形見
「少し、いいか。」
そう言ったナットはまだ体中に包帯を巻いて松葉杖をついていた。立ってるのもやっとなのだろう。
「寝てなくて良いんですか?
リンにどやされますよ。」
「お前にどうしても渡しときたい物があってな。
こっそり抜け出してきた。」
「渡したい物?」
俺がそう尋ねるとナットは懐から見覚えのある物を取り出した。
周りの金属は熱によって溶けて形が少し歪になってしまっていたがその中心には虹色に輝く石が花の形を崩すことなくあしらわれている。
それは俺がイーナに贈ったあのヘアピンだった。
「アンに聞いた。
これはお前がイーナに贈ったものなのだろう?
ならばお前が持っておくべきだと思ったのでな。」
「なんで、これをナットさんが?」
「騎士団から渡された隊員達の遺品の中にあったんだ。
他の物は家族に届けるのだが…
これだけはな…お前が持ってるべきだ。
彼女の形見だ。
受け取ってやってくれ。」
俺はナットからヘアピンを受け取る。
その瞬間少し歪な形になっていたそのヘアピンがさらに歪んでいく。
それが自分が泣きそうになっているからだと気がついた時にはもう涙を止めることは出来なかった。
「もう本部に戻ろう。
まだ再びアモンが襲ってくる可能性がある。
それに大人達で村の今後の方針を話し合わないとだしな…」
ナットがそう言って踵を返し、先に本部に向かう。
俺は涙を止めるのに苦労し数分遅れて彼の後を追う事となった。
ブレイブスの本部に戻ると既に何人かの村の大人達が集まっていた。
村長のカーマが話を切り出す。
「これからの村の方針を話し合いたいと思います。
先ず私の意見なのですが、もうこの村に残って生活するのは諦める他無いと思います。」
その発言を聞き何人かが声を上げる。
「それはこの村を捨てるという事ですか!?」
「生まれ育ったこの村をそう簡単に捨てられるか!!」
「そう思われた理由を教えてほしい。」
ざわめきだったその時、話し合いに同席していた王国魔法騎士団第伍番隊の隊長がその理由を話しだした。
「アモン サイパスは理由は分からないがこの村の住民を皆殺しにすると言ったのでしょう?
今は我々魔法騎士団がいるから奴は手を出せないのだろうが、我々もいつまでもこの村に居続けることは出来ない。
我々が帰った後に今度こそ奴が生き残ったあなた達を殺すために戻ってくる可能性が高いのです。」
それを聞き一同黙り込む。
確かに魔法騎士団がいない時にまたドラゴンなど召喚されたら今度こそ全滅するのは間違いない。
皆それを頭では分かっているが心が納得出来ないといった表情だ。
「私の誤った判断のせいで皆さんには心に深い傷を負わせてしまいました。
そのうえ住み慣れたこの村を出て行かなければならないとなると皆さんが納得出来ないのもしょうが無いことだと分かっています。
だけどそれでも私はあなた達に生き残って欲しいと思うのです。」
カーマは俯き、声を震わせながらそう言うのだった。




