26 職業体験2
「ああっ、お待ちしておりました!!」
職業体験初日。お城の指定された集合場所にグレース様と共に向かうと、若干涙目のディーン様が待っていた。
宮廷魔導士を職業体験に選んだ学生は他にもいるけど、複数の担当者がいるので別行動をとっている。
私たち二人の担当は彼だったわけだけど、こうなることは来る前から何となく予想できてしまっていた。
「職業体験は毎年のことですが、今年はホロウであるルナシアさんと、グレース殿下まで来てくださるなんて! ああっ、ひと月と言わず半年……いえ、ずっといてくださっても構いませんのに!」
「ディーンは相変わらずだね~」
大歓迎をしてくれたディーン様を見て、グレース様が苦笑する。
毎度のことながら、よくこのテンションを維持できるなと思ってしまうね。
「っと、失礼いたしました。体験期間中の予定についてはこれから確認しますが、その前に制服に着替えてきてください」
そう言われ、私たちは着替えのために部屋を移動した。
職業体験期間中は、宮廷魔導士の制服を貸してもらい、それを着て仕事をすることになる。
フード付きのローブに、動きやすいジョッパーズパンツが基本で、ディーン様のように重役になってくると、邪魔にならない程度に装飾が増えたりする。
ローブは黒地に緑と金の糸で美しい刺繍が施されたデザインで、魔導士のサポートのために魔力が織り込まれている。使われている布は、耐久力にも優れた特殊素材だ。
そういえば、時間が巻き戻る前の世界で最期に着ていたのがこの服だったな。宮廷魔導士として働き始めてからは、毎日のように着ていたっけ。
懐かしさを覚えながら、着慣れた制服に袖を通す。
「その格好……」
「どうかしました?」
お互いに着替え終わり、ディーン様のところへ戻ろうという時に、グレース様は私の方を凝視して固まってしまった。
「あの、何かおかしなところがあったでしょうか?」
どこか着こなしに問題があるのかもしれないと自分の姿を確認する。服の裏表は……大丈夫。裾がめくれていたりも……しないな。
「ごめん、違うの! すごく似合ってるね」
慌てたように両手を振って、グレース様が否定する。どこも可笑しなところがないならよかった。でも、それならどうして固まったんだろう。まぁ、あえて触れる必要もないか。
「ありがとうございます、グレース様も似合っていますよ」
彼女が宮廷魔導士の制服を着ているのを見るのは初めてだ。容姿やスタイルが整っているので何を着ても似合うが、この制服姿も様になっていた。
私がそう言うと、はにかみながら笑った。
「えへへ、ありがとう。一緒に頑張ろうね!」
両手で私の手をとる彼女は、とてもやる気に満ちていた。
「……今度こそ、私も逃げないから」
「え?」
「なんでもない! ディーンが待ってるだろうし、早く行こ?」
何か呟いていた気がするが、それを追求する間もなく、グレース様に手を引かれてディーン様の元へ戻ることとなった。
今日は初日ということで、宮廷魔導士さんたちの仕事場を見て回ったり、どんな仕事をしているのか説明してもらうだけで時間が過ぎていった。
グレース様の希望も汲んでもらえたようで、後々は魔獣討伐にも同行させてもらえるそうだ。
「ルナシアさんはともかく、グレース殿下には刺激が強過ぎるようにも思いますが、心変わりはないのですね?」
再度ディーン様から確認されるも、グレース様の意志は堅いようだった。
「宮廷魔導士の皆やルナみたいに戦えるわけじゃないけど、実際に見ておきたいの。王族として、国を守る人間として、私たちが戦っているのはどんなものなのかってことを」
「素晴らしいお考えです。分かりました、そこまでの決意があるのなら、私はもう何も言いません」
やっぱり、グレース様も王族の血を引いているんだなぁ。揺るぎない眼差しに、王の片鱗を見た。
なんだか、以前のグレース様よりも凛々しくなっている気がするのは気のせいだろうか。
「さて、ひと通り案内も説明も終わりましたし、初日から色々と詰め込んで疲れても仕方がないでしょう。お茶にしませんか? お二人の歓迎も兼ねて、私がすぐに準備しますよ」
「わっ、本当に? やったね、ルナ!」
喜ぶグレース様の隣で、私は何とも微妙な顔をしていたことだろう。
ディーン様はかつての私の上司であり、今回も幼い頃から何かとご縁がある。
だから、知っているのだ。料理や衣装などを選ぶセンスが壊滅的だということを。
思い出せ。私が社交界デビューをした時のことを。
衣装部屋には、ディーン様から贈られたプレゼントもあった。おそらく、私がそれを着て行くことを想定してのものだったのだろう。
だが、センスが壊滅的ということで、有無を言わさずリーファが封印していたのだった。
私だって人のことを言える立場ではないけど、おそらくディーン様は私以上なのだ。
私が宮廷魔導士だった時も。
今日みたいにお茶に誘われた日のことだ。そこに並べられたお菓子のラインナップを見て……正直、その時の記憶はあまりない。思い出そうとすると頭が痛くなるという奇妙な症状に悩まされている。
それ以来、何かと理由をつけてディーン様が直々に準備してくださるお茶会は回避するよう気をつけてきた。
だが、今日は断れない。この状況で断る理由が見つからないよ……。
ああ、ギャロッド様! 今こそあなたに会いたいです!
職業体験初日。
どういうわけか、私もグレース様もどうやってその日自分の部屋に戻ったのか、よく思い出せないのだった。




