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彼女の秘密

とりあえず生で注文して乾杯してからも気まずい沈黙が続く。

シュウジから切り出していいものかと手をこまねいていると意を決したように桔梗が口を開く。


「私、シュウジ君が好きなんだと思う。」


思わぬ切り出しにシュウジは呆気にとられる。

桔梗はハッとした様子で手を振る。


「ごめん。違う。違くはないんだけどね!今言いたいのはそんなことじゃ無くて…。でも、いう前に気持ちを伝えたくて…。」


シュウジは笑顔を作り答える。


「そっか、いきなりでびっくりしちゃって…嬉しいよ。そう言ってもらえるのは。」


笑えてるだろうかと考えながらより一層笑みに力を入れる。

シュウジの言葉を聞いた桔梗の目からは今にも涙が溢れ出しそうになっていた。


「ごめんね。言いたいことではあったんだけど違くて。」


このタイミングで来たドリンクを乾杯もせず桔梗は一口飲み喉を潤す。


「シュウジ君はさ、私が2人いる感覚がなかった?」


「どういうこと?」


桔梗は軽く下唇を噛むとポツリポツリと話し出す。


「私の前の人の名前は愛花。愛される花ね。文字通り愛されて甘やかされて育った。人任せな彼女の中で彼女自身の面倒ごとすら任せられるために私は生まれたの。」


冗談にしては重すぎる雰囲気に思わず苦笑いをして桔梗を見る。

しかし、真剣そのものな表情にすぐ笑いも引いていく。


「いつからかわからないけど、自分が情報を処理するとこだって自覚が出たの。いろんなことを知った。けど愛花の感情に触れることは許されなかった。」


目を伏せ体を震わす桔梗を慰めることはできない。

情けなくもシュウジは恐怖を感じていた。

人ではない何かと接しているような感覚。

恐怖と興味が入り混じり自分の感情すらわからないまま、ただそこにいることしかできなかった。


気まずい雰囲気に店員も寄りつかない。

最初に頼んだ食べ物も飲み物も減らない中ドリンクの氷が溶け隙間ができそこに沈んでいく。


その様を眺めると自分の今の状況を表しているようだ。


「愛花の感情に触れられなかった私は羨ましくて悔しくて…。気づくと少しずつ愛花のとこまで手を広げてた。どんどん私は私になって愛花を少しずつ侵食したの。気付かれないように少しずつ少しずつ…。」


そういうと伏せていた目をシュウジに向ける。

思わずドキリとする。

ぷっくりと膨らむ唇、大きな目、長いまつ毛、少し太いが整えられた眉。

今までの話を忘れて桔梗の魅力に惹かれる。


「その途中であなたに会った。初めて桔梗として会ったのがあなた。見てくれた。呼んでくれた。深層にいた私はあなたに名前を呼ばれたことで完全に愛花を消して桔梗になれた。」


「消して…。」


悲しそうで儚いそれでいて冷たさを含んだように見える桔梗の笑顔に息を呑む。


理解ができない。

異常だ。

しかし、揶揄われている様子でもない。

いっそ揶揄いならいいのにとすら思う。


「軽蔑した?自分勝手で元の人格を消した。殺したって言ってもいいかも。私はどうしたら良かったのかな?」


答えられないシュウジを見て申し訳なさそうに苦笑いする。


「ごめんね、こんな話。嘘…だから。忘れて…。」


そう言うとふらりと立ち上がる。


「ちょっとお手洗い。」


トイレに向かう桔梗をただ惚けて見送ることしかできない。


桔梗は何を求めているのか。

シュウジはどうするべきなのか。

ゾンビに関連するのか?

中島に相談を…。


そういえば中島は死んだのだと思い出してふと自分は何をしているのかと考える。

頭の中は支離滅裂にあらゆることを考え、垂れ流し続ける。


帰りたい。

全てを捨てて何も考えず楽に生きたい。


戻ってくる桔梗を見ながら精一杯の笑みを見せる。

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