リターン・マイ・ホーム
「なるほどねー。方法はどうあれ、何かと厄介な子達ねー」
魔女宅へ戻ると、すでにイースが魔女の治療を終えて、柊はグレーテルを檻に再び放り込んでいた。
魔女の怪我は左腕を切り裂かれた以外に特になく、イースの天使らしい治癒の祝福で完治。
ほっとすると同時に、何だか申し訳なくもなる。
「ごめんね、魔女さん。私を庇ったせいでしょ?」
「気にすることはないよ。刺激的なひと時だったねぇ」
にこにこと笑顔の魔女。ひたすら繰り返す物語だもんね。タコの魔女と同じで、案外刺激を求めてるのかもしれない。
それはそれでいいのかな。
柊はずっと難しい顔で考え込んでるけど、もしかしたら自分がいない間の事だからすごく自責の念に囚われてるのかな。
「柊、気にすることないよ。私も魔女さんも無事だし」
「ああ。そう、だな」
柊は曖昧な笑みを浮かべる。
まぁ、心の問題は自分しか解決できないし。柊には自分で折り合いつけてもらうしかないよね。
それに物語はまだ終わってないんだ。
ちゃんと、フィナーレまで繋がなきゃ。
「……魔女さん、終わりにしようか」
「そうだね。……いつまでも檻の中じゃ、グレーテルも可哀想だものね」
くすっと笑って、魔女さんは立ち上がる。
そして二人で向かうのはかまどの前。
「迷うことはないよ、どーんとおいで」
「う、うん」
ちょっと怖いけどね。でも、それが私のヘンゼルとしての役目だから仕方ない。
黒い蓋のかまどの前。そこに立った瞬間から大女優の貫録が魔女から滲みだす。
うん、私も、しっかり最後まで、演じきらなきゃね。
「何をしてるんだいヘンゼル! まだ火はつかないのかい!」
「えっと……ごめんなさい、つけ方が分からないわ」
「まったくお前はどこまでもぐずだねぇ!」
そう言ってかまどの蓋に手をかけて、中を覗き込む魔女。
ごめん、魔女さん!
どんっ、と背中を押して、魔女をかまどの中へ押し込んだ。
燃え盛る炎に転がる魔女。
あとはこれを閉めれば終わりなんだ。ぎゅっと胸が締め付けられるのは、この魔女がとてもいい人で、私がそんな魔女を殺す最悪なヒロインだからなのかな。
「見てらんないなーもー」
「いつも無理はするなって言ってるだろうに」
そう言って、柊とイースが私の両側に立ち、かまどの蓋に手を添えた。
揺らぐ私の気持ちを、やっぱり汲み取ってしまう鬱陶しくも頼りがいのある二人に背中を押されて、私は最後へ向かう。
ご、んと閉まりゆくかまど。
最後の一瞬、魔女がひらひらと手を振って何かを言っていた。
――頑張るんだよ。
唇の動きは、そう言ってくれたんだ、って思ってもいいかな。
◇◇◇
「はー……散々な展開だったな、今回は」
「大変だったのは主に私だけどね」
文句を零すグレーテルと、家までの道のりを歩きながら、私は口を尖らせる。
この物語も、もうすでにエンドロール。
帰ったら継母さんはいなくなっていて、父親と三人で暮らす生活が始まるエンディングだ。
あの継母さんも、悪い人じゃないのにな。
「……継母さんさ、もっと大事にしてあげなよ」
「はぁ?」
眉間に皺を刻んで私を見やったグレーテル。
気持ちは分からなくもないけどさ。でも、物語外では、いいんじゃないかなって私は思うんだ。
「結構、優しい人だと思うよ」
「……うっせ、ばーか」
吐き捨てたグレーテルに、若干むっとしてしまう。
反論しようとした私より早く、グレーテルは。
「んなこと、知ってるよ。……お前に言われなくたって」
……そっか。
そっぽを向いても、耳が赤くなってるグレーテル。恥ずかしくて素直に甘えられないのは、男の子のプライドかな。
面白いな。思わず笑ってしまう。
「笑うな!」
「あはは、ごめんごめん」
軽く謝る私に、グレーテルは何か言いかけたけど、すぐにため息に変えた。
もうすぐ森を抜ける。そうしたら、家はもうすぐだ。
グレーテルにとっての帰宅で、私にとっても代行の終わり。
やっと家に帰れるなぁ。
「……また」
「うん?」
「また今後、今度は俺の代行しろよな!」
何でそんな怒った口調で言うのかよくわかんないけど。
まぁ、いいか。
「構わないわよ。それが私の役目なんだもの」
「……それ以外に来てもいいけどな」
ぼそっとグレーテルが呟いた。凄く恥ずかしそうに。
えーっとどういう意味なんだろう?
「ウィンー、帰るよー! ここまででオッケーだってさー!」
上空を飛んでいたイースの呼びかけ。
そっか。私の使命も終了だ!
何だか嬉しくなってきた。ほんと、私は親離れ出来てないかもしれないなぁ。
でも、それでも私は、パパとママが大好きだから仕方ないよね。
「今降りるから待っててー!」
「分かったー」
私は上空に返答すると、ぽんっとグレーテルの背中を押した。
「じゃ、グレーテルは継母さんとヘンゼルとお父さんと仲良くね! ばいばい!」
「お、おう……」
ぎこちなく手を振ったグレーテルに手を振り返して、私は舞い降りてきたイースと柊へと駆け寄った。
グレーテルと同じで、私も待ってくれてる人がいるんだ。
「早く帰ろ! イース、柊!」
そうして、私は自分の人生をまた少し歩く。
運命代行魔法少女の道のりは、まだまだ、私が生きる限り続くんだから果てしない。




