12 社交界デビュー(アミリア視点)
欲しいものは何でも手に入ったし、みんな私の言うことを聞いた。それだけの力が、私にはあった。正確には、プリンシア公爵家の令嬢という肩書きが、皆にそうさせていた。
学園に入ると、グランディール様がルナシアという平民と親しくしているのが目につくようになった。
冷静になってみれば分かるのだが、別に特別親しくしているというわけではなく、たまに行動を共にしているくらいのもので。だが、その時の私は、彼女とずっと一緒にいるかのような錯覚を覚えていた。その場面ばかりが、強烈に記憶に残っていたためだろう。
誠実なグランディール様が、婚約者でない女性と特別親しくするなんてことはない。でも、ルナシアと一緒にいる時の彼の目が、見たこともないような優しさを湛えていたから。
彼女に好意を抱いていると、気づいてしまったのだ。
そこからは、彼女に嫌がらせをしてグランディール様に近づけまいとしたり、他の令嬢たちにも牽制したり。
だが、そもそもルナシアは自分からグランディール様に話しかけたりもしていないし、学園で一緒だったのも一年ほどだ。
それでも、私は自分の行動を改めることなく過ごした。
案の定、私の周りからは人がいなくなっていった。
私が命じれば断れないのを分かってか、顔を合わせないようによそよそしくなった。
そこで気づいた。皆、私ではなく、肩書きを見ていただけだったのだと。
ひとり、またひとりと。もはや、誰も私の声など聞いてくれなかった。
そんな中、私が散々嫌がらせをしたルナシアだけは、最後まで逃げなかった。
皆が離れていく中で、彼女だけは私を無視することはなかった。なんて女だ、と衝撃を受けたのは覚えている。
銀狼の騎士をはじめとして、彼女の取り巻きたちは目を光らせていた。彼女がのほほんとしていられたのも、彼女の取り巻きたちのおかげでしょうね。
彼女は、そもそも私なんか敵でもなかったのかもしれない。
こんなに私はグランディール様のことが好きなのに、どうして彼は振り向いてくれないのか。アピールも何もしていない彼女のことばかり、どうして目で追うのか。
その理由が少しだけ分かった気がする。ただの平民、それなのに勝てる気がしない。
肩書きだけが武器だった私と違って、彼女はそんなものなくても戦える。
魔術の才も、人望も。力量の差に愕然とする。
ずっとずっと悩んで。
婚約者候補にもなっていないルナシアが、グランディール様と結ばれるのはどれほど難しいことかも分かっていて。
私が身を引いて、彼女を後押しすれば何とかなるかもなんて考えが過ったこともあった。でも、自分からグランディール様を諦めることなんてできなくて。
彼女は、グランディール様を巡るライバル。私がそう言いたかっただけかもしれないが。
彼の心は私には向けられていないのに、彼に愛されている彼女はそれに気づかない。それが腹立たしかった。羨ましかった。
悔しいことに、彼はそういうところに惹かれたのでしょうけど。
自分への好意に疎く、他人を優先する心。
最終的に、彼女はそれで命を落とした。まぁ、彼女が何もしなかったとしても、魔王に世界は滅ぼされる運命だったのでしょうけど。寿命を縮めたのは確かだ。
彼女は、周りを見ているようで見ていないのですわ。
自分がいなくなって、どれだけの人たちが悲しむか。その影響を考えたこともないのでしょうね。
そこにまた腹も立ちますが、世界崩壊寸前にあなたのことが頭を過るくらいには私にも影響を与えていました。
魔王が現れなければ、もう少し時間があれば、私たちは友達になれたのかもしれませんわね。
もし、あなたが貴族であれば、グランディール様の婚約者候補として正々堂々と戦って、私がこんなにモヤモヤすることもなかったのかも。
ーーなんて、どうしようもないことを考えながら、私は一生を終えた。
でも、私たちは再び出会った。
我が家が主催する同い年の子どもが多く集まるパーティーに、ルナシアも参加していた。
同じ色のドレスを着ている令嬢がまだいると思って近づいた時、彼女の顔を見てすべて思い出した。
以前の記憶にこんな場面はなかったが、脳裏に浮かんだ魔王によって世界が滅ぼされる光景は、単なる想像ではないと確信を持っていた。
今の彼女は伯爵家の養子に迎えられていた。
まさか、私が正々堂々と戦いたいと願ったから、それで?
本当に時間が巻き戻ったのなら、あの悲劇により世界は終わる。でも、私にはそれをどうにかできる力はない。
ただ、以前できなかったことをしてみたい。そんな気持ちが湧き上がってきた。
思い立ったらすぐ行動するのが私ですわ。
ドレスの件のお詫びとして、彼女にグランディール様の最初のお相手を譲った。
ま、まぁ、私は別にグランディール様と踊るのが初めてではありませんし? 時間が巻き戻る以前もたくさん踊りましたし?
今回は特別。自分からは絶対動かないであろう彼女へ、私からの配慮ですわ。感謝なさい!
今のうちから、グランディール様の目に留まっておきなさい。
同じ舞台に立たずに競ったって、良い気はしませんもの。
今の彼女は伯爵家の人間のようですし、グランディール様の婚約者候補として名を連ねてもおかしくはありませんわ。さりげなく、グランディール様にお話ししておきましょう。
私が彼女に勝てることといったら公爵家の人間という肩書きだけでしたのに。ああ、グランディール様をお慕いする気持ちは負けていないと思いますが。
その肩書きすら、大して意味をなさなくなった今。流石に私も先が読めないわけではありません。
それでも、まだ諦められないのです。グランディール様の口からはっきりと告げられるまで、私は婚約者候補であり続けましょう。
私が婚約者候補であり続ける限り、他のご令嬢に先を越される心配はないでしょうし。肩書きは、こういう時に使わなくていつ使うというのです。
記憶が戻った今、私にもチャンスはあるかもしれません。手を抜くつもりはありませんわよ。
今度こそ、正々堂々と勝負致しましょう。




