伝承 其の壱
昔々、半世紀ほど前の出来事。
人間と竜族の、大きな争いがあった。
それは、今までの人間同士との戦争とは比べ物にならない程の激しい争いであった。
海が枯れ、森が燃えた。それほどの激戦だった。
人間が核を使えば、竜族は巨大な竜を都市部に送り込み、
竜族が村々を焼けば、人間は最新鋭の兵器で竜達を殺戮した。
そんな血で血を洗うような戦火の中、一人の少女と一匹の竜族が恋に落ちた。
少女と竜は違う種族でありながら、お互いの人柄や性格に惹かれ、その内愛し合うようになった。
やがて二人は、人生を共に歩むことを決意した。
それが人間と竜族との和解への拍車となるには、時間はかからなかった。
それからしばらく戦争が続いたが、戦争は日に日に収まっていった。
人間も、竜族も、心身ともに疲労困憊な状態であった。
そんな中、竜族迎撃軍のトップの[アンドリュー・マッカーサー]と
竜族をまとめる竜族の長[ヴァルハザール・ペンドラゴン]が対談し、停戦協定を結んだ。
こうして、後に【第一次竜大戦】と呼ばれる人間と竜族との長い長い戦いは幕を降ろすこととなった。
そのうち、人間と竜族とで和平条約も結ばれた。
これを機に、人間と竜族との恋愛や結婚も自由とされ、続々とつがいが増えていった。
自分たちより大きく、強力な存在。自分たちより小さく、聡明な存在。
それぞれ様々な思いを胸に、仲良く関わり合った。
ある時、人間と竜族の世界初のつがいに、子供が生まれた。
しかしその子供は、人間でも竜族でも無かった。
―【竜人族】― その場に居た助産師が名付けた種族名である。
人の体に竜の尻尾。小さき赤子でありながらも、その奇妙な風体は驚かれるものだった。
だが、新たな種族の誕生、そして無事に生まれた事もあり、次第に竜人族は受け入れられていった。
この出来事と同時に、爆発的に竜人族はその数を増していった。
だが、突然その平和は打ち砕かれる。
ある日、竜人族を連れた一家が交通事故に遭った。
親の人間と竜族は死んでしまった。しかし、子である竜人族は傷一つ無く、平然と立っていた。
まるで、何もなかったかのように平然と、両親の死体を眺めていた。
その場に居た民衆には、新たな戦争の火種のように見えたのか、竜人族は滅ぼすべきだと政府に訴えた。
政府は驚くべき速度で対応した。竜人族を『災いを呼ぶ悪魔の種族』とし殲滅作戦を開始した。
賞金まで賭けて、しらみ潰しに竜人族を殺害―虐殺していった。
この殲滅作戦は、政府の最高責任者による絶対令でもあったため、誰も反対しなかった。
しかし、竜族が反対していた。政府による絶対令から竜人族を守るため、停戦協定と和平条約を破棄。
そして、人間政府に攻撃を仕掛けた。
後に、【第二次竜大戦】と呼ばれる戦争の幕開けであった。
竜族は人間政府を集中攻撃し、竜人族への攻撃を自分たちに向けるような作戦をとった。
しかし、人間は数年の間に竜族の事を調べ尽くしており、弱点なども知っていた。
そのため簡単に対処されてしまい、竜人族を守るどころか逃げるための手助けもできないまま、
人間軍の兵士が、『竜人族が確認できなくなった』との報告を最後に、戦争は終結した。
竜人族は絶滅した。
その事実だけが人間を歓喜に、竜族を悲しみに包み込んだ。
そして、時は流れ――――
「・・・・・・とまぁ、ここまでが第一次竜大戦から今までの史実だが・・・」
「ふむふむ。」
「お前、ぜんっっっぜんわかってないだろ。なぁ?」
「うん。ぜんぜんわからん。もうちょいわかりやすく説明してくんない?」
「はぁ・・・ これでも十分わかりやすいと思うんだが?」
・・・俺は叢雲剣都。歳は16。
最近できた職、【竜狩り】を生業としてる高校生と言えばわかりやすいか。
残念ながら高校に行く必要もないけどな。
「剣都さ~、お前の説明わかりにくいんだよ~。知識A+、実技A+、対話A+の天才め~!」
で、この無知な奴は多奈火功牙。知識C、実技S、対話Bの脳筋。
実技においてはこいつには勝てない。
「いえ、私は聞いててわかりやすかったですよ。功牙さんがバカなだけかと」
運転しながら口を挟んだこいつは蔡凍冬次郎。クールなメガネ野郎だ。
知識S、実技B、対話A+。割と俺より天才。
「うっせー!陰険眼鏡!おめぇは運転に集中しやがれ!」
「陰険眼鏡はないでしょう陰険眼鏡は・・・」
「あー、もう説明しなくていいか???」
「それはいけねぇ、いけねぇよ、剣都」
「はいはい、じゃあ説明するぞ」
時は2155年。第一次竜大戦開戦から60年後、第二次竜大戦開戦から34年後。
停戦協定と和平条約が結ばれたのが2099年で、世界初の竜人族が生まれた日が2100年。
竜人族殲滅作戦を実行したのが2116年で、条約破棄したのが2117年だ。
で、今は竜族との冷戦期で、三年前に政府が【竜狩り】という新しい職を作った事で
政府と竜族のトップが直接関わる事がない戦争の真っただ中。
早い話が傭兵と傭兵の戦争。政府軍の兵士や竜族の精鋭は一切動かない。
「・・・わかったか?」
「二割くらいは理解したぞぉ」
「たった二割かよ・・・」
「あ!お前!二割をバカにするなよ!? 五回話せば十割だぞ!?!?」
「そうこうしてるうちに着きましたよ。今回の仕事現場に」
「やっとか・・・」 「よっしゃぁぁ!!暴れてやるぜ!!!」
そして、今日。
俺は三年間過ごした仲間と、いつも通り仕事を無事終わらせるはずだった。




