エルミック音楽学校
エルミック音楽学校の朝は、いつも静かな旋律から始まる。
古代の科学者が発見した音階の比率。
宇宙が奏でる天球の音楽。完璧な調和。
心地よいそのメロディは、聴く人の心を世界の鼓動に溶け込ませる。
その音色を聴きながら、生徒たちが騒めきながら校舎から校庭に出て来る。
ある者はこれから始まることに期待で目を輝かせて、ある者は人生がかかっている様に真剣な表情で、ある者は眠い目を擦って欠伸をしながら。
生徒たちが校庭の演台の前に集まり、パラパラと整列し始めたところで、演台の周りにいた大人たちの中から一人、白髪と白髭を綺麗に整えて片眼鏡を掛け、紺色のスーツを身に着けた、気難しそうな表情の男性が演台の上に上り、生徒たちを睥睨して口を開いた。
「おはようございます、皆さん。ご承知のことと思いますが、本日は我がエルミック音楽学校に取って大切な日です。来月末に控えたレノール村の神樹祭での演奏を完璧なものとするために、ロシュガル城から王室音楽隊の皆様が模範演奏に御来校くださいました。ロシュガル王国最高の音楽隊の生演奏を聴いて、是非自身の演奏技術を見直し、国中の人々が訪れる神樹祭で伝統ある我がエルミック音楽学校の名に恥じない素晴らしい演奏ができるように、有意義な学びの機会としてくれることを期待しています。それでは、私からのご挨拶はこの辺で終わりにします。皆さん生演奏の会場である円形舞台に移動してください。」
演台から降りた男性に、一人の女子生徒が歩み寄り、緊張した様子で話しかけた。
「ミヒャエル先生!トリュートがまだ来ていません。こんな大切な日に遅刻するなんて、たるんでいる証拠です。先生から厳しく注意してください!」
ミヒャエル先生は、片眼鏡の奥の眼光を鋭く光らせて女子生徒を見た。
「トリュートにも困ったものです。意図しない不協和音の発生は、放置すれば校内の規律の乱れにつながりかねない。見逃すことはできませんね。報告ありがとう、マリー。トリュートには厳重注意しておきます。君も早く円形舞台に行きなさい。」
「わかりました。」
女子生徒はペコリとお辞儀をすると、くるりと踵を返して他の生徒たちの後を追って駆け出した。
ミヒャエル先生は、胸ポケットから取り出した清潔できちんとアイロンの当てられた純白のハンカチで片眼鏡を拭きながら、少しため息を吐いた。




