虚言
「じゃあ、私は春ちゃんに送ってもらいますんで。先輩方、先生これで失礼します」
私は生徒玄関に立ち、くるりと振り返って言う。春ちゃんとは家が隣同士だし、強いし安心だねっ!
春ちゃんもぺこりと無言で頭を下げて生徒玄関から出れば、暖かい日差しが直接あたって何ともいえず、顔がほころぶ
それをちらり、と一瞥した春ちゃんがふわりと微笑む
「……気持ちよさそうだね、弥生」
「……弥生って呼ばないで、高野先輩だよ。もう私春ちゃんの先輩なんだから、わかってる?」
「うん、わかった弥生」
わかってないじゃん……と春ちゃんを見上げる、見上げなければいけないのがつらい。まぁ、自分と同じ年の子とかあまり年の変わらない子とか先輩はほぼ全員見上げる形になるんだけど、春ちゃんは規格外に育ちすぎだと思う
春ちゃん、真谷先輩よりも背が高かった気がする、この学校比較的に背が高い人ばっかりだから私がとても際立つ
170cmなんてざらにいるからね……春ちゃんは例外です。一年生でそんなに高い子は春ちゃんくらいだよ、しかも170cmって大体高校3年男子の平均身長だし。それより高い春ちゃん、いや待てよ、こいつらが高いだけで私が実は高いんじゃないか?うん、そうだきっとそうだ
「……弥生」
「ん、本屋さんに行くの?いいよ」
春ちゃんが指さす方向を見れば最近リニューアルオープンした本屋さんが建っている。春ちゃんに促されるまま本屋さんに入れば紙のにおいとインクのにおいがツン、と鼻を衝く
昔から、本を読むのは好きなので本屋さんとか図書館にはよく立ち寄ったりしている。
さっきから事あるごとに弥生、弥生、と呼ばれて春ちゃんの本選びに付き合わされる。この年で異性から下の名前呼び捨てって気恥ずかしいんだけどね。思春期ってやつ?
「結構人がいるね、ちらほらとうちの生徒の姿も見えるし」
目視できるだけで制服姿の生徒は7,8人はいるのが確認できる、私服で来ている生徒も含めれば2桁はいくんじゃないだろうか
すると何を思ったのか春ちゃん、私の手にするりと手を絡めてくる。何この手?という意味を込めて手を持ち上げると「はぐれないように」との返答が帰ってきました。私は幼児なの?
春ちゃんはご機嫌になったようで、手をつないだままあっちへふらふらこっちへふらふらとする。お客さんの視線が痛いです、特に同じ学校の人達の
誤解されてる気がする、絶対恋人同士とか思われてるよ、これ
私、春ちゃんは弟のようなものだと思ってるんだけどな……ま、私の妹の豊に知れたら怒られるんだろうな。
ちなみにうちの家系は父と母は離婚済みで父の方に兄貴、母の方は私と豊が住んでいる。そろそろ不安になってくるな、本当に父と母は離婚してるのか。だって家が離れているにも関わらず毎日うちに父がいて母は何も言わないんですが
兄貴も普通にうちにいるんですけど、なに、ツンデレってやつ?
「あれ、誰かと思えば蛙じゃん、こんなところで何やってんのさ」
「……デート」
「違います、ただ単に買い物に付き合ってるだけです」
前方からやってきた男子生徒と春ちゃんの視線がばっちりあった後、下方に視線をやり私とつないでる手を見ての問いがそれですか。春ちゃんも大真面目な顔でふざけたこと言わないでほしいけどね
デートなんて私と春ちゃんがするわけがない、付き合ってるわけじゃないんだし。
「ま、どうでもいいけどさ、君等随分注目されてるみたいだね」
ふんっ、と鼻を鳴らして目の前の子は高慢そうに腕を組む……誰?この人、組章を見る限り1年生っぽいけど、春ちゃんの知り合いか誰かなのかな、この失礼な人は
「…………兎野には関係ないことだ」
十分な間を問ったあと、絞り出すような声で春ちゃんは答える、兎野って名前なのかこいつ、兎?
なんだかとっても嫌な予感がする、そうこの上なく嫌な予感がね
「あれっ、もしかしてそこにいるのは高野さんっ?」
「え、高野さん、そこにいるの……?」
ばっちり当たったね、私将来占い師としてやっていけそうな気がする
渋々後ろを振り返れば、桜城さんと斉藤君が私と春ちゃんよろしく手をつないで立っていた。
斉藤君が驚いたようにこちらを見る、けどそっちは私じゃなくて春ちゃんですよー。
「……高野さんっ、貴方の隣にいる人と前に立っている人はお友達なのぉ?」
「……お友達、まあ、そう言われればそうなような違うような、前に立っている人は知らない人デス」
しどろもどろになってしまうのは仕方ないと思う、桜城さんの視線は兎野と同じように春ちゃんと繋がれた手に移る
ヤバい、そう思って手を放そうとするも春ちゃんがちゃんと握って放してくれない。放して!春ちゃん駄目だよ!
「もしかしてっ、弥生ちゃんと手をつないでる人って……弥生ちゃんの彼氏なのっ!?」
「え、それは違……!」
「……そうだよ、弥生は俺の彼女」
鳥肌が立ったし呼吸も止まる、二重の意味でびっくりして固まっております。まず桜城さんが何を思って私を弥生ちゃんと名前呼びしたのか、そしてここからが最も重要かもしれない、春ちゃんいま何て言った?私が、春ちゃんの、彼女!?ないない、絶対ない……いや、万が一、億が一あったとしても、ねえ?
「やっぱりっ、そうなんだぁ……ふふっ、弥生ちゃんたしか同じクラスだったよねっよろしくっ、胡桃でいいよ?」
「よ、よろしく、胡桃、ちゃん」
引き攣った笑みで繋がれていないもう一方の手でさしだされた手を握る、あの、私が春ちゃんの彼女だっていう認識改めて頂きたいのですが……
春ちゃんは春ちゃんで満更でもなさそうな顔をしない!
「……って、え?」
「あのさ、僕帰ってもいいかなぁ?」
ワンテンポ遅れて斉藤君が間抜け面になる、締まりのない顔だなぁ、そして私たちの後ろの兎野が不満そうに言う、苛々しているようだ。
斉藤君よ、君の隣にいる女の子が絶賛目を輝かせているよ?いいのかい、ソレ
桜城さんは斉藤君の手をパッ、と放すと兎野の前で何やら話をしている。
手を離された斉藤君は驚いたようで、ふらりとよろめく、どうやら平衡感覚がなくなってきてるようで
「斉藤君、大丈夫?」
開いている手で斉藤君の手を握ってバランスをとらせる、ここで倒れられても注目を浴びるだけでっ……て、もう注目浴びてますよね
謎のツインテール美少女に背の高い寡黙系イケメン、そして何やらツンデレ属性っぽい可愛い系男の子に庇護欲を刺激される儚い薄幸青年か……そして異様に小さい女の子、そりゃ注目浴びるよな
ぎゅっ、と春ちゃんの手を握ってる方をみれば何やらさっきのご機嫌顔が不機嫌顔に、小町曰く表情1mmも変わってないのによくわかるよね、とのことだがわかりやすくない?
春ちゃんは不満げな顔で、耳元で言ってくる
「……弥生、もう帰ろう」
「ちょっ、くすぐったいよっ……ひゃっ!」
耳はだめだ、耳はぁ!と悲鳴を上げながら距離を取る。手をつないでいるからそんなに離れられないけど、とにかく耳元だけはやめてほしい。耳は弱い!
そんな様子を見かねてか何なのか斉藤君が背にかばってくれる、痛い痛い、手がひねられてるよ!
「あ、のっ、高野さん困ってるし、そういうのやめた方がいいよ」
言葉が最後の方に行くにつれ声が低くなっていく、なるほどこれが比例ってやつか!と、いう冗談はさておき、何やら険悪なムードになる私の周り、桜城さんは兎野と何か話している。あんか兎野の顔が赤く染まってるところからまた何かやらかしたのだろう
「……君には、関係ない」
「っ!あるよっ」
ああ、こちらはだんだん険悪に…一体どうしろっていうんだろうか?
兎野沙月
・生意気な1年生、桜城さんのような素直な人にだまされやすい若干可哀想な子
・女の子のような肩につくかつかないかのぎりぎりの髪、金髪……不良?
・身長150cmと少し、まともなはずなのに周りのせいで小さく見られがち




