アイラナからの手紙
おまけ小話です。
結婚して1か月――。
私達は新婚旅行を兼ねて、隣国のラトオーヴェへ初めての外遊へ行ってきた。
アディルス様から聞いていたから覚悟していたけど、スノーディアへの風当たりは強かった。
お茶会では私の容姿をからかったり、晩餐会では私達だけ違うドレスコードを伝えられて、危うくそのまま出席するところだったり。
意地悪ばかりで悲しくても、アディルス様だって頑張っているのだから私だって音を上げる訳にはいかない。
精一杯笑ってごまかし、無事スノーディアに帰って来たときは、雪も完全に溶けて木々が芽吹き出している季節になっていた。
「リーノ! リーノ!!」
アディルス様が珍しくバタバタと大きな足音までさせて、明るい声で嬉しそうに私を呼んでいる。
「アディルス様!! どうなさったんですか!?」
何事かと私も慌てて本を放り出して、アディルス様がいるだろう、私室の談話室に飛び込んだ。
確か今日はアイラナの使者が来て、バニラの件の返事もらいながら、お昼を一緒に頂いてる時間のはず。
こんなに早く戻ってくるなんて。
「まさか、バニラの件、断られたのですか?」
母様相手だからとあんな砕けた口調ではなく、もっとちゃんとしたお手紙を書くべきだったのかも。
だってあれから何度か私的な手紙も出していたのに、母様は返事もくれないし。
母様、とても怒っているのかもしれない。どうしよう!
外遊は失敗してるから、アイラナとの交渉くらいは役に立たないといけないのに。
「今から私も行って、ちゃんと事情説明と謝罪をした方が……」
私は青くなって着替えのために侍女を呼ぼうとしたら、
「違う違う! 早く読みたいだろうって、抜け出して来たんだ!」
アディルス様はレイやサリの小さい頃のように、全然悪びれずに満面の笑顔で私に手紙を差し出す。
受け取って差出を見れば。
「まぁぁ、母様! これ、母様からの手紙!! 初めての返信よ!」
私は嬉しくて思わず声が上ずった。
アイラナを離れる訳にはいかない母様。私の結婚式は兄様が名代で出席してくれた。
あれ以来会っておらず、母様とは手紙でしか話してなくて、初めて返事をもらった。
「そんな顔すると思った。届けに来たかいがあった!」
アディルス様は強引に私を引き寄せておでこにキスする。
「まぁっ、アディルス様ったら!」
いくら私室でも、ここには侍女も侍従もいるというのに。
少しばかり照れ臭くて、みんなの視線が少しこそばゆい。
「戻るよ。これで午後も頑張れそうだ!!」
アディルス様は満足したのか、嵐のように舞い戻っていった。
私はお気に入りの窓際に腰掛ると、封を開けた。
※ ※ ※
リーノ、手紙をありがとう。
スノーディアでも大事にされている様子だったとナウルから聞いて、安心しました。
とても立派なお式だったそうね。婚礼衣装の姿絵もありがとう。
私やみんなは国を離れることはできないから、こんな風に貴女の姿を手元に残せるなんてとても嬉しいわ。
アディルス陛下にもよくお礼を伝えて頂戴。
とても立派なドレスね。良く似合っていたけど、堅苦しいのは苦手なあなたのことだから、お客様や賓客の前で、良くないふるまいをしたんじゃないかと不安になってナウルに尋ねたら、立派に王妃の役割を果たしていたと。
リーノはとても頑張ったのね。でも。。。
――誰も見ていないからと、気を抜いていつもの自分でいてはいけませんよ。
と、お小言を言えない事が少し寂しい気もします。
そうそう。あなたの姿絵はみんなが見られるようにって城の居間に掛けました。
そうしたらラナは毎日眺めてため息をついています。
「私も早くあんなドレスを着て結婚式をしたい」って。
お姉ちゃんみたいに立派なお嫁さんになるんだって、ラナはユウナと一緒に勉強を頑張っています。
このところ少し涼しいせいか、ユウナは体調をあまり崩すことなく過ごしています。
先日花嫁衣裳の仮縫いが終わりました。
あなたの贈ってくれた生地での本縫いを楽しみに、式や新生活の準備を二人でしています。
お相手は……言わなくてもわかるわね。
リーノは賛成なのでしょうけど、彼、一本気すぎて母様は少し心配よ。
レイとサリはあなたに似て、じっとしている事が苦手ですが、カイやマノアに教わりはじめた剣技は好きなようです。
でも、習い始めで刃のない模擬刀だから、少しがっかりしていたみたい。
そんなところにあなたからの贈り物がスノーディアの細工が施された短剣だから、とても喜んでいたわ。
二人とも枕元に置いているそうよ。
剣技は心も大事だとマノアが話していたから、二人もこれで少しは落ち着きを学んでくれると期待しています。
ナウルから聞いていると思いますが、私も特に変わりなく過ごしています。
とても綺麗なルビーのブレスレットね。ありがとう。
先日、このブレスレットと共に、あなたの事を父様に報告しました。
虹の国で父様もきっと喜んでるでしょう。
国の皆もつつがなく、大きな災害もありません。
平穏に日々を積み重ねていける事が奇跡なのだと実感しています。
リーノやアディルス陛下のバニラ購入申し入れは、ナウルとも話してスノーディアに一部優先権をつけて売り渡すことに決めました。
私達の作るバニラやカカオがスノーディアの民の助けになるなら、母様に異存はないわ。
王妃としての初仕事ね。思いっきりやってみなさい。
そんな感じで、みんな元気にしています。
リーノも身体には気を付けて下さい。
それでは、また。
※ ※ ※
「母様……ありがとう」
私は手紙を抱きしめる。
バニラはアイラナの重要な輸出品の一つで、収入の大きな柱。
それを優先価格で売ってもらえるなら、これほど助かることはない。
これでアディルス様の計画が一歩前進。スノーディアの民を助けるための大切な一歩だ。
本当の意味での助けはもっともっと先だけれども。
冷たくされたからって、こんなところでいじけてる場合じゃない。
私達を笑った人達はいずれ見返してやるんだから、今は好きなだけ笑わせておけばいい。
私は手紙をめくった。
※ ※ ※
おねぇちゃん。おげんきですか?
ラナはげんきです。
しつじさん、ありがとう。ふわふわしてとってもかわいいです。
おねぇちゃんがつくってくれた“ゆきのけっしょう”もよう、おねぇちゃんといっしょにそめてみました。
びんせん、つかってね。
※ ※ ※
「すごいね、ラナ。もうちゃんと字も書けるようになったね」
きっとユウナに教わったのだろう。
つたないながらも一生懸命書いたのが伝わってくる。
もう一枚はラナが書いた絵で、贈った羊のぬいぐるみが雲の上で飛び回っていた。
裏を返せばラナとユウナが染めた便せん。
「わ、とっても綺麗」
故郷の海の青に白い雪の結晶模様が浮き出したような染め上がり。
まるで海に降る雪みたい。
今度のお手紙はこれで書くことに決めた。
※ ※ ※
ねぇちゃん、剣ありがと。
ねぇちゃん、本ありがと。
※ ※ ※
「え? たったこれだけ!!」
一人一行、合わせて2行。
空白にはレイとサリの力作だろう、やたらとカラフルなドラゴンと戦う二人の自画像。
「もぅ! レイもサリも相変わらずなんだから!」
私は苦笑して次をめくった。
※ ※ ※
リーノ、結婚おめでとう。
姿絵、とっても素敵だったわ。
贈ってくれた生地は、あの絵と同じものだと母さまから聞きました。
アイラナでは染めで模様を作るのが主流だけど、スノーディアは刺繍で模様にするのね。
どこを見ても本当に細かくて綺麗で、私とラナは二人でため息をつき、サリとレイに笑われました。
もぅ。男の子って綺麗なものの良さがわからないんだから。
花嫁衣裳に仕立てるのが楽しみです。リーノみたいに似合うといいけれど。
綺麗と言えば、あの雪の結晶模様も綺麗ね。
沢山の種類があって、まるでお花みたい。
こんなのが毎日空から降るなんて、きっとうんと寒くても毎日見てしまうわ。
いつか本物の雪を見に、スノーディアへ行ってみたいです。
ラナと一緒に染型を使って結晶模様で便せんに仕立ててみました。
リーノが大好きだった海の色のマーブル模様に結晶の白、綺麗に仕上がったと思います。
今度はこれをもっと大きな布に染めてベットカバーにしようと思います。
そうしたら雪の夢が見られるかも。
リーノも身体には気を付けて。
またお手紙書きます。
それでは。
※ ※ ※
「こっちも綺麗。さすがユウナね」
浅い海はエメラルドグリーン、深い海は濃いブルー。
二つをマーブル模様にして雪の結晶をちりばめている。
ラナと少し違うのは、ユウナの好きなプルメリアの花が片隅に一つ入っていること。
対角線の反対側には私の好きなレフアの花が入っていた。
「ユウナ、結婚おめでとう」
どうか二人に素晴らしい追い風が吹きますように。
私はさっそくペンを取って、返事を書き始めた。
応援ありがとうございますm(__)m
メリクリ!




