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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第2章 学園編(一年生)
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13 エルメラド王立学園3

 入学式当日。

 寮は学園と隣接しているので遅刻する心配はそうそうない。

 だから、焦って早く出発する必要もないのだが、式の会場の入場開始三時間前からアミリア様のノック音が部屋に響いていた。


「ごきげんよう! まだ寝てらっしゃるのかしら?」


 けたたましく扉を叩く音と、それを諌める従者の声がする。


「おはようございます、アミリア様。申し訳ありません、まだ準備が終わっていないもので……」


 リーファに手伝って貰いながら着替えなどをしていたところだったため、失礼に当たると思いながらもドア越しに返事をする。


「そう、なら数分差し上げますわ。早く支度して、学園へ参りますわよ」

「えっ、でもまだ会場は開かないんじゃ……。もう少し時間がかかりそうなので、先に行っていただいた方がいいかもしれません。お待たせしても申し訳ないので」

「……お黙りなさい! 私が時間を把握していないとでも? き、緊張していてもたってもいられなかったとか、そういうことじゃありませんのよ!? あなたと一緒に登校したくて待っていたとかでも、絶対絶対ありませんから!!」


 早口でまくし立てられ、何も言い返せなくなってしまった。


「お嬢様、昨日から楽しみにしていたみたいで。ご友人と登校できるからって」

「お黙りなさい!!」


 従者の言葉をアミリア様が一喝する。

 プリンシア公爵家のパーティー以来、ガザーク家のお茶会でばったり顔を合わせたりして交流はあったが、随分と距離が縮まったものだ。以前のように衝突するよりは断然よいのだけれど。


「分かりました、すぐ準備するのでお部屋の方でお待ちいただけますか? 私の方から再度お伺いいたします」


 それでようやく納得したのか、一言二言零してから足音が遠ざかっていった。


「お嬢様、いつの間に仲良く? なったのですか?」


 私もそこはよく分からないんだよね。以前のアミリア様を知っているから先入観があるせいかもしれないけど、他の令嬢に対してここまで親しげに接してくる方だっただろうか。不思議そうな顔をするリーファに明確な返答もできなかった。険悪な雰囲気になるよりはいいのだから、深く気にしても仕方がないだろう。

 あまり待たせてもいけないので、手早く準備をしてアミリア様の元へ向かった。



 かなり余裕をもって学園へ向かった私とアミリア様は、時間よりだいぶ早いが入学式が行われる会場に入れてもらっていた。公爵家のご令嬢を外に立たせておくわけにはいかないと、学園の人たちが慌てて開錠してくれたのだった。


「あなた、新入生代表挨拶があるでしょう。今のうちに確認しておいたらいかが?」

「あれ、私言いました?」

「だ、代表挨拶は試験の結果が一番良かった生徒が行うものでしょう。私が把握していないとでも?」

「な、なるほど失礼いたしました。もしかして、私が先に会場の様子を確認できるように、わざわざこの時間に?」

「そ、その通りですわ! 感謝なさい!」


 まさか、私のことを気にかけてくれていたとは。


「お嬢様、あまり見栄を張らない方がよろしいですよ。今、思いついただけでしょう」

「お黙りなさい!」


 と、思ったが従者の方が否定しているね。

 でも、アミリア様の言う通り、先に会場を確認できた方が安心できる。以前の私も同じことを体験しているが、流石に年数が経って忘れているところもあるからね。


 シミュレーションをしながら時間が来るのを待っていると、ぽつりぽつりと生徒たちが集まってきた。アル様やエルの姿も確認できたが、二人とも科が違うので席が遠い。話すのは式が終わってからになりそうだ。

 入学式開始の時間には、会場いっぱいに人が収まっていた。新入生が揃ったあと、在校生も入場してくる。人数が多いので、こちらは式に関係のある生徒に限られるが。


 新入生代表挨拶のため、他の新入生たちとは待機場所が異なっていた私は、生徒会長挨拶を任されていたグランディール様と顔を合わせることになった。時間が巻き戻る以前もそうだったから、あまり驚きはしない。


「入学おめでとう。これからもよろしく頼む」


 すっかり成長したグランディール様は、王族の威厳というか、オーラが凄かった。幼いころからその片鱗はあったけど、やはり王の器というか。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

「困ったことがあれば、遠慮なく言ってほしい。出来得る限り力になろう。リトランデの方が話しやすいのなら、彼を通してでも構わない」

「それは心強いですね。ありがとうございます」

「君が抱えているものは、誰よりも重いと思う。どうか一人で抱えて悩むことのないように。ここになら、君が頼れる人たちがたくさんいるはずだ。だから‥‥‥」


 うーん、国を背負っていかなくてはならないグランディール様の方が重責だと思うんだけどね。自分よりも人のことを心配してくれるのは相変わらずだ。

 でも、そのせいで彼が苦しそうな顔をするのは、見ていていいものではない。


「ご心配ありがとうございます。やっぱりお優しいですね。そんな顔をなさらないでください。グランディール様も、何かあれば遠慮なく申し付けてくださいね。魔獣関係とか、そういう方面でなら少しは役に立てるかと思うので」

「君も変わらないな‥‥‥」

「グランディール様?」

「ありがとう。気持ちだけ受け取っておくよ。難しいことを考える必要はないから、学園生活を楽しんで」


 難しい顔をしているのはグランディール様の方だ。

 笑っているのに、どうして泣きそうなんだろう。前よりも彼は笑うようになった。でも、その笑顔に苦しさが混ざるようになったのは、なぜ。

 私は、今度こそこの国を守らなくてはと頑張ってきたし、これからもそうするつもりだ。グランディール様が王として治める国を魔王に破壊させないために。でも、グランディール様は私が知らない問題をもっと抱えているのかもしれない。私なんかでは解決できないようなことを。

 生徒会長挨拶に呼ばれて行ったグランディール様の背中を見送りながら、胸の奥がぎゅっと締め付けられる思いだった。

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