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哀の千年闇士  作者: ふぇんねる
三章 古木(こぼく)の塔
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17

「ちょ、ちょっと待ってください! オロフ様、私は一人でも大丈夫です!」


 あの会議から数日が発ったある日、朝霧が晴れる頃に再び訪れたオロフが告げた内容にリュエルは困り果てていた。


「もちろんそうだろう。お前の魔術は束にした騎士をも凌駕する。しかし彼にはそういう力ではない能力がある。地理にも明るい。そこそこ腕も立つ。あの例の守護術もある。旅の助けにこそなれ、決して邪魔にはならない。それは一緒にここまで共に旅してきたリュエルの方が、私よりもよく知っているのだろう?」


 北西への調査の旅に、シアンも連れて行って欲しい、と急に言われたのだ。


「いえ……ですが……しかし……」

「大人数はかえって邪魔だということもあろう。ここは二人で発つ方が良かろう」


 自身の発言に頷いて、オロフは完璧な微笑を浮かべる。それを見せられては、リュエルは最後にはこう言わざるを得なくなる。


「……はい、わかりました……」


 リュエルが頷いてくれるのを待って、オロフは続けた。


「それで、その旅の通り道に、ある遺跡があるのだが……」

「遺跡、ですか?」

「そうだ。前々からシアンに頼まれていたのだ。この文様はどういう文様なのかと。いや、実は私自身も興味があってな。それ、リュエルもシアンの弓の文様を見たことがあるだろう?」

「ええ。なんだか変わった模様の……」

「何か見覚えがありながら、すぐには思い出せずにいたのだが……ようやくさっき、分かったのだよ。見つけたのだ。古い友からの手紙の中に、それと似たような文様があった」

「手紙に?」


 本でもなんでもなく手紙。オロフは頷いた。


「ああ、手紙だ。その主は……そう、今は腐沼の生み出すエヴィアたちのせいで数年前にこの世を去ったのだが……学者でね、彼は、ここから北にある風の織機と呼ばれる山々の中にある、小さな古代の遺跡を調べていた」

「は、はぁ……」


 いきなりの話になんだか訳も分からず、リュエルにはそんな返事しかできなかった。何が本題なのか、なんとか理解しようと続いたオロフの話に再び耳を傾ける。


「その遺跡は三十年ほど前に彼が発見したんだ。二百年や三百年という規模ではなく、もっともっと古い時代の物らしかったが、小さな集落だったのか出土品が極めて少ない上に、破損が激しくてな、こう言ってはなんだが、それに、あまり面白味が無かったもので、他に研究する者がいなかった。彼は既知の文明とは違う起源を持つ古代文明を発見したと信じ、また、その独特の文様の描かれた出土品に惚れこんで、精力的に調査を繰り返し発表もしたのだが……場所的に限定された隔離的な文化で文明と言うほどではないというのが当時の学者たちの最終的な見解だった。それに辺境の高山という大規模な調査が困難な土地柄だったことも不幸だった。次第に世間から忘れられていった。まあ、だから多分、今となっては知っているのは私くらいなものだろうな。もしかしたら本当に、未だ知られない古代の文明だったのかもしれないのだが、残念なことだ」


 そう言いながらオロフは、手にしていたその手紙そのものをようやく開いてリュエルに見せた。


 その、手紙だという古ぼけ、茶色く変色した羊皮紙には、小さくて雑なラクィーズ文字がぎっしりと詰まっていた。久しく顔を合わせていないオロフへの挨拶、自身の近況、合わせて遺跡の調査の進展具合なんかが綴られている。文面をさらりと流し読む限り、オロフとは対等な付き合いをしていたらしい。そして、その手紙の所々に、シアンが弓に彫った鳥だという、素朴だが力強さのあるあの迷路のような独特の文様が解説つきで描かれていた。学者だというオロフの友人が、得られた数少ない遺物を模写した物らしい。字よりも描画の方が丁寧で上手だった。


「そう。遺跡を発見してから数年後だったかな、建物跡らしい場所から新しい遺物を見つけた、とか言ってな。なんの偶然か、恐らく泥にでも埋まっていたのだろう。それが条件が揃って硬質化し、ほぼ完全な木像の型枠を今の時代に残してくれたらしい。それを模写して送ってくれたのがこれだ。よほど嬉しかったのだろうな」


 確かに、シアンの弓の文様と遺物の模写はよく似ていた。だがそれが、マティアスの居場所に僅かな手がかりを得て高揚している今、何の意味があるのだろうか。話の方向がまだ見えなくてリュエルは、不思議な面持ちでオロフの言葉を待った。それは意外にすぐだった。


「それでな、ここに行ってきてもらいたいのだ。北西調査の旅の合間に。そのためにもシアンと発って欲しいのだ。旅の間、いつ遺跡に向かうはリュエルの判断に任せる」

「ええっ!?」


 この遺跡の話は確かに興味深いが、正直、時間を費やし、危険を増やしてまで実際に赴かなければならないほどのものでもない。と言うのがリュエルの本音だった。そんな気持ちが驚きとして声にも顕著に現れてしまっている。オロフには当然伝わったのだろう。微かに苦笑された。


「ああ、何のことかは分からないかもしれないが、シアンにとっては重要なことでな。頼まれてはくれないか? 理由は後でシアンに聞いてくれ」


 この話は初めから、できれば遠慮したい。が、他でもないオロフの頼みだ。

 リュエルは本当に渋々と、もう一度頷いた。








 乱暴な足取りで、リュエルはずんずんと塔を下る。

 塔から出たところで、森から帰ってくる騎士たちのざわめきとその姿に出くわした。その輪の中心にはシアンがいた。誇らしげに兎の耳を掴んでぶら下げているところを見ると、食料調達の為、騎士たちと狩に出ていたらしい。その人数は炊事係だけではなさそうだ。


 足を止めて訝しく見つめるリュエルに、シアンも気が付いたのだろう。兎を、隣を歩いていたハイゼに預けると、にこにこしながらリュエルの方に向かってきた。別れた騎士たちはリュエルに朝の挨拶の言葉を掛けながら横をすり抜け、談笑しながら塔の中へ入っていった。


「リュエル、おっはよー!」


 初めからしたら考えられないが、最近ではシアンはすっかり騎士たちとも打ち解けていた。騎士たちがシアンと王子の話をしたりするのかまではリュエルには分からないが、王子に似ていて障害だったのは初めのうちだけだったらしい。シアンは料理が得意だし、気も利く。オロフが言った通りになったのだ。騎士たちはシアンのことを面白がり始めて、打ち解けていった。逆に容姿の事は、おおいに存在を価値あるものにしたのかもしれない。


 ただシアン自身はといえば、王子の話をすると、最近はどこか自嘲気味に笑うので、似ている事は本人にとってはあまり嬉しいことでは無さそうだった。


「今日はさー、兎がこんなに獲れ……」


 両腕を大きく広げて嬉しそうなシアンの話をリュエルは無慈悲にぶった切る。


「今、オロフ様に伺いました」


 初めきょとんとしたが、それで全てシアンには通じたらしい


「あー。遺跡のことね」


 不機嫌どころか、リュエルは怒り始めていた。


「こんなときに遺跡に行くだなんて、あなたの都合なんですか? 遊んでいる暇なんてないんですよ!? どうしてこんなことに許可を下さったのか……。オロフ様のお言葉ですから従いますが、私としてはできたら取りやめるか、どうしてもと言うなら一人で行ってきていただきたいと思うのですけれども!?」


 その剣幕に、シアンは逆に笑う。


「そんなに怒らないでよー」









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