真打登場
「何ですか、こんな誰も来ない様な空き教室に引っ張り込んで一体何をなせるつもりですかね、負け犬さんたち?」
「ハッ、でかい口叩けるのも今のうちだぞ……すぐに俺等に土下座で謝らせてやるよ」
はぁ、と思わずため息をついてしまう。この状況を怖くないのかと問われれば怖いと思うけど彼らは別に異形の物とかそんなものではない、人間だ、人間ということは殴れるということでもありまして……。
こいつら急所をピンポイントで狙ってしまえば降参してくれるかな?
「ま、ここには誰も来ねえよう仕向けてあるからな、安心しろよ」
どこをどうしたら、あんたらといて安心できるというのだろうか。くだらなさ過ぎて眉間にしわが寄ってくる
そしてまた深々とため息をつく、現在の時刻は午後2時半くらいだろう。かなり時間がたってしまったので早く帰ろうと考えていれば、視界がぐるっと回転するのがわかる、これもしかして押し倒されたりしてる?うわ、びっくりするほど恥ずかしくないしむしろ虚しい
「余裕綽々ってか、いい度胸してんじゃねえか」
別に余裕綽々なつもりはないんだけどねえ……この場合私がこいつらの相手をするとなると3対1か、やればできるレベルかな、でも抑え込まれたらアウトで一気に逃げるどころの騒ぎではなくなってしまう。なんか今の説明とてもおかしな誤解を招きそうだった気がする。
私の上に1人、その両端に2人が立つという形式になっている、これなら私の上に覆いかぶさっている奴をなんとかすれば逃げれそう!
思い立ったが吉日、というわけで思いっきり足を振り上げる……遠慮なんていらないさ!為せば成る、為さねば成らぬ何事もってね!
「っ~~~~~~!?」
声にならない悲鳴を上げて覆いかぶさってる奴を蹴飛ばし入口まで走る、思いっきりドアを開け放って全力疾走!後ろから「この野郎!」とか「許さねえ!」なんて聞こえてくるけど無視に限る、野郎じゃないし
手近な教室に入り、彼らがいなくなるまで待つ
「……行ってくれたかな、よし、じゃあ早く帰って忘れよう」
「誰が行ったって?」
その声に驚き、思わず頭を扉にごちん、とぶつけてしまう。誰かいたんだ……一体誰が、そう思い振り返れば不思議そうな顔をして座っている小鳥遊先輩とこちらの顔を覗き込んでいる真谷先輩、の後ろには竜崎先輩までいる始末だ。
なぜこんなところで3人して固まっているんだ?桜城さん用に仕掛けた神崎先輩と小鶴さんの罠……?
とにもかくにも、黙っていれば失礼だと思い姿勢を正してぺこり、と頭を下げる
「お邪魔しました、失礼します」
「ちょい待ち!」
「何でしょうか…」
げんなりとした顔で竜崎先輩の制止に対し振り返る、そこには何やら難しい顔をした竜崎先輩の顔、よく見てみれば真谷先輩と小鳥遊先輩も苦虫をかみつぶしたような顔をしてこちらを見ている
「貴方、あの方々に追われているのですか?」
「はい……まぁ、そう言われればそうなんじゃないですかね」
小鳥遊先輩が重い口を開いて私に問いかける、私の返答を聞いた後2人の顔はますます渋くなり、竜崎先輩の顔は怒り顔になっていた
はて、私なんかしたかな…?
「何したんや、アイツらに」
「はい?」
「何したんやって聞いとるんや、はよ答え」
はぁ?と思いっきり顔をしかめる、アイツらに何をしたか。思い当たる節と言えば言葉の暴力と物理的な暴力ぐらいしか思い当たらないな、うん
「何って……少しばかり話をしていただけなんですけど」
「少し話!?それだけでアイツらがあんなに必死になるわけないやろが!」
今度は怒鳴られた、何だよ私はイケメンに怒鳴られて喜ぶような人ではないのだが、いやむしろイケメンに褒められる方が好きっていうか
というか、そういうフラグは桜城さんが立てるべきものじゃないかな普通この流れで行けば、でもその桜城さんは斉藤君とラブラブ放課後デートというやつをしているわけで
私は一刻も早く帰りたいのでもう竜崎先輩なんか無視してこれ以上余計なフラグを立てないように、ドアを開けて出ていく
「じゃ、さようなら」
「ちょっと待て!」
「譲ちゃん!」
「こらこら、行けませんよ貴方を血眼になっているあの方たちのもとへ飛び込むおつもりで?貴方のような人はあれらの毒牙に掛かるだけですよ」
ドアを一歩出たところで両腕を真谷先輩と竜崎先輩につかまれて引き戻され、小鳥遊先輩には軽く窘められる
毒牙って……別に私はそんなやましい物に引っかかるつもりはこれっぽっちもないんですが?
「それにお前、また何か無茶をしたんだろう!?」
「無茶って……」
「譲ちゃんなあ、何回保健室に来ればいいんや」
「おや、あれ一回きりじゃなかったんですか?」
その台詞を聞いた竜崎先輩がここぞとばかりに小鳥遊先輩に語り始める、いかに私が無茶をするかということを、真谷先輩とともに
というか、私たち知り合ってまだ1日もたってませんよね、いい迷惑というかなんというか。
「じゃあどうしろって言うんですか!?」
つい荒々しく言ってしまう、それに内心反省しつつ3人の先輩に目をやれば3人とも神妙な面持ちで何やら考え始める、というか小鳥遊先輩ってこの二人と仲良かったんですね
私がもう一度帰ろうかと思い、ドアに手をかけようとした瞬間ドアが勢いよく開かれる
「ここかぁ!」
「おい、いたぞ……んだよ真谷と竜崎、しかも小鳥遊までいてやがる」
「コイツ借りてくぞ……ま、返す気はねえがな!」
骨が折れるんじゃないかと思うくらい強く手首を握られて思わず悲鳴を上げる、今日だけでどれだけ痛い思いをすればいいのやら
そのまま部屋を出ていこうとする3人を先輩たちが引き止める
「何だよ、邪魔すんなよなー、これからお楽しみだってのに」
「ああ、コイツにはとことん報復しねえと腹の虫がおさまらねえ」
「お前らな、また停学処分を食らいたいのか?そいつから手を離せ」
「そうですよ、今度こそ退学させられるかもしれませんよ?」
バチバチと火花が散るのがわかる、私をつかんでる人の手をべしっと叩き落として竜崎先輩の方へ引き寄せられる、身長差が30センチくらいあるからぽすっ、と納まってしまうのですが、暖かい体温が制服越しに伝わってくる
桜城さん変わってくれないかな、この場所全力で譲りたいんだけどにらみ合うこと数十秒、階段の方から話し声が聞こえてくる
「蛙、お前も中学生か、早いもんだなぁ!」
「……はぁ」
この聞き覚えのある声の主たちはもしや、もしや!
私の期待通りなのか何なのかわからないが兄貴、高野先生がこちらを発見してくれる、春ちゃん付きで
「兄…高野先生!春ちゃん!」
「お前等!なに弥生に手ぇ出してんだよっ!」
……このバカ兄貴は何度失態を犯したら気が済むのだろうか、なぜこんなにも人がいる前で気安く私の名前を言うかな!
春ちゃんは春ちゃんで大きな欠伸を一つしている、呑気なところは変わりないようで、私安心したなー…じゃなくて、なんでこんなところにいるんだこの人たちは
特に春ちゃん、1年生はいろいろあるので5時くらいに下校なはずなのに
弥生、と呼んだことに対して小鳥遊先輩は驚きを隠せないようで、真谷先輩なんか石化してしまうくらいに動揺している……のかな、竜崎先輩だけはなぜか嬉しそうに頷いて、「弥生、弥生ちゃんか、可愛らしい名前やな」なんて言い出す、鳥肌ものだ
「ああもう、全員頼りにならないし……春ちゃんお願い助けてっ!」
その時眠そうな顔から一転、般若のような顔になり自分と同じくらいの背丈の先輩の手をひねり上げる、さすがは世界的に有名な武道家の息子……
先輩たちは悲鳴を上げながら撤退していく
「さすがは春ちゃん、やっぱり一番頼りになるのは春ちゃんだよ。ありがとう大好きっ!」
感極まって思わず大きな声で叫んでしまう、春ちゃんは無表情フェイスに戻って私の頭をなでてくれた、年下にこうされるのはなんか癪に障るが誰かに頭を触られるのは嫌いではないので不問とする
その光景を見ていた先輩や兄貴が何やら難しい顔をしていた。はて?
蛙春之助
・1年生の後輩、常に無表情でたまに物思いにふけっていることがあるが大体考えていることは睡眠の事か弥生のこと
・黒髪で耳の上くらいの髪、ほぼ無言、弥生の前では時々饒舌になる
・175cm…弥生と周りの同級生曰く「成長しすぎ」とのこと