱり発動してたんだ。ホラ見ろ、私は間違っていなかったんだ」

 いきなり王太子が諸手を挙げて歓喜の声を上げた。うるさい。いまはそれどころじゃない。

「…ねぇ、タイガ。私と一緒に、お風呂入ったりしてたよね? 孤児院にいた時とか。お風呂に入ってるとどこからか入ってきて、そのままさぁ」

「だって、身体は猫だったし」

「ベッドにも潜り込んで、私を枕にしたりしてたよねぇ?」

「……だって、身体は猫だったし」

 やっぱり意識は人間のままだったのか。

 この変態すけべ猫がぁあぁぁ。三味線の革にしてくれるぅっ。

 脳天チョップ100回の刑なんだからね。覚悟しろ。


「いいじゃん。俺の嫁になれば全部OKだろ」

 まだ殴り足りなかったけど、手が痛くなったから10回で終了にしてあげたのに。

 なによ、それ。そんなの嫌ですー。


「俺は、りんがいいな。

 働き者で、一生懸命で、真面目っぽいのに、暴力的で、自分の感情に素直で、正論吐きまくる。

 こんな風に、見ていて飽きないって女は、りんが初めてだ」

 うっ。途中滅茶苦茶言われてるのに、なにそのぐっとくる告白。

 すけべ猫の癖に。生意気だぞ。


「それなら、正規の攻略対象である私も候補に入れてくださいませんか?」

 ムーアさん、いきなり何をいいだすんですか。あなた婚約者いるんでしょう?

「婚約者はいますが、彼女は自分の侍従に夢中ですから。大丈夫です。

 私の傍にいるところをきっと殿下ですら見たことはない筈です。

 簡単に解消はできますよ」

 さりげなく、ムーアさんまで婚約者さんに相手にされていないことをさらっと告白してきた。

 やっぱり上司(王太子)があんなだと部下も境遇が似るのかしらねぇ。

 というか、それって絶対に、違う乙女ゲームか何かがそこで発生してるよね? どういうことだってばよ。


「そ、それをいうなら私も…」

「あ。王太子様はいいです。いらないです」

 泣くぞ、といいながら、泣き出した王太子様は逃げて行った。

 帰れって言った時は絶対に帰ろうとしなかったのに。不思議だね。


「りんたんと、王太子のスペシャルスチルがぁぁ…」

 まぁこの人は無視しとけばいいか。


「私はここで、一人前の平民として、仕事ができる大人になるの!」

 恋をするのは、それからって決めてるのだから。

 用意された恋なんてしないもん。


 乙女ゲームのヒロインなんかやりませんよ。


 自分で探す。絶対だ。





 この後、もうちょっとお給金が増えて、部屋を外に借りた私の所に、

 やっと強制帰国させたのに、猫になっていきなり戻ってきた皇太子さまと、

 隣の空き部屋を借りるようになったムーアさんと、

 ムーアさんのところに遊びに来た振りをして我が家に入り浸るようになった王太子様と

 ついでに、スチル回収班を名乗るアヤシゲな公爵令嬢とで

 恋のバトルっぽいお話は続いて行ったりするんだけど。


 そのお話は、また別の話だから、次の機会に。








 あ。公爵嫡男どこいったって思った人います?

 それなんですけどね、聞いてくださいよ。


「ねえさまを悪の変態(スチル回収班の事と思われる)に引きずり込んだのはお前だな。

 成敗してくれる、覚悟しろ!」


 攻略対象にするにはちょっと難しいお年頃。5歳なんだってウィリアム君。

 愛用の武器は木剣だったんだけど子供の力でも危ないので

 エリゼ特製ハリセンだ。パンパン煩い。痛くないからいいけど。


「ねぇ、ちょっと。いくらなんでも圏外すぎるでしょうよ」

「うふ。私は、可愛いって正義だと思うの」

 身内にもこの仕打ちか。恐ろしい。

 キラキラさせながら返事したって、私からの言葉は変わらないからね?

 このド変態が。



 この世界は絶対に、乙女ゲームの世界なんかじゃないと思う。

 特に『ゆうきりんりん☆魔法学園らぶぱ~てぃ』なんていう

 ハズいタイトルのゲームだけは違うと思う。


 こんなハズいタイトルのゲームのヒロインなんて

 やりませんからね!


 絶対だ。



 

一旦、ここで完結にしますが

続きを連載として始めています。

よろしければお付き合いくださいませ。

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