闇色イノセント
光と風が私を包み、力を届ける。
血反吐を吐きながらも、夢と希望を届ける使命を担った魔法少女。
それが私なんだ。
だから。
キッと強く漆黒の妖精を睨み付け、私は力強く宣言した。
「運命代行魔法少女を舐めんじゃないわよ!」
殺傷力抜群のミスリル製ブックマーカーを、黒い妖精に向けて投擲する。
妖精はひらりと身をかわし、その背後にあった窓ガラスが、盛大な音を立てて叩き割れた。
「暴力反対なんやけどなぁ」
くすくすと笑みを零す漆黒の妖精。声のトーンからして、女の子なんだけど。
黒い光に紛れてあまり姿が良く見えない。
だけど、多分この子は、強い。気迫負けするわけにはいかない。
「ま、ええよ。外で決着といこか、魔法少女」
◇◇◇
月の魔力は人を惑わすという。
夜という漆黒の世界で、日々変化つつも真っ白な顔を見せるからかもしれない。
周期的に世界を見下ろす監視者みたいなものだろうか。
きっと、人それぞれの感じ方はあるんだろうけど。
そんな月光のもと私は黒い妖精と対峙していた。
「あんたたちが、何らかの方法でもって、物語をスキップさせてたのね。部外者以外、考えられないもの」
「それがどないしたん?」
それはすなわち肯定、だよね。
どうやったのかはすごく気になる。だけど、それよりも確認しなきゃいけないことがあった。
「……ひとつ教えて」
闇の中でも独特の黒を纏う妖精。
沈黙は私を促してるんだろう。だから私は続けた。
「あの少年と貴方の目的は何?」
「……目的?」
「そうよ。人魚姫に王子を殺させようとして、今は私を……ヘンゼルを殺そうとした目的よ」
「そんなん、あんたが知る必要ないわ。大人しく消されとき、ヘンゼル!」
ぶわっと風が渦を巻き、私の衣装をはためかせる。
迫る風に触れたら切り裂かれるんだろう。鎌鼬っぽいもんね。
でも、私だって伊達に魔法少女はやってないのよ!
「あんたたちは、大人しくこの物語から去りなさいよ!」
自前の身体能力でもって、鎌鼬を躱す。
身を捻って躱しつつ、私の唯一の武器であるブックマーカー『アンタレス』をスナップを利かせて妖精へ向けて放った。
綺麗な装飾だけど、切れ味だけは抜群だ。
掠っただけでも結構ざっくりいく。
「あんたも学ばんなぁ」
緑色の光が私と妖精を隔て、アンタレスを易々弾く。
「学ばないのはあんたよ!」
地面を踏切って私は跳躍すると、妖精へ躍り掛かった。
風が頬を掠め、自慢のピンクの衣装が夜の闇に閃く。
そして勢いを殺さず最速で妖精へ接近し、黒い光を掴む。
「ぐっ?!」
「ふふん、魔法とアンタレスだけしか能がないわけじゃないのよ!」
「ぐ……るしっ……」
「ああ、ごめん」
苦しげなうめき声を上げる掌に収まるほどの存在を、改めて確認する。
ちょっとは力を緩めてあげたけど、逃げられたら元も子もないから油断はしない。
黒い衣服に黒のツインテール。一対の羽根も黒だけど、何となく気品漂う感じだ。
白い肌に深い緑色のツリ目が私を睨み付けていた。
「……消すなら消し」
「は? 馬鹿言わないでよ。どっかにいるんでしょ、あんたの相方。呼び出しなさいよ」
沈黙のまま私を睨む妖精。中々強情な妖精さんだ。
さて、どうしたもんかな。
月を見上げて思案していると、不意に木々が鳴った。
導かれるように視線を落とせば、あの淡い色合いの少年。
困ったような、この場には不釣り合いな表情を浮かべて。
「……シャドウを離してくれないかな、魔法少女」
「この子、シャドウっていうのね。別にそれは構わないけど、ひとつ教えて」
「何かな?」
小首を傾げた少年。こっちは話が通じやすいわね。助かるわ。
が、反対に私の右手に握られた妖精は、じたばたと足をばたつかせ、必死に身を捻る。
「あかん! こんなしょーもない奴に、答える義理なんてなんもない!」
「……しょーもないってあんたね」
「私の事は構わんでええんよ!」
必死に訴えるシャドウという妖精。表情をどんどん曇らせる少年。
これって、どう見ても私が悪者よね。ヒロインを掴まえた悪よね……。
「……もう!」
私は仮にも正義を身にまとう魔法少女なんだからね!
悪になんてなるわけにはいかない。
「ほらっ」
ぽいっと、放るようにシャドウを手から解放する。
シャドウは一瞬落下しかけたけど、すぐに舞い上がって少年の元へと戻った。
ほっとした様子で傍に寄ったシャドウに微笑む少年。
完全に私が悪者だ。最悪。
だけど、少年がほっとした表情を浮かべているのには安堵した。
少年はにっこりと輝く笑顔を私に向けて、口を開く。
「ありがとう、魔法少女」
……なんていうか、心に突き刺さるじゃない。そう素直に感謝されたら。
それとなく視線を外してしまうほどには。
「お礼なんていいわ。代わりにひとつ教えて」
「何かな?」
屈託ない笑みを浮かべた少年に、シャドウが多分膨れてることだろう。小さくて黒い光に身を隠して見えないけど。
「名前、教えて」
私の問いに、目を丸くした少年。
……何だろうな。
この少年と話すと、どうも私の調子は狂ってしまう。自分でも苦笑してしまうくらいに。
「どうせまた、会う気がするのよね」
「そうかもしれないね。君と僕とは、本来出会ってはいけない存在なんだけど。でも、結局は出会わざるを得ない運命なんだ」
この少年は、私の存在と自分の存在の意味について、何か分かってる、ってことか。
聞きたいところだけど……今回が最後ならば、別にどうでもいい。
もしそうでないとしても、私は「ひとつだけ」しか質問できないしね。
「それは、今度会ったら、聞くわ。だから今は、名前を教えてよ」
「面白い事を言うね。そうならないことが、お互いの最善なのに」
「そうかもね」
微妙な間柄には、きっと間違いない。
でも、何故だろう。この少年は、本質的な敵じゃない気がするんだ。
だから。
「……私は、ウィンディ・ウィスプよ」
「僕は四方平坂」
「よも……ひらさか?」
「そう。……もう会うことがないことを祈って居るよ。……さようなら、ウィンディ」
ふわりと微笑んで、少年はくるりと踵を返す。
見る間に闇へと溶けるように姿を消した少年。
ざぁっと森が、また鳴った。
「そう願いたいけど……きっと私たちは、また会うわよ。四方平坂」
でもその時は、あんたたちの目的をちゃんと聞かせてもらうからね。
敵じゃないなら、もしもあんたたちが何か救いを求めているのなら。
魔法少女たる私が、夢と希望を叶えてあげなきゃいけないでしょ。




