第四十八話 家族
「なるほど、夢で悩んでいるのですね
なら私の昔の話が参考になるでしょう。」
これは私が幼かった頃の話です。
私の家では毎日家族そろって食事をとる事が習慣でした。
その日も父、母、私、弟の4人で食卓を囲んでおりました。
しかし何故か食卓には5人分の食事が準備されているのです。
不思議に思った私は母にどうして5人分の食事があるのか尋ねました。
そうすると母は不思議そうに「いつも通りじゃない」と答えたのです。
何を言っているのだろうと私が父を見ると父も私の方を見ながら不思議そうな顔をしていました。
私は助けを求めるように弟の方を見ました。
一瞬時が止まり、私は目を疑いました。
そこには弟と見知らぬ男性が一緒に座っていたのです。
私はぎゃあと大声を上げ思わず椅子から転げ落ちました。
痛さも我慢して私はその場から逃げ出しました。
その時はただただ逃げる事に必死でした。
当然ですよね、さっきまでいなかったはずの男性が急に現れたのです。
しかも弟を膝に座らせていたのですから。
パニックになった私はトイレに駆け込み中から鍵をかけると、わんわん泣きだしました。
これからどうしたらいいのか次から次へと恐怖がこみ上げてきました。
私にとっては永遠にも感じる時間が過ぎるとコンコンと、扉を叩く音が聞こえてきました。
と同時に父がごめんと謝る声も響きました。
?
幼い私の頭の中は疑問符だらけですよ。
知らない男性がいたと思ったら急に父に謝られるのですから。
最初は何が何やら分からず何で謝るのか尋ねているうちにその答えが分かりました。
なんとその男性は父の友人だったのです。
軽いドッキリを仕掛けたつもりが私が思った以上にパニックになったそうでそれを見て2人も慌ててしまったそうなのです。
つまり最初から不思議な事は何も無く、私が怖がらされただけでした。
私は安堵と怒りからより一層泣きました。
父と友人が扉の外で狼狽している様子が手に取るように伝わってきて少しおかしかったのを覚えています。
泣いている私よりも扉の外の父の方が泣きそうな声で謝り続けていました。
結局私が父を許したのは父の口からアイスを買ってあげるからという言葉が出てきた時です。
今思えば安い機嫌取りですが幼い私にとっては黄金と同じくらい価値がありました。
さっきまで泣いていたのが嘘のように私は上機嫌になってトイレから出ました。
その後は5人で食事をとり、風呂に入り、翌日のアイスを夢見ながら眠りについたのです。
そして翌日私が起きていくと父と父の友人が青ざめた顔で玄関に立っていました。
どうしたのかと思い私が父に近づくと父は凄い剣幕で昨日の事を覚えているかと言いました。
私は何を言っているのだろうと不思議に思いながらも軽くうなずき覚えている事を口にしたのです。
泣いた事、トイレに逃げ込んだ事、アイスを買ってもらう事、5人で食事をした事。
話しているうちに私自身も恐ろしい事に気づきました。
私の家族は父、私、弟の3人だけなのです。
昨日は父の友人を入れても4人、しかもその中に女性はいません。
ならば昨夜私達が母だと認識していた存在は一体何だったのでしょうか?
私は弟が心配になり急いで子供部屋に向かいました。
そこには幸せそうによだれを垂らす弟がいるだけでした。
はーと一息つくと父がようやく子供部屋にやってきました。
そして弟の無事を確認すると私達は台所に向かい女性の痕跡が無いか調べたのです。
お茶碗を使っていれば実在した人物で、使ってなければ幽霊だと父は言っていました。
しかし台所にはお茶碗どころか皿の1枚も出ておらず全て綺麗に片付けられていたのです。
その光景を見た父の友人がぽつりと一言。
「律儀なやつだな~」
そこで力が抜けた私達は一応家の中に怪しいものが無いか調べ戸締りを強化する事で落着させました。
それから不思議な事が起こった事は一度もありません。
結局私達が母だと思っていた人物が誰なのかは今でも分かっていません。
亡くなった実母とは似ても似つかぬ顔でしたので母の霊というわけでもなさそうです。
後年父と弟を交えその日の思い出について話し合いました。
父は今でも鮮明に覚えていて私の記憶と相違無いようでした。
弟はその日の記憶は無いと言っていましたが不思議な事を口にしました。
昔から誰かが傍にいる気がしており、大学入学くらいからその感覚が無くなったと。
あの女性が幽霊や妖怪の類なのか今となっては調べようもありません。
ただどんな存在であっても悪いものではないような気がします。
あの日を境に父は私達にそれまで以上に愛情を注いでくれるようになりましたし、私達家族の絆も深まったように思います。
あの頃は不気味で怖い出来事でしたが今となっては感謝しているくらいです。
だから君もそんなに怖がらないでください。
夢に出てきたその人はきっと良い人です。
だって私が見た人と全く同じ顔をしているのですから。




