旅の終わりへ
ゆっくり旅は進んできました…
「はー…たっか…」
スープラの給油ついでに私たちもガソリンを入れたのだが、これまた胃が痛くなるほど値段が高い…。くそう、物価高め…。
「くっそ…俺の諭吉…」
湊さんが細かいお釣りを財布に入れながらぶつくさとつぶやく。
「なかなかに高いですよねー…最近」
加奈さんも財布にお釣りを入れる。やはり皆万札か…。金持ちめ…。
とはいっても、満タンで一万円超えなかっただけありがたいか。結局、九千円後半だからバカ高いことに変わりはないが。
皆で財布の中身の寂しさを嘆いていると、シルビアの助手席の窓が開いて、結衣さんがスマホを振りながら声を上げた。
「いい感じの店!見つけましたよ!」
「あの…ほんとによかったんですか?」
結衣さんがへっぴり腰で私と加奈さんに尋ねる。
給油後、結衣さんが見つけてくれたお店でお昼を食べた際。さすがに大人として高校生と会計別と言うのはどうなのか…と言うことで加奈さんと相談して二人で割り勘して奢る。と言う結論に至ったのだった。
私は本心からの笑顔をしながら返答する。
「もちろんですよ!さすがに大人ですからね」
加奈さんに顔を向けると、加奈さんもうんうんと頷く。
「ですです!サーキットも付き合わせちゃいましたし…」
ここまで言っても、結衣さんは意外と(?)気にするようで
「いやでも…」
と言っていたが、湊さんが肩にポンと手を置いて
「こういう厚意は受け取っておくもんだぜ?しっかり感謝して終わりでいいじゃねーの」
と言ってくれたおかげでさっきまでの結衣さんに戻った。湊さんも、親からなかなかいい教育を受けているようで。私も少々感心してしまった。
湊さんって、精神年齢私より高いんじゃないかな。
かとも思ってしまうほどだった。
「湊さん、すっごいしっかりしてますよねー」
加奈さんが私に耳打ちをする。加奈さんもそう思うか!
「ですよね。もしかすると湊さん、私より精神年齢高いかもしれません」
大人たちがこそこそ話をしていると、前を歩いていた湊さんが笑顔で振り返った。
「それで、この後ってどうするんですか?」
確かに、サーキット走行も中断されはしたが全員満足しているので、もうやりたいことはやったと言っていいだろう。
「あー、どうしましょうか」
駐車場に着いたので、NDにもたれかかりながら考える。
お昼をゆっくり食べていたのも相まって、現在時刻は午後一時。土曜の一時はまだまだ余裕がある時間だ。
「そういえば湊、あの課題やった?」
シルビアの横に座り込んでスマホを弄っていた結衣さんがふと思い出したかのように湊さんに訊いた。
「へ?課題?」
それを聞いた湊さんはまるで油の足りていないロボットのようにカクカクとした動きで結衣さんの方を向いた。
「現代文のやつ。プリント出されてたでしょ?」
「げんだい…ぶん…?ぷりんと…?かだい…?」
湊さんは数秒同じことを繰り返しながら考え込んで
「ああああああ!出てたわそんなやつ!忘れてた!」
と、手にしていたスマホを落としそうな勢いで焦りだした。
結衣さんはすくっと立ち上がり、湊さんに近づき
「湊ぉ…提出、月曜だよ?」
ここぞとばかりにいじりまくった。
「そういえば高校生でしたね…というか、免許取ったってことは、受験生では?」
あたふたしている湊さんとそれを見ていじっている結衣さんに訊いてみる。
「はい、そうですよ。これでも受験生です。同じ大学目指してるんですけどねぇ…こいつがこんなんじゃ…」
結衣さんが未だあたふたし続けている湊さんを肘で小突く。
「ま!この私が何とかしてあげよう!お礼はしっかりしてもらうからね!」
胸をはってどやぁとしながら結衣さんが高らかに宣言する。湊さんも
「マジ?クッソ助かる…」
と、膝から崩れ落ちながら手を合わせた。
神でもあがめるような姿勢をしている湊さんを横目に、結衣さんがこちらを向いて頭を下げた。
「と言うことなので、私たちはこの辺で失礼します。今日はほんと有難うございました」
私も笑顔のまま返答する。
「いえ、私も楽しかったです!ほんと濃い週末ですよ、ほんとに…」
事実、今週末は海に行くところから始まり、結衣さんと湊さんに会い、加奈さんのスープラを助け、三人一緒にサーキットに走りに行って…。これでまだ土曜と言うのだから、とても密な週末だった。
「わ、私も楽しかったです!いつも一人で走ってたので、ちょっと新鮮でした」
加奈さんもおおむね同意見のようだ。心なしか、スープラもうれしそうに見える。
「帰り道的に、高速で解散って感じになりますかね」
考えてみると、加奈さんは知多住み、結衣さんと湊さんは田原市近辺。私に言ったっては静岡の浜松だ。バラバラにもほどがあるだろう。
「麻衣さんって浜松でしたよね。加奈さんは…?」
結衣さんが私の住んでいるところを覚えていたことに少し驚いた。
「私は知多ですよー」
「と言うことは、私達三人は愛知県住みなんですね!と言っても、私と湊は田原なので、ほぼ真反対みたいなところですけど…」
愛知県民三人に囲まれてしまったが、まぁ特段気にすることもないだろう。血祭りにあげられるわけじゃあるまいし…。味噌漬けにはされそうだが。
「じゃあ、湊さんもこんな様子ですし、今回はこの辺で。ってことでいいですか?」
うなだれるような結衣さんに感謝するような。なんとも形容しがたい感情を表している湊さんをチラ見する。
「ですね。高速までは一緒ですけどね!ほら湊、帰るよ」
結衣さんが湊さんの首根っこをつかんで立たせる。湊さんはしゃっきりとしない様子のままだが、私たちに向き直り
「今日はほんと、有難うございました。また誘ってください。俺からも誘います!」
と言った。しかし、
「私らは受験生でしょうがバカ」
と、結衣さんに背中をばーんと叩かれながら怒られた。
「んなにするんじゃい!」
湊さんも反抗するが、結衣さんの方が正しい手前、それ以上何も言えないようだ。
やはり、この二人はいつ見ても面白いし、微笑ましい。
今のやり取りをみてそう思い、そのまま笑ってしまった。本日二度目だ。
そのまま私の笑いは皆に伝染し、今回は結衣さんと湊さんもちゃんと笑っていた。
今回ちょっと長くなりましたが、これでep9です!ここまで読んでくださっている方はいるのでしょうか。どうもyuukiです。
と言うことで!この週末の旅もほぼおしまいです!
でも、おうちに帰るまでが旅。無事に帰ってやっと旅のおしまいです!
ちまちま進めてきたどらたびも、この旅の終わりまではとにかく続けます!
そこからは適当に時間を見つけ次第…ですかねー…