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運命代行魔法少女は終の雨を創生する。  作者: 翡翠しおん
運命代行魔法少女は、清廉潔白ではいられない。
12/25

闇色イノセント

 光と風が私を包み、力を届ける。

 血反吐を吐きながらも、夢と希望を届ける使命を担った魔法少女。


 それが私なんだ。

 だから。


 キッと強く漆黒の妖精を睨み付け、私は力強く宣言した。


「運命代行魔法少女を舐めんじゃないわよ!」


 殺傷力抜群のミスリル製ブックマーカーを、黒い妖精に向けて投擲する。

 妖精はひらりと身をかわし、その背後にあった窓ガラスが、盛大な音を立てて叩き割れた。


「暴力反対なんやけどなぁ」


 くすくすと笑みを零す漆黒の妖精。声のトーンからして、女の子なんだけど。

 黒い光に紛れてあまり姿が良く見えない。

 だけど、多分この子は、強い。気迫負けするわけにはいかない。


「ま、ええよ。外で決着といこか、魔法少女」


◇◇◇


 月の魔力は人を惑わすという。

 夜という漆黒の世界で、日々変化つつも真っ白な顔を見せるからかもしれない。

 周期的に世界を見下ろす監視者みたいなものだろうか。


 きっと、人それぞれの感じ方はあるんだろうけど。

 そんな月光のもと私は黒い妖精と対峙していた。


「あんたたちが、何らかの方法でもって、物語をスキップさせてたのね。部外者以外、考えられないもの」


「それがどないしたん?」


 それはすなわち肯定、だよね。

 どうやったのかはすごく気になる。だけど、それよりも確認しなきゃいけないことがあった。


「……ひとつ教えて」


 闇の中でも独特の黒を纏う妖精。

 沈黙は私を促してるんだろう。だから私は続けた。


「あの少年と貴方の目的は何?」


「……目的?」


「そうよ。人魚姫に王子を殺させようとして、今は私を……ヘンゼルを殺そうとした目的よ」


「そんなん、あんたが知る必要ないわ。大人しく消されとき、ヘンゼル!」


 ぶわっと風が渦を巻き、私の衣装をはためかせる。

 迫る風に触れたら切り裂かれるんだろう。鎌鼬っぽいもんね。

 でも、私だって伊達に魔法少女はやってないのよ!


「あんたたちは、大人しくこの物語から去りなさいよ!」


 自前の身体能力でもって、鎌鼬を躱す。

 身を捻って躱しつつ、私の唯一の武器であるブックマーカー『アンタレス』をスナップを利かせて妖精へ向けて放った。

 綺麗な装飾だけど、切れ味だけは抜群だ。

 掠っただけでも結構ざっくりいく。


「あんたも学ばんなぁ」


 緑色の光が私と妖精を隔て、アンタレスを易々弾く。


「学ばないのはあんたよ!」


 地面を踏切って私は跳躍すると、妖精へ躍り掛かった。

 風が頬を掠め、自慢のピンクの衣装が夜の闇に閃く。

 そして勢いを殺さず最速で妖精へ接近し、黒い光を掴む。


「ぐっ?!」


「ふふん、魔法とアンタレスだけしか能がないわけじゃないのよ!」


「ぐ……るしっ……」


「ああ、ごめん」


 苦しげなうめき声を上げる掌に収まるほどの存在を、改めて確認する。

 ちょっとは力を緩めてあげたけど、逃げられたら元も子もないから油断はしない。


 黒い衣服に黒のツインテール。一対の羽根も黒だけど、何となく気品漂う感じだ。

 白い肌に深い緑色のツリ目が私を睨み付けていた。


「……消すなら消し」


「は? 馬鹿言わないでよ。どっかにいるんでしょ、あんたの相方。呼び出しなさいよ」


 沈黙のまま私を睨む妖精。中々強情な妖精さんだ。

 さて、どうしたもんかな。


 月を見上げて思案していると、不意に木々が鳴った。

 導かれるように視線を落とせば、あの淡い色合いの少年。

 困ったような、この場には不釣り合いな表情を浮かべて。


「……シャドウを離してくれないかな、魔法少女」


「この子、シャドウっていうのね。別にそれは構わないけど、ひとつ教えて」


「何かな?」


 小首を傾げた少年。こっちは話が通じやすいわね。助かるわ。

 が、反対に私の右手に握られた妖精は、じたばたと足をばたつかせ、必死に身を捻る。


「あかん! こんなしょーもない奴に、答える義理なんてなんもない!」


「……しょーもないってあんたね」


「私の事は構わんでええんよ!」


 必死に訴えるシャドウという妖精。表情をどんどん曇らせる少年。

 これって、どう見ても私が悪者よね。ヒロインを掴まえた悪よね……。


「……もう!」


 私は仮にも正義を身にまとう魔法少女なんだからね!

 悪になんてなるわけにはいかない。


「ほらっ」


 ぽいっと、放るようにシャドウを手から解放する。

 シャドウは一瞬落下しかけたけど、すぐに舞い上がって少年の元へと戻った。

 ほっとした様子で傍に寄ったシャドウに微笑む少年。

 完全に私が悪者だ。最悪。


 だけど、少年がほっとした表情を浮かべているのには安堵した。

 少年はにっこりと輝く笑顔を私に向けて、口を開く。


「ありがとう、魔法少女」


 ……なんていうか、心に突き刺さるじゃない。そう素直に感謝されたら。

 それとなく視線を外してしまうほどには。


「お礼なんていいわ。代わりにひとつ教えて」


「何かな?」


 屈託ない笑みを浮かべた少年に、シャドウが多分膨れてることだろう。小さくて黒い光に身を隠して見えないけど。


「名前、教えて」


 私の問いに、目を丸くした少年。

 ……何だろうな。

 この少年と話すと、どうも私の調子は狂ってしまう。自分でも苦笑してしまうくらいに。


「どうせまた、会う気がするのよね」


「そうかもしれないね。君と僕とは、本来出会ってはいけない存在なんだけど。でも、結局は出会わざるを得ない運命なんだ」


 この少年は、私の存在と自分の存在の意味について、何か分かってる、ってことか。

 聞きたいところだけど……今回が最後ならば、別にどうでもいい。

 もしそうでないとしても、私は「ひとつだけ」しか質問できないしね。


「それは、今度会ったら、聞くわ。だから今は、名前を教えてよ」


「面白い事を言うね。そうならないことが、お互いの最善なのに」


「そうかもね」


 微妙な間柄には、きっと間違いない。

 でも、何故だろう。この少年は、本質的な敵じゃない気がするんだ。

 だから。


「……私は、ウィンディ・ウィスプよ」


「僕は四方平坂」


「よも……ひらさか?」


「そう。……もう会うことがないことを祈って居るよ。……さようなら、ウィンディ」


 ふわりと微笑んで、少年はくるりと踵を返す。

 見る間に闇へと溶けるように姿を消した少年。


 ざぁっと森が、また鳴った。


「そう願いたいけど……きっと私たちは、また会うわよ。四方平坂」


 でもその時は、あんたたちの目的をちゃんと聞かせてもらうからね。

 敵じゃないなら、もしもあんたたちが何か救いを求めているのなら。


 魔法少女たる私が、夢と希望を叶えてあげなきゃいけないでしょ。

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