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第一話 人面犬

私が子供の頃にはオカルトが流行っていた。

内容も幽霊や妖怪だけでなくUMAやUFO、都市伝説とバリエーションに飛んでいた。

多々あるオカルト話の中でも特に忘れられないのが人面犬の話だ。


人面犬とはその名の通り犬の体に人の顔がついているというものだ。

話しかけると悪態をつき立ち去ったり、とんでもないジャンプをしてみせた事もあったらしい。

しかしそのほとんどが態度の悪い中年男性のようなもので気持ち悪くはあったが怖くは無かった。

実際に自分が出会うまでは。


人面犬を目撃したのは近所の公園だった。

その公園は昼間は子供や老人で賑わうが夜は閑散としていた。

治安は悪くなかったが夜の公園は不気味で出来る限り近づきたくなかった。


だからこそ普段から暗くなる前に家に帰るよう心がけていたが、その日は違った。

夏祭りで友達と時間を忘れて遊んでしまい帰りが遅くなってしまったのだ。

公園を避ける事も出来たが、それでは回り道になってしまう。

ただでさえ遅い帰りがこれ以上遅くなるのは勘弁してほしかった。

今でも母親の説教が怖いのにこれ以上怒りを買うのは嫌だった。


私は思い切って走って帰る事にした。

どれだけ怖い公園でも前を通るのは数十メートル、走れば数秒の距離だ。

それに走った方が早く家に着くと良い事尽くめだ。


公園に近づいた所で私は意を決し走ろうとしたその時だった。


「動くな!!」


と何者かの声が後ろから響いた。

びくっと身を強張らせた私は前に進む事も、後ろを振り向く事も出来なくなった。

動いたら襲われると感じたのだ。


恐怖が全身を支配したその瞬間、飛び出そうとした道を1台の車が猛スピードで横切った。

あのまま走り出していれば私は轢かれたかもしれない。

なるほど、後ろの声の人はその車に気付いていたから私を助けるために叫んだのだ。

嬉しくなった私はお礼を言うために後ろを振り向いた。


ありがとう、その言葉を発することは出来なかった。

何故か?

後ろにいたのは犬の体に人の顔、人面犬そのものだったからだ。


私は悲鳴を上げると同時に走り出した。

今度は動くなという声は聞こえなかった。

代わりに足音が後ろから迫ってきていた。


私は無我夢中で走った。

走って、走って、迫る足音さえも聞こえないほどに全力で走った。

気づくと自分の家が見え、飛び込んだ。


母親が開口一番説教しようと構えていたが、私の様子を見るとその表情は心配に変わった。

何があったのか聞かれたので人面犬に追いかけられたと伝えた。

結果、母親にとても怒られた。

ほら話で許してもらおうとするなと言われたのだがしつこく食い下がる私に根負けした母が、ならば外を見てみようと言い出した。


全力で嫌がったのだが母親には勝てず、外を見に行く事になった。

家の前の道を見渡しても何もいない。

ほら嘘じゃないと言いかけた母の目が見開かれた。

視線の先に犬がいた、人の顔で笑顔を浮かべる犬が。


その後の事はよく覚えていない。

2人して気を失ってしまったからだ。


それからしばらくして知った事がある。

それはその公園の近くで事故死した飼い主と犬がいたという話だ。

飼い主と犬はトラックに轢かれて亡くなったそうだ。

事故現場は凄惨で人と犬の死体が混じりあっている酷い状態だったらしい。


もしかするとあの人面犬は自分と同じような犠牲者を出さないように、道行く人を見守っていてくれた優しい存在なのかもしれない。

まだあの道にいるのか、それとも成仏したのか、知りたいが確認する勇気は無い。

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