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始めに

こんな死に方をしてさぞかし驚いた事だと思う。

何も言わずに逝くのも格好良いかと考えたがあまりに無責任かと思った。

そこでこの本を残す事にした。


これは私の遺書だと思ってほしい。

知っての通り私に残された時間は少ない。

家族を持たず、病気を患い、仕事を失い、残っている物と言えば1Kの部屋いっぱいに詰め込まれたオカルト本だけ。

幸いにも優しい家族と快い友人達に恵まれたが私自信には何も無い。


こんな私の人生に何か意味があったのか、私の考える限りではあまり無かったように思う。

君は怒るだろうが、私は私の人生に意義を見出せなかったのだ。

だからこそ私は自分の人生の最後くらいは何かしらの意味を持たせたい。



そう考えた時、脳裏に思い浮かんだのは40年ほど前の事。

小学生の夏休みに田舎で過ごした時の記憶だった。

私はそう、友人数人と百物語に挑戦したのだ。


1人ずつ怪談話を行い、終わるとろうそくを吹き消すといった単純なもの。

私が子供の頃は今と比べて娯楽も少なく怪談話は絶好の暇つぶしであり度胸試しだった。

百物語の話が出た時も大喜びで飛びついた。

何より夜遅くまで友達と遊べるのが嬉しくてしょうがなかったのだ。


そして実際に百物語が始まった。

ろうそくを100本部屋の真ん中に置き、全てに火を灯す。

それだけでも気分が上がり、怖い気分など吹き飛んでいた。


話し始めは私から、とびきりの怖い話を、持てる限りの技術で語った。

皆最初は強がっていたが、顔が少しずつ少しずつ恐怖していった。

話が終わるころには震えている友人もいたほどだ。


そこから1人、また1人と語っていき時計の針が12時を指す頃には50話を超えていた。

このまま残り半分を一気に語ってしまいたい、そう思っていたのだがまあしかしそこは小学生、情けない落ちがついた。


結論から言うと百物語は終わらないまま中断する事になったのだ。

何故かって?

気づいたら友人が1人、部屋の隅で眠っていたからさ。

小学生が12時まで起きているだけでも奇跡のような時代の話だ、眠るのもしょうがない。



百物語はそこで終わり、大人の手を借りて後片付けを行い私達も眠りについた。

懐かしく、楽しかった、私の少年時代の輝かしい記憶。

同時にずっと心残りでもあった。

他にも心残りはあるが、それは到底今から解決するのは難しい事案だ。

しかしこれなら今の私にもどうにかできる。




私は百物語を完遂させたい。

私は百物語の全てを自分独りで行いたい。

私は百の物語を自分独りで作りたい。

私は私の手で青行灯を呼び出したい。

そして私はその全てを記録に残したい。




これが私の最後の望みだ。

奇妙に思うかもしれないがこれが偽らざる私の本心なのだ。

誰かに見届けてほしい気持ちもあるが、それは少し恥ずかしい。


死を前にしても恥ずかしさが勝ってしまうあたり私は死ぬまで変わらないようだ。

なので良ければ、私の死後この記録を見てほしい。

この本とは別にデジタルカメラでも記録を残す予定だ。

望み通り青行灯が出ればその時点で私は死ぬだろう。

ショッキングな映像を見せる事になるかもしれないので無理強いはしない。

それにもし生き残ったらその時はきちんと編集しておくので安心してほしい。



そうと決まればまずは百物語の準備からだ。

ろうそくはすぐにでも用意できるが、肝心の物語を百作らなければならない。

あまり時間も残されていないがここは妥協できない。

幽霊、妖怪、都市伝説、UMA、呪い、因縁、不思議、私のオカルト知識の全てを駆使し納得のいく怪談話を必ず作ってみせる。


年を越すのは不可能だと医者に言われた。

余命2ヶ月の命、1秒たりとも無駄にできない。

私の最初にして最後にして最大の挑戦を始めよう。

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