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神に愛された宮廷魔導士  作者: 桜花シキ
第1章 幼少期編
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12 社交界デビュー(リトランデ視点)

 またトラブルを起こしそうになったのを見てヒヤヒヤした。今回は、よりにもよってルナシアに絡んでいこうとしていたのだから尚更だ。


 しかし、どういう風の吹き回しか、自分がドレスを着替えると言ったり、ルナシアにグランとのダンスを勧めたり。

 以前のアミリアならあり得なかったし、今日の今日まで、彼女は以前の彼女と変わらない振る舞いをしていた。


「アミリアも記憶持ちなのかもしれないな」


 至った結論はそれだった。

 俺自身、ルナシアの顔を見て記憶が戻った。アミリアもそうなのかもしれない。

 そうでなければ、いきなり人が変わったようになるものか。

 この件に関しては、折を見て確認しなければならない。だが、アミリアも記憶持ちだとすれば、以前のように嫌がらせをすることもなくなるだろう。

 それに、我儘な振る舞いには呆れていたが、幼馴染であるアミリアの立場が悪くなるのは、俺にとっても気分のいいものではなかった。

 グランが好きだという彼女の想いに、嘘がないことは分かっていたから。やり方こそ間違ってしまったが、その想いまで否定するつもりはない。


 でも、その想いが報われることはあるのだろうか。

 学園に入ってから、俺は以前のようにグランと友人になった。話していくうちに、グランも記憶持ちだということが分かっている。

 エルも記憶持ちだということを知り、もしかすると他にもいるんじゃないかと聞いてみたところ当たりだった。

 そして、変わらずグランはルナシアに想いを寄せていた。


 多くの令嬢たちと踊るグランに代わり、俺はアミリアのダンスの相手になった。幼馴染なので、練習に付き合ったこともたくさんある。

 慣れた様子で踊りながら、アミリアの顔には隠しきれない不満げな表情が浮かんでいた。


「こうなることは分かってて言ったんだろう?」

「あの子に譲っただけであって、他の方々まで私より先に踊るのは想定外でしたわ」


 むすっ、とむくれながらアミリアが答えた。


「グランならそうするさ。そういうやつだよ」

「分かっておりますわ」


 以前の彼女なら泣き喚いて抗議するところだが、そんな顔をしながらも我慢できるようになったんだな。やはり、覚えているんだろう。

 グランも記憶持ちだと知っている俺からすれば、心苦しい。グランが何も知らなければ、アミリアとの距離ももう少し縮まったのかもな。

 婚約者候補筆頭のアミリアのことを無碍にすることはないが、以前ルナシアに嫌がらせをしていたことは覚えているので、かなり警戒はされている。


 グランとルナシアに幸せになってもらいたい。これが俺の第一の心情だ。

 だが、それでアミリアが悲しむのは違う気もする。


「今日のお前はいつもより大人だな」

「当たり前ですわ。大人ですもの」


 ふん、とそっぽを向きながら吐き捨てる。

 記憶があるなら確かに中身は大人だが、アミリアは最後まで子どもっぽさが抜けなかったからなぁ。

 思わず笑い声が漏れてしまい、ギロッと睨まれた。

 我儘な部分さえエスカレートしなければ、ちょっと気の強い可愛い妹分だ。



 ダンスが終わり、人がいなくなった頃を見計らい、俺はグランに声をかけた。

 少し疲れの色は見えるものの、快く雑談に応じてくれた。


「アミリア、今日はどうしたんだろうか。先ほど、ダンスをしていた時に、しきりにルナシアのことを話題に出してきてな。きつく当たるのとも違くて、私の婚約者候補にどうかと勧めるような口ぶりだった」

「わざわざライバルを増やすようなことを? なぁ、ドレスの件といい、アミリアも記憶あるんじゃないか?」

「リトもそう思うか?」


 グランも想像はしていたようで、神妙な面持ちだった。


「で? アミリアの許可も出たし、今度こそ彼女に想いを伝えるのか?」


 以前は、想いを伝えるより早く、世界が崩壊してしまった。年齢が年齢だったこともあり、アミリアが婚約者候補から婚約者に格上げされた状態であった。

 今回も、何もしなければその通りになるだろう。変わらずグランのことが好きな彼女が辞退するとも思えない。


「迷っている」


 ルナシアが好きだという気持ちはそのままであるはずなのに、グランの返事は煮え切らないものだった。


「おいおい、ゆっくりしてると先を越されるぞ。ここだけの話、俺の弟も狙ってる」


 アルランデも、事あるごとにルナシアの話題を出すようになった。次男の俺に婚約者が決まっていないこともあって先送りにはなっているが、父も乗り気である。

 弟のことも応援したいが、グランが何もせずに終わってしまうのも避けたい。

 ルナシアとの接点はあるはずなのに、これまで目立ったアクションを起こしていないのが気になっていた。


「縛ってしまいたくないんだ、彼女のことを」


 ぽつり、とグランが話し出す。


「ただでさえ、ホロウの称号を得て、彼女の人生は彼女だけのものではなくなった。その名がある以上、責任はずっと付いて回る。そこに、私の婚約者などという枷がつけば、彼女から自由を奪ってしまうだろう」


 グランの婚約者ということは、時期王妃。国を背負うグランを支える者だ。

 その力がルナシアにはあると思う。だが、それが彼女にとって幸せなものかは分からない。

 苦労することの方が多い、そんな気さえする。


「私は、確かに彼女のことが好きだ。王族でさえなければ、迷うこともなかったのかもしれない。自分の発言にどれだけの影響力があるかも分かっている。私の気持ちだけで、彼女の運命を決めてしまいたくはないんだ。今度こそ、幸せになって欲しい。幸せに生きていてさえくれれば、それで」

「お前の気持ちは分かる。でも、今のままじゃ婚約者も決められないんだろう? 彼女だって伯爵家の人間だし、このままだと後を継ぐのは彼女だ。そうなれば、本当に手は出せなくなる。それに、その気もないのに婚約者候補に挙げられている令嬢たちのことも考えてみろ。早めに結論を出してやるのが彼女たちのためじゃないのか?」


 グランのルナシアへの想いは分かる。俺だって今度こそ幸せな人生を送って欲しいと願っている。

 でも、それはルナシアだけに限ったことじゃない。

 グランも、アミリアも。幸せになって欲しいのは、ルナシアだけじゃない。


「俺はお前の親友だ。今度こそ幸せにならないといけないのは、お前も同じなんだよ。相談ならいつでものってやる。だから、自分が後悔しない道を選べ」

「リト……ああ、ありがとう。お前が親友でよかった」


 そう言って、グランはふっと表情を崩した。

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