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◆第五話 明暗


「くっ……こんな雑魚共にかまけている時間はないというのに」


 ――高難易度ダンジョン、『ヴァルケシア渓谷ダンジョン』で《プラチナムドラゴン》の鱗を採取せよ。


 僕――ハイド率いるAランクパーティー、【ヴィザールの靴】が今回受諾したのは、そんな依頼だった。


 依頼のランクは言うまでもなくA。


 期待の新人を迎え入れた、新生【ヴィザールの靴】が挑む初めての依頼に相応しいものだった。


 ……だが、何か、様子がおかしい。


 訪れた『ヴァルケシア渓谷ダンジョン』にて、僕達は苦戦を強いられていた。


 相手は、依頼の目的であるプラチナムドラゴン……ではない。


 プラチナムドラゴンの生息する地帯、その遙か手前の密林で遭遇したモンスター、《火喰い大蛇》の群れだ。


「シー……」

「シュー……」


 火喰い大蛇の群れは、親玉である大蛇――火喰い大蛇と、その子分の蛇達で構成されている。


 無論【ヴィザールの靴】にとっては討伐経験もある、大した相手ではないモンスター。


 今回も楽勝……のはずだった。


「ちっ!」


 僕の振るう剣が、親玉である火喰い大蛇の胴体に叩き込まれる。


 しかし、鱗に亀裂を残す程度で、大したダメージを与えられない。


「シー!」

「シュー!」


 横から子分の蛇達が襲い掛かって来る。


 親玉との戦闘を邪魔され、僕は一旦距離を取らざるを得なくなった。


「だ、大丈夫ですか、リーダー!?」


 駆け寄ってきたのは、新人メンバーのアルメラ。


 貴族バージニア家の令嬢で、ブロンズの髪に鼻筋の通った顔立ちの、気品溢れる美人だ。


 全身に要所を防御する為の甲冑を纏い、手には盾とスピアを持っている。


 ジョブは《戦乙女》。


 全ての装備が小型軽量なので、攻撃力・防御力・スピードとバランスの取れたジョブ。


 流石は領主に才能があると期待されているだけはあり、新人離れした実力も備わっている。


 単なる親馬鹿で評価していたのではないと感心したくらいだ。


 そのアルメラが、僕の傍へと駆け寄り援護に入る。


「ありがとう、アルメラ。大丈夫だ」

「違います! そういう事ではなくて……」


 アルメラは、どこか焦りながら僕に問うてくる。


「本当に、この任務に挑戦して大丈夫だったんですか!?」


 僕は苦笑する。


 いけないいけない。


 新人を不安にさせてしまったようだ。


「そう焦るな、このダンジョンには何度も来た事がある。この火喰い大蛇の群れだって、以前に討伐した記録もある。今日は、以前よりも強力な群れのようで、多少苦戦しているだけだ……バリテン!」


 僕は、仲間の《重戦士》――バリテンを呼ぶ。


「僕は大技のタメに入る! 雑魚共の露払いをしろ!」

「無茶言うな! こっちの相手で手一杯だ!」


 バリテンは雑魚の群れの対処でおおわらわ。


 大斧を振るうが、纏わり付いて離れない様子だ。


 前は一閃で蹴散らせていたのに。


 今日は調子が悪いのか?


 どうせ、また酒と女にかまけて寝不足なのだろう。


 情けない奴だ。


「ノーテ!」


 仕方なし、僕は《僧侶》のノーテを呼ぶ。


 彼女は、襲い来る小さな蛇の群れから逃げ回っていた。


「僕に《障壁》を!」

「も、もう魔力が残っていません!」


 馬鹿な!


 何故こんなに早く魔力が枯渇する!?


「ここに来るまでに使った回復魔法や正常化魔法で底を尽きました!」

「魔力回復薬は!? 持ってないのか!?」

「そんな重いもの持ち歩いていません!」


 くそ……そういえば、ノーテの魔力が弱った際には、いつもマニャウェルが魔力回復薬を渡していた。


「ウィグ! お前がこっちに来い! 僕とアルメラを守れ!」

「うう、わかった!」


 僕の指示を聞き、犬頭の《獣士》――ウィグがこっちの援護に走って来る。


 犬頭らしく馬鹿だが、素直で僕の言うことには従順だ。


「え!?」


 そこで、アルメラが驚きの声を上げる。


「ウィグさんがこちらに来たら、誰がノーテさんの守護を――」

「ひぃいっ!」


 そこで、蛇の群れに飲み込まれたノーテが悲鳴を上げた。


 足や腕に蛇達が巻き付き、噛み付かれている。


「リーダー! お助け下さい! リーダー!」

「リーダー! ノーテさんが!」

「……今は、余裕が無い」


 ノーテとアルメラの懇願を無視し、僕はタメに入る。


《魔剣士》である僕は、剣に魔力を集中し大技を見舞う。


 時間は掛かるが、その効果は絶大。


 それに、魔法の使えない後衛など無価値に等しい。


 ノーテには悪いが、今は最良の選択を取らせてもらう。


「くっ! ノーテさん、今助けます!」


 アルメラがノーテの元に向かう。


 できれば、アルメラとウィグの二人に援護をさせたかったが、仕方が無い。


 ウィグに守られながら、僕は大技のタメを続ける。


「……よし」


 タメが完了した。


 完全100%全力の攻撃を放てる。


「食らえ!」


 僕は火喰い大蛇へと斬り掛かる。


「《雷神斬りLv.3》!」


 紫電を纏いし神速の斬撃が、火喰い大蛇の首を一刀両断した。


「リーダー!」

「アルメラ、心配を掛けたな」


 着地を果たし、僕は振り返る。


 アルメラは、ノーテに食らいついて離れない蛇を引き剥がしている最中だった。


「だが、これが本来の僕の実力――」

「ダメです! 火喰い大蛇は首を切っても――」

「シー!」


 次の瞬間、子分の蛇たちが火喰い大蛇に群がり始めた。


 首の断面に浸蝕し、まるで同化するように形が変わっていく。


「な……」


 瞬く間、切り落としたはずの火喰い大蛇の首が、復活した。


 金色の目が、僕を見下ろしている。


 そうだ、そうだった。


『リーダー! 火喰い大蛇には再生能力がある! 首を切り落としても、子分の体を素材にして復活するよ! だから、狙うのは首じゃなくてコア! 私がコアの場所を《エコロケーション》で探るから、そこを一刀両断して!』


 そう、マニャウェルが言っていた記憶がある。


 クソッ、こんな大切な情報を忘れているなんて。


「マニャウェル、敵のコアを探れ!」


 指示を出すが、返事は無い。


 そうだ、あの女はもう……。


「ガァァアッ!」


 巨躯をうねらせ、火喰い大蛇が襲い掛かってくる。


「うっ!」


 その衝撃に、僕の体が吹っ飛ばされる。


 毒牙を剥いた火喰い大蛇の向かった先は……。


 アルメラだった。


「きゃああああっ!」


 ………。


 ……飛ぶ鳥も落とす勢いで成り上がったAランクパーティー、【ヴィザールの靴】。


 その日、僕等は依頼に失敗し、屈辱的な撤退を余儀なくされたのだった。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 ――『クロックハート城跡ダンジョン』から帰還し、数日後。


 冒険者ギルドへの調査報告と依頼完了報告は、問題無く終了……とは、やはりならなかった。


 冒険者蒸発の原因解明、及び、支配者クラスのモンスター、ダークルーラーの出現。


 更に更に、そのダークルーラーの討伐報告。


 提出を受けた受付嬢さんは完全に半信半疑で、嘘の報告ではないかと疑っていた。


 まぁ、それは仕方が無い。


 本当なら、Dランクパーティーにどうにかできる案件ではないのだから。


 けれど、ドロップアイテムの《闇波動の魔石》を提出したところ、一気に顔色が変わっていた。


 急いで上長が呼び出され、その上長も慌ててギルドマスターに連絡し、ギルドマスターが直接魔石の鑑定と質疑応答に訪れる始末。


 結局、報告だけで五日ほどを費やしてしまった……。


「いやぁ、しかし……大変な事になっちゃったね」

「ふふっ、冒険者ギルドの受付嬢さん。凄くびっくりした顔してたね」

「……仕方が無い。同じ立場なら俺だって疑う」

「まぁ、何はともあれだ」


 冒険者ギルドからの帰り道。


 私、シフォン、キミカゲを振り返り、ライレオが高らかに宣言する。


「めでたく、パーティーランク継続決定だ!」


 今回の任務達成で、【三日月の剣】のパーティーランクは継続が決定した。


「でも、本当によかったの? ダークルーラー討伐の成果もあって、一気にBランクへの昇格も検討されたのに、断っちゃって」


 そう、パーティーランク継続どころか、ギルドマスターから昇格の話も持ち出されたのだ。


 一気に二段階アップの昇格なんて、【ヴィザールの靴】でもあり得なかった功績だ。


「いいんです。今回の仕事は、ほとんど先輩のお陰なんですから」

「うん、僕、ほとんど役に立てなかったし」

「……つぅか、分不相応のランクになっても苦労するだけだしな」

「若いのに謙虚だなぁ、みんな」


 私は笑う。


「でも、今回一緒に任務をこなして思ったけど、三人とも冒険者としての素質は決して悪くない。十分、光を秘めた原石だよ。今はまだ早いかもしれないけど、いずれは高ランクに名前負けしない逸材になると思う……なんて、ごめんね、私なんかが偉そうに」

「いやいや、先輩にそんな太鼓判を押してもらえるなんて、光栄ですよ!」


 ライレオは興奮したように喜ぶ。


 シフォンは微笑み、キミカゲも満更ではなさそうに視線を逸らす。


「むしろ、こんなに凄い先輩に、本当にうちにいてもらっていいのか……その方が気掛かりです」


 この五日の間に、私は正式に【三日月の剣】への所属を決定した。


 ルインさんからは、『再就職おめでとうございます! 年下イケメンパーティーに仲間入りするなんてマニャウェルさんも中々やり手ですね!』と、お祝いの飲み会を開催された。


「気掛かりなんて、とんでもない」


 私は、一切の曇りも無く、ライレオに伝える。


「私は、このパーティーを支えるって決めたから。これからも、よろしくお願いします」

「いやいや、支えるどころじゃないですよ!」

「マニャウェルさん、本当に謙虚過ぎだよね」

「……むしろメインウェポン、切り札枠」


 三人と笑い合いながら、私は街中を歩き進む。


 行き交う人々の間では、様々な雑談が交わされている。


「……おい、聞いたか? 【ヴィザールの靴】の話」

「ああ、この前の『ヴァルケシア渓谷』の一件だろ?」

「プラチナムドラゴンの鱗の採取任務に向かって、遙か手前で撤退したってな」

「信じられるか? あのAランクパーティーがだよな? 何か問題でもあったのか? 魔獣暴嘔(スタンピード)とか」

「いや、単純に連携ミスっつぅか……まぁ、ともかく、普通にモンスターに負けそうになって敗走したらしい」

「なんだそりゃ」

「ギルドへの報告書も酷いもんだったらしいぞ。『偶々調子が悪かった』『強力なモンスターに偶然出会してしまった』『アイテムが不足していた』『予想外の事態が起こっただけで普段の実力ならこうはならなかった』とか、言い訳みたいな事がひたすら羅列されてたとか」

「あのAランクパーティーがねぇ……まぁ、何はともあれ本当に今回は偶々って事もあるだろうし、一回失敗したくらいなら特にお咎めも無いだろ」

「いや、そうは簡単に終わらないんだよ。【ヴィザールの靴】が、最近新メンバーに加入させたのがバージニア家のご令嬢らしくてな」

「領主様の娘か」

「今回の任務で、そのお嬢様を相当危険な目に晒したらしい」

「おいおい……まさか、お嬢様の身に何かあったんじゃ」

「いや、逆だ。むしろ、ギリギリの状況だったが、そのお嬢様の機転で難を逃れられて全員生きて帰れたそうだ」

「は?」

「情けない話だろ。しかも、娘から経緯を聞いた領主様が大激怒でな。今、相当やばい事になっているらしいぞ」


 街を行き交う人々の間で、そんな話が交わされていた。


 けれど、今の私の耳には、そんな会話は入ってこなかった。


 今はただ、新しい仲間達と一緒に、ホームへと帰るだけだ。


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

 楽しんでいただけたなら幸いですm(_ _)m


 本作は連載候補の短編となります。


 読者様の反応を参考にしつつ、考えていこうと思います。


 少しでも、「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださったなら、↓の評価欄【☆☆☆☆☆】から、ポイントにて評価してくださると幸いです。

 また、この作品のここが好き、ここをこうするともっと良くなる、連載するならこういう話が呼んでみたい、等々、ご感想をいただけると今後の励みになります。


 どうぞ、よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
 彼らの旅の続きが楽しみです。 キミカゲをルインさんがしっかりしなさいよで。。。。。 色々有ると面白そう(恋愛的な意味で)
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