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治療

※毎日夜20時ごろに更新予定です。

※お気に召しましたら☆やコメントいただけると励みになります!

「……落ち着いた?」


少しして、ネマがくすっと笑った。


「うん、ごめん。つい……」


カイルが照れくさそうに離れると、ネマは手にした瓶を見つめ、ゆっくりとその栓に指をかけた。


「じゃあ……飲むね」


「ああ……」


カイルは固唾を飲んで見守った。


ネマは栓を開け、少量だけ取り出してガラスのコップに移した。こうしてみると、本当に水にしか見えない。


ネマは覚悟を決めたようにコップを口に運び、一息に飲み干した。


ごくん、と喉が鳴る。


「どうだ……?」


カイルが聞くと、ネマは少し困惑したように言った。


「なんか、喉が……」


──彼女の眉がぴくりと歪み、激しく咳き込んだ。


「ぐっ、く……っ……!」


咳は止まらず、次の瞬間──


ネマの口元から、赤い液体が飛び散った。


「ネマ!!」


カイルは慌てて駆け寄ろうとした。しかし、ネマは涙目でカイルを睨み、首を振った。


それ以上、来るな──そう言っているかのように。


その瞬間、床に落ちた血が、じわりと……色を失い始めた。

赤から透明へ。ゆっくりと、静かに染みるように。


「まさか……」


──水の治療。濁った水に与えれば、その水は澄み渡る。


先ほどのネマの言葉がフラッシュバックする。


ネマの血が、変化している。ネマの体が、まさに癒されて(・・・・)いる。


けれど──それは、望んでいた癒し(・・)とは違っていた。


「なんで……なんで……!」


カイルの叫びも届かないまま、ネマの血肉は透明な液体へと変わり、流れ出していく。


ネマは、もう何も言わなかった。


その目は開いたまま、虚ろに虚空を眺めている。


命のあった場所には、ただ静かな水の跡だけが残っていた。



カイルは扉を蹴り開けるように飛び出した。


手には、夏至祭りで買った星墜石のブローチが握られていた。

震える手で、ブローチを胸に押しつけながら、足をもつれさせるように走った。


向かったのは風見台。やり直しが始まった、あの場所。


(なにが……今度こそだ……)


視界が滲む。息が上がる。喉の奥が、焼けつくほどに苦しい。


(違和感は……あったんだ。あった、はずなんだ……!)


あれは、父さんと母さんのレシピそのままだった。つまり、二人はレシピを完成させていたのだ。


なのに、なぜ──


(なんで……なんで、父さんと母さんは……飲まなかった?)


答えは一つだ。二人は、エリクサーは人体には使えないと知っていた。だから、使わなかった──。


その事実を、もっと深く、疑うべきだったのに。


風を裂いて走る。足がもつれて転びそうになる。膝が笑っている。それでも止まれない。


(浮かれてた……やり直せるって……信じたくて……!)


掴めたと思ったネマの手を、離してしまった。大事なところで、結局ネマに判断を任せて。


頭の中がぐちゃぐちゃだった。心臓の音がけたたましく胸を震わせる。


風見台に躍り出ると、カイルは祈るようにブローチを天に掲げた。


次回:動揺と困惑──

→7月22日(火)20:00更新予定です!

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