図書室勉強
かなり血走った眼をして狂いかけている彼女らから決死の思いで脱出したのもつかの間、今朝のHRで兄貴がとんでもないことを言い出した。
「じゃあ、今から2週間くらいしたら中間テストだからな、提出物をしっかり出して。いい点とれるように頑張れよ」
思わず悲鳴をあげそうになったのは私だけではないはず。身体に稲妻が走ったようにショックを受けた。そういえばテストでしたね……!
別になんら勉強に困るということはないのだが、個人的にはベスト5に入るくらい苦い思い出となっている、桜城さんと攻略対象キャラのラブラブシーンがあるのだ。しかもランダムでどこで行われるのかわからないため、防ぎようがないと言う……。
あー、うー。とか言いながら頭を抱えていれば、隣の席の志郁雨都君がじーーーっとこちらを見つめていることに気が付いた。志郁君はくるくるの猫毛が特徴的で目も片方だけ、しかもチラッとしか見えないので話しかけずらい、何故見つめてくるんだ
「な、何……用がないんだったら見ないでほしいんだけどなぁ」
「……いや、別にアホみたいなことしてるなあって思っただけだ」
ん?こいつは何を言っている?アホって言われたのは久方ぶりなんですけれども……!はぁ?と嫌悪感丸出しで睨んでやったらプイッとそっぽを向かれた。いきなりのことで何やってんだ?なんて思っていたら目の前に兄貴がいました。
額に青筋を浮かべながらも笑顔でこちらに微笑みかけてくる兄貴を見ていればサッと血の気の一つや二つ引きますよね……
「高野、おまえなぁ……そんなに先生のこと嫌いか?」
「いえ、別に……」
目をそらしながら答えると「だったら真面目に話を聞け!」と一喝され頭をぺチンとはたかれる。そのまま教卓に戻っていく兄貴の背中をぐぅぅ……と怒りの念を込めて睨んでみるけど、兄貴は教師としての職務を全うしているだけなので、怒りの矛先を志郁に向ける(もう、君とかさん、はつけてやらん)小町が前の方で肩を震わせているけれども気にしたら負けだ。
「あんたのせいで怒られたんだけど……?」
「高野さんの自業自得だよね、今の」
無言で数秒間見つめあって(睨み合って)、スッと目をそらす。コイツを相手にしていたら確実に疲れる。
兄貴の話も手短に終わり、その後テストの前々日までは何も問題がなかったのだが、前々日になって予想だにしない出来事が起こってしまった。
いつも通り帰る前に図書室に行って本を借りようと小町と一緒に行った時のこと、(なぜか後ろに志郁がいるが気にしないでおく)桜城さんが5つある席のうちの真ん中に座り、両隣には竜崎先輩と斉藤君、そして対面するような形で小鳥遊先輩と真谷先輩が座っていた。
これ、なんていう名前のハーレムですかね?
「逆ハーレムだろ」
「ん~、まさか生で見られることが人生のうちにあるとはね~」
淡々と答える志郁に、いつも通りな調子で頷きながら言い放つ小町。私は何回も見たことあるけどね……というか私の心の声ばっちり出ていたみたいです。
まさかこの短期間でこんな逆ハーレムを作るとは、驚きだわ、そして女としての何かを失ったような気がする、うっ、頭が!
桜城さんは呆然と突っ立っているような形になっている私たちを認識すると難しい顔から一転、ぱっ!と顔を嬉しそうに笑顔に変える。
桜城さん、気が付いているだろうけれど君の周り凄いことになっているよ……?でも気のせいか気にしていない様な女子生徒が半数近くいるように見える。
「弥生っ!あぁ……お願い、胡桃のためにお勉強教えてぇ!」
顔の前でぱんっ、と手を合わせて片目だけ閉じる形にして上目遣いで見てくる、最近のブームはみなさん瞬間移動ですか?
小町は笑顔を張り付けたまま、スッ……と無駄のない無駄な動きでいつの間にか遠いところにいるし、思い切り腕を掴まれて逃げられないようにされる。志郁が自分だけ逃げようとしているが気にせず腕を掴む
「……高野さん、その手を放してくれないか?」
「まあまあ、いいじゃない志郁、胡桃ちゃん志郁もいいよね?」
「もっちろん!…………むしろ大歓迎」
最後の方は悪い顔になって言っていたけど気にしないことにする。さっきまで桜城さんたちがいた場所に戻ると全員が目を見張ってこちらを凝視してくる。それは私が掴んでいる、というか志郁と組んでいるように見える腕に対してか?それとも私と志郁が桜城さんと一緒にいる様子を見てか?
「じゃあっ、弥生はまーくんの隣ねっ!」
「はぁ……」
つまりあんたから一番遠い席?
志郁はちゃっかり小鳥遊先輩の隣に座らされている、凄く場違い感がハンパないです。いつもならテスト前はみんなまっすぐ家に帰るはずなのにこちらにチラチラと視線を送ってくる生徒が多数いる。
というか桜城さんにはもう5人も家庭教師?がいるのだから私を呼んだのは言い訳ってやつですか……私はいいように駒にされてるなあ
さて、護君は私が隣に座っても桜城さんばかりに目をやっている、みんなそうだ一瞬はこちらを見ていたけれどすぐに桜城さんに目をやる。
はいはい、桜城さんマジック桜城さんマジック……っと
私もテスト前であることにかわりはないので鞄から勉強道具一式を取り出す。お気に入りの薄いピンク色のシャープなフォルムが特徴のくるりん回って尖る尖る!がキャッチフレーズのくるりんシャーペンを使ってただ一心不乱に問題を解いていく。
しばらくそうしていたものの、隣がきゃぴきゃぴとしているので集中出来ないのではぁ、と背伸びをしてみる。
ころっ、とシャーペンが転がって真谷先輩の肘にコツっと当たってしまう。
「あ……」
真谷先輩はこちらを一瞥して、はっと目を見張った後焦ったようにシャーペンをぐっと握ってまっすぐこちらを見据えてくる。
な、なに?桜城さんマジックは?
「……くる、桜城、少し席を移動するな」
「え、えぇぇっ?」
桜城さんが焦って立ち上がろうとするのを余所にこちらに対面するように真正面に座ってくる。なんですか、どうかしましたか?
「進んでいないようだが?」
「別に、進んでいますよ、先輩の気のせいでは?それより胡桃ちゃんの事を機にしたらいかがでしょうか?」
「桜城はアイツらがいるから大丈夫だろ」
「そうですか」
沈黙が続く、桜城さんが尚も焦ったような声で「先輩っ、弥生ちゃんは大丈夫そうだからこっちでやりましょうよっ!」と声をかけ続けるが真谷先輩も断り続ける。
あれぇー?桜城さんマジックは何処へ?
私がさっきまで解いていた問題のミスを指摘されながら、着々と問題を解いていけば、真谷先輩の手が止まる。
「先輩……?どうかしましたか」
「俺の隣に来い」
「は?」
「隣に来られた方がやりやすい」
それ、余計にやりにくくないですかね?そう反論しようとしたけど途中でやめておとなしく隣に行こうとするがそういえばそうなるとさっき真谷先輩の分も詰めていた小鳥遊先輩と隣り合ってしまうことになるんですけど……しかも桜城さんも斜め前に来てしまうし
もたもたしているとぐいっ、と引っ張られて強制的に座らせられる。
そのままさっきと同じように教えようとしてくれるのはいいんだけども……なんか、近い!
吐息が前髪に掛かって、もじもじとしてしまうのは仕方ないと思う。
「何もそもそ動いてるんだ?早く問題を解かないと終わらないぞ?」
「えっ、あっはい、ソウデスネ……」
真谷先輩が近いので仕方なく身体を後ろにやれば小鳥遊先輩にぶつかってしまう。
小鳥遊先輩も真谷先輩と同じようにこちらを一瞥してから、はっ、となる。
なに?男子の方はこれがブーム?
「おや、真谷君、高野さんに迷惑をかけてはいけませんよ?」
「迷惑なんてかけていないが?」
「ですが困っていらっしゃるようですよ?」
「そうなのか?」
「い、いえ、その……」
ああ、みんなの視線が痛い……わたしは2年生になってからどれだけ刺すような視線をもらったのでしょうか?
志郁雨都
・2年生、何をしているのかよくわからない
・猫毛で片目しかみえない、しかもチラッと
・162cm




