第二話 幽霊の家
「部長ちょっと聞いてくださいよ」
今年入ったばかりの部下が開口一番話しかけてきた。
どうしたの?と聞き返すと、バスの中で知らないおじさんに妙な話をされたと言った。
どんな話か気になったので僕は部下に話をするよう促した。
私は幽霊を見た事がある。
ある日家の中で勉強をしていたら背中の方に立っていた。
普通なら叫ぶのだろうがその時の私はなぜか冷静だった。
「どうしたの?」
そう声をかけるとその幽霊は音もなく消えた。
次の日もまた幽霊は立っていた。
私はこりずにもう一度声をかけた。
「どうしたの?」
だが幽霊は昨日と同じように音もなく消えた。
次の日も、その次の日も幽霊は現れ続け、その度に私は声をかけ続けた。
1月ほど経った頃だろうか、ようやく幽霊が反応をした。
「どうもこうもないよ」
拍子抜けだ、1月声をかけ続けこんな反応とは。
それでも反応があったのが嬉しく私は振り向いた。
しかし幽霊はいなかった。
また消えたのかと落胆したが、この日から幽霊は少しずつ会話をしてくれるようになった。
「──がしんぱいだ」
「なぜ──はべんきょうをやめないのか」
「おとうさんとおかあさんをみないのか」
「じぶんのことをみようとしないのか」
何を言っているのか最初は分からなかったが、どうやら私の事を案じ続けているようだった。
と言う事はこの幽霊は私の事を知っている人間か?
そう気づいたので翌日私は幽霊に聞いてみた。
「君は僕の事を知っているの?」
「──────!!」
答えは聞き取れなかった。
幽霊は悔しそうに下を向くとそのまま消えた。
それからしばらく幽霊を見かける事は無く時間だけが過ぎた。
幽霊が消えて10ヶ月ほど経ち、私は幽霊が誰なのか、何を伝えたかったのかを理解した。
その日私の家では一周忌が行われていた。
おかげで幽霊の正体も、私の事を心配していた理由も、両親を案じていたのも、全てが繋がった。
理解した理由を答える前に1つ、私には弟がいた。
年の離れた弟は少し変わっていて、よく何もない方向を向いては笑っていた。
あれは今思えば幽霊と喋っていたのかもしれない。
なぜそんな事を言うのかって?
大事な事だからだよ。
そう幽霊は私だったんだ。
受験勉強で体調を崩し、そのまま死んでしまった幽霊。
弟は死んでからも勉強する私を心配してくれていたのさ。
そう理解した瞬間私はその家から消えていた。
それきり弟には会っていないがもし君が私の弟に会う事があればこう伝えてほしい。
「ありがとう」
「ってそんな話を知らないおじさんから聞かされたんですけど、どう思います部長?」
部下の語り口は見事だった。
そしてそれ以上に驚かされた。
「僕は信じるよ、その話」
そう答えると部下はやめてくださいと怒った。
「信じないでくださいよ! この話が本当ならその人幽霊じゃないですか! 幽霊と会話してたなんて怖すぎて嫌ですよ!!」
「はは、確かにね。 でもその話は信じるよ、だってその弟って僕の事だから」
僕が笑いながら答えると部下は青ざめて嘘ですよね?と聞いてきた。
僕はただ一言、笑いながらありがとうと伝えた。




