治療
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「……落ち着いた?」
少しして、ネマがくすっと笑った。
「うん、ごめん。つい……」
カイルが照れくさそうに離れると、ネマは手にした瓶を見つめ、ゆっくりとその栓に指をかけた。
「じゃあ……飲むね」
「ああ……」
カイルは固唾を飲んで見守った。
ネマは栓を開け、少量だけ取り出してガラスのコップに移した。こうしてみると、本当に水にしか見えない。
ネマは覚悟を決めたようにコップを口に運び、一息に飲み干した。
ごくん、と喉が鳴る。
「どうだ……?」
カイルが聞くと、ネマは少し困惑したように言った。
「なんか、喉が……」
──彼女の眉がぴくりと歪み、激しく咳き込んだ。
「ぐっ、く……っ……!」
咳は止まらず、次の瞬間──
ネマの口元から、赤い液体が飛び散った。
「ネマ!!」
カイルは慌てて駆け寄ろうとした。しかし、ネマは涙目でカイルを睨み、首を振った。
それ以上、来るな──そう言っているかのように。
その瞬間、床に落ちた血が、じわりと……色を失い始めた。
赤から透明へ。ゆっくりと、静かに染みるように。
「まさか……」
──水の治療。濁った水に与えれば、その水は澄み渡る。
先ほどのネマの言葉がフラッシュバックする。
ネマの血が、変化している。ネマの体が、まさに癒されている。
けれど──それは、望んでいた癒しとは違っていた。
「なんで……なんで……!」
カイルの叫びも届かないまま、ネマの血肉は透明な液体へと変わり、流れ出していく。
ネマは、もう何も言わなかった。
その目は開いたまま、虚ろに虚空を眺めている。
命のあった場所には、ただ静かな水の跡だけが残っていた。
⸻
カイルは扉を蹴り開けるように飛び出した。
手には、夏至祭りで買った星墜石のブローチが握られていた。
震える手で、ブローチを胸に押しつけながら、足をもつれさせるように走った。
向かったのは風見台。やり直しが始まった、あの場所。
(なにが……今度こそだ……)
視界が滲む。息が上がる。喉の奥が、焼けつくほどに苦しい。
(違和感は……あったんだ。あった、はずなんだ……!)
あれは、父さんと母さんのレシピそのままだった。つまり、二人はレシピを完成させていたのだ。
なのに、なぜ──
(なんで……なんで、父さんと母さんは……飲まなかった?)
答えは一つだ。二人は、エリクサーは人体には使えないと知っていた。だから、使わなかった──。
その事実を、もっと深く、疑うべきだったのに。
風を裂いて走る。足がもつれて転びそうになる。膝が笑っている。それでも止まれない。
(浮かれてた……やり直せるって……信じたくて……!)
掴めたと思ったネマの手を、離してしまった。大事なところで、結局ネマに判断を任せて。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。心臓の音がけたたましく胸を震わせる。
風見台に躍り出ると、カイルは祈るようにブローチを天に掲げた。
次回:動揺と困惑──
→7月22日(火)20:00更新予定です!




